・面接官メープルと入学志望者たち - パンツだよね -
「面接官殿、俺をバカしているのか?」
「あ、気に障った……?」
中には問題児になりそうな子もいた。
私はただ――
『あなたは餓死寸前です。パンを食べますか? それともドーナツを食べますか?』
と、聞いただけなのに。
なんでか、怒り出す子もいた。
「質問になっていない!」
「で、どっち? パンとドーナッツ、どっちが好き?」
「面接官殿っ、面接官の仕事をしてくれっ!!」
「ごめん……。男の子ならパンじゃなくて、パンツだよね……。パンツ、見る……?」
「見ない!!」
ユリウスをからかうのが生き甲斐の私は、知らず知らずのうちに面接官の才能に目覚めていた。
「おけ、君、合格……」
「んな……っ?!」
どうでもいいことで怒るキレキャラ系と、メモをまとめてその子も合格にした。
よっぽどじゃなきゃ、一人も落とす気なかったし……。
「面接官殿……。もしや俺の性格を分析するために、わざとこんな質問をしたのか……?」
「ううん、からかっただけ……」
面接官の立場を利用して、若者をからかって遊ぶのは凄く楽しい。
戸惑ったり、怒ったり、笑ったりしてくれた。
そんな子たちに最後に合格ですって伝えると、みんながビックリしてくれるから最高の遊びだった。
「アデル・ブラウン、魔法学科志望です。どうかよろしくお願いします」
「あれ……?」
でもその中に、凄く面白い子を見つけた。
第一印象はユリウスにそっくり。でもちょっと小柄。
彼は私が怪訝な顔をすると、落とされると思ったのか不安そうな顔をした。
「な、何か……?」
「へーー……」
資料を見ると、そこに大富豪アリの推薦とあった。
なんだか経緯がちょっとだけ読めた。
「もしかして……君、アリさんと、ユリウスの、息子……?」
「……違います」
卑屈そうな顔をしていたのに、その子は途端に不機嫌になった。
今のセリフ、何かとか問題あったかな……。
「君、ツワイク人……?」
「いえ、私はただの農民です……。いや、少し前までそれ以下の農奴でした……」
彼の卑屈な一面は、その一言だけでよくわかった。
私も酷い生まれだったから、手を差し伸べてあげたくなった。
日陰の人間は、日向の人間がまぶしい。
日向の人間に胸なんて張れない……。
「だ、だけど、私は……っ」
「うん、なーに……?」
「ここなら……人生を変えられると思って……っ、そう思って志望したんです! 惨めな農奴が、こんな立派な学校に入学しようだなんて、おかしいですか……っ!?」
私は返事ではなく微笑みで返した。
アリさんがこの子を推薦した理由がわかった。
ユリウスにそっくりな子に魔法の才能があって、どん底から這い上がろうとしている。
それを見てしまったら、助けてあげなきゃ嘘だった。
「私は元々、スラムのこそ泥だったよ……」
「あ、貴女が……? そうは見えない……」
「うん……。でも、今はユリウスとシェムシエル都市長の仕事を手伝ってる……。ミズガルズは、生まれも育ちも、関係ない……」
「よかった……」
こういう子にチャンスを与えたい。
それが私とユリウスの望みだ。
私が都市長に、ユリウスがアルヴィンスさんにチャンスを貰ったように、今度は私たちがこの子にチャンスをあげる番。
この子には、やさしくしてあげなきゃ……。
「あ、面接の仕事、忘れてた……」
「あ、すみません……。では、どうぞ!」
「おけ……。ではでは、どんな、色の、パンツが好き……?」
「…………え?」
「女の子のパンツは、何色であるべき……? 黒? 白? 無色?」
「……すみません。私はパンツにも女性にも興味がありません。勉強さえできればそれで十分です」
「はぁ……つまんない……」
「今更ですけど、面接官、なのですよね、貴女……?」
「でも合格……」
「ご、合格っ!? それっ、本当ですかっ!?」
勤勉、向上心◎。反面、真面目でつまんない。
ホモの素質あり、寮のルームメイトは俺様系を希望。byメープル
これでよし、と……。
「だって、落とす気とか、最初からなかったし……」
「な、なんだ……そうだったんですか……」
「これからよろしくね、小さなユリウス……」
あ……。そういうことか……。
理由はわからないけど、この子はユリウスが凄く嫌いみたい。
私が『小さなユリウス』と呼ぶと、従順でかわいかったその顔が鋭くなった。
ユリウスがやってきたことを思い返せば、残念だけど、どこで恨みを買っていてもおかしくなかった。
「ごめん、今のは失言……。よろしくね、アデル……」
「よろしくお願いします。チャンスを下さり、感謝しています……! いつか必ず、シャンバラにこのご恩を返します!」
「そう言ってくれると、エルフとして嬉しい……」
ユリウスの伴侶であることは言わないでおいた。
どうせいつか知れることだし、黙っておいた方がずっと面白そうだった。
アデルは合格バレバレの幸せな笑顔を浮かべて、この用務員室を出て行った。
そして私は次の面接者にこう質問をする。
「あなたはパンツを履くと死ぬ病気です……。さて、パンツを履きますか? 履きませんか?」
するとたっぷり1分近く、ヒューマンの女の子は思考を停止させてくれた。
パンツだけは絶対に履くと、答えてくれたので、その子も合格にした。
落とす気なんて、なかったし……。




