・森の園ミズガルズ 潜入編 - なぜ、ここにいる…… -
潜入任務はシェラハとメープルが主に受け持つことになった。
3日のうち2日を2人が受け持って、残りの1日を俺が担当した。
工房の運営という本業がある以上、3日に1日の時間を作るだけで俺には精一杯だった。
少年ユーリの姿では若すぎるので、薬の料を調整し16歳前後に見えるようにした。
一方でシェラハは髪を後ろで縛って、メープルはツインテールにしていた髪を下ろした。
それだけでだいぶ雰囲気が変わる。
娘たちならば気づけるかもしれないが、薬を知らぬ者からすれば、よもや一時的に俺たちが若返っているとは想像すらしないだろう。
「すみません……俺なんかのために」
「気にするな、バラン。学生生活なんて俺にはなかったからな、これはこれで楽しい」
「シェラハ様とメープル様も同じことを言っている」
「いや、メープルがいつもすまん……」
地道な戦いになった。
生徒に変装して、クラスメイトの立場から隣人を観察することは、元々の人柄を知る必要があった。
知らぬ者に本音を見せる者もいないだろう。
俺たちは慎重に観察を続けた。
アルデバランは守られている。
学校にではなく、俺たちの自由意思によって。
常に誰かが彼と付き添うようにローテーションを組んだ。
「放火魔!!」
「俺の本返せよ!!」
「卑怯者!!」
あんなに理想的な環境が整っていたのに、学校はいまギスギスとしている。
教室と私物を焼かれた怒りが行き場を失い、アルデバランを責めさせた。
後ろでそうなるように糸を引いている者がいるのではないかと、俺たちは疑っている。
だが生徒たちはいまだにヒステリーが収まっていない。
私情なのか、扇動なのか、なかなかに見分けが付かなかった。
・
夕方の授業は座学だった。
最後の授業が終わると、俺は間に合わせの長イスに腰掛けて教科書に目を通し、その傍らで生徒たちの様子を観察した。
あれ以降、新たな破壊工作の動きはない。
扇動めいた動きをする者をマークし、家に戻ったら共有をする。
生徒、用務員、警備、教師、この中の誰かしらが教室を焼いた犯人だ。
アルデバランのロッカーを開けるには鍵が必要で、敷地に入るには関係者である必要があった。
「シェラハ……?」
「あら、それってユリウス様のお嫁さんのことかしら?」
「な、なぜ、ここにいる……」
「来ちゃった……♪」
クラスメイトたちが皆教室から消えると、なんとシェラハがそこにやってきた。
彼女は白と水色の華やかな学生服でクルリと回って、危うく浮かび上がったスカートを恥ずかしそうに押さえ込む。
彼女は長イスの隣に移動して、密談のために距離を詰めた。
「どう?」
「やはり似合う……。俺がロリコンだったら危なかったな……」
「そ、そっちじゃないわよ……っ、ふふ、嬉しいけれど……♪」
ざっと焦げ臭い教室を見回した。
この匂いが怒りを増幅するのだろうと思い、徹底的に掃除をさせたのだがまだ匂いが残っている。
「やはり疑わしいのは、直接バランを責めるやつよりも裏で陰口を広めるタイプだな……」
「でも、みんなあの夜はアリバイがあるのよね……?」
「皆ルームメイトがいるからな……。お、おい……っ?」
「ふふ、どうしたの、ユーリ?」
シェラハが距離をさらに詰めてきた。
驚いて尻半分だけ逃げると、それも詰められた……。
「目立つ行動はよせ……。そもそも、なぜここに来た……」
「それがね、エヴァンスさんが家事を代わってくれたのよ。ふふっ、見抜かれていたのね」
「な、なぜ、おもむろに俺の手を握る……?」
「あたしね、その姿のユリウスになら積極的になれるの……。いつもよりちっちゃく見えるからかしら……?」
制服姿のシェラハにピッタリと寄り添われて、手を握られた。
流し目で様子を見ると、楽しそうに教室を見回している。
「あたし、学生さんに憧れてたの。ずっと家庭教師さんだったから……」
「それはそれで凄いな……」
「でも姿だけ若返っても、心までは無理ね……」
「俺の目にはそうは見ない。この上なく楽しんでいるように見える……」
「楽しいわ。でも。サンディたちみたいにはなれないわ」
シェラハは腰を上げた。
俺の手を引いてくるので、俺もイスから立ち上がってカバンを握った。
「実は……ユリウスを迎えに来たの。一緒に帰りましょ?」
「そういうことか……」
「ところでバランくんは?」
「アベルに任せた」
「そう、彼なら安心ね」
「最初はユリウスに似てると思ったけれど、ユリウスよりも真面目で誠実だもの」
「アイツは人を思いやれるいいやつだ。俺は嫌われているがな……」
「そうかしら? だけど尊敬もされているはずよ?」
「アルヴィンス師匠と俺の関係をさらに悪くしたような感じか」
「ふふっ、仲良しってことね」
シェラハと手を繋いだまま戸締まりをした。
廊下を進み、職員室に鍵を預けると、また手を繋いで学校を出た。




