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・第一期生 - 敵地へ -

 シャンバラの北方のそのまた先に、ボレアスと呼ばれる都市国家連合がある。

 少し前までは交易でしか縁のない勢力だったが、今回はそこを訪ねることになった。


 ボレアスの議長は話のわかる男で、シャンバラとの政治体制の近さもあってか、今回の計画に理解的だった。すぐに話がまとまり、生徒を推薦してくれた。


 彼の推薦状を手に、俺とサンディは都市国家の1つ1つに転移して、有望な生徒をかき集めた。


 魔法の才能を持ちながらも、それを発掘する者が現れず持て余している者は、俺たちが想像しているよりもずっと多かった。


 ボレアスでの勧誘には3日がかかった。

 全13の都市を巡り、有力者と会い、生徒を発掘するのはとにかく時間がかかった。


「パパ、本当に行くつもり……?」

「これで和睦出来ればそれに越したことはない」


「そうだけど、そんなの無理よ……」

「そうだな。だが向こうも融和の姿勢を見せるこちらを突っぱねれば、大義名分を失うはずだ」


 最後にとある国に寄る。

 そこにはサンディを連れてゆくわけにはいかない。

 何が起こるかわからない敵地だからだ。


「まあいいわ。パパを捕まえられる人なんて、この世にいるわけないんだもの」

「わかってくれてありがとう。お前のおかげで、生徒候補たちとも付き合いやすかった」


「うん、うち楽しみ! 学校が始まったら、またタラとイェンとまた会えるのね!」

「……お前は、凄いな」


「え、何が?」

「お前は社交性の塊だ。俺にはない才能だ。では、都市長に報告を頼む」


「気を付けてね、パパ……」


 胸にしがみつくサンディを抱き締めた。

 満足すると彼女は後ろに跳ねて、颯爽と世界の裏側への扉を開いた。


「あ、おみやげ買わなきゃ!」


 金貨を握らせてやると、サンディはまたクルリと跳ねてどこかの土産物屋へと去っていった。

 俺も彼女とは反対側に扉を開き、地図を片手に目的地を確かめた。


 目指すはガルツランド。転移門強奪事件と強襲未遂を引き起こした敵国だ。

 俺はそのガルツランド人の生徒が欲しい。


 あれは躍進するシャンバラが恐ろしいから起きた事件だ。

 エルフを過剰に敵視する理由も、直接この目と耳で知りたかった。



 ・



 ガルツランドは広大な国だった。

 王都を高台から見下ろすと、それはいくつもの大教会が立ち並ぶ立派な大都市だった。


 整然と区画が整備され、水路が走り、城下町に壁はないが軍の砦が八方を守っていた。

 宗教色の強い軍国主義。なかなか付き合いがたい特徴だった。


 国土は肥沃だ。高台から別の方向を見下ろすと、青々とした広大な麦畑が広がっている。


 一目でわかるほどに豊かな国だった。

 こんな豊かな国が、なぜエルフをあんなに敵視するのか、高台からはまるでわからなかった。


 城下町に下りてみると何か妙だった。

 黒い髪と大柄な体躯を持つツワイク人を、人々は排他的な目を向けていた。


「おじさん、なに人?」

「俺か? 俺はツワイク人だ」


 王城を目指して進んでゆくと住宅街に入った。

 少年に声をかけられたので素直に答えると、親が間に飛び込んで来た。


「悪いことは言わないよ、帰りなよ、外人さん!」

「ばいばーい、おじちゃん!」


 子供を抱いて去る親を、あっけに取られて見送ることになった。

 また王城を目指して歩いた。


 すると今度は兵隊が集まってきて、俺を取り囲んだ。

 転移魔法使いに包囲など意味がない。彼らのしたいようにさせた。


「異国の男よ、ここで何をしている?」

「王の城に向かっている。何か問題があるか?」


「見たところ商人には見えないな。どうやって国境を抜けた?」

「俺は魔術師だ。転移魔法を得意としている」


 答えると、彼らの中で動揺混じりの反応があった。


「黒髪、痩せた長身、それに転移魔法に、白のトーガ……まさか」

「俺を知っているのか?」


「貴様、シャンバラのユリウスか……?」

「違う。シャンバラに属してはいるが、俺は今でもツワイク人だ」


 単身で敵地に乗り込んで来たバカに彼らはどよめいた。

 剣を下げる者もいれば、敵意を込めてしっかりと身構える者もいた。


「ど、どうしたものでしょうか、隊長……?」

「わ、わからん……。どうした、ものだろうか……」

「ならアンタたちの上司に会わせてくれ。俺はシャンバラの外交官として、ガルツランドとの融和を試みに来た」


 手に余る事態に、彼らは俺を取り囲んで付近の軍施設に案内してくれた。

 上司の男は髭の立派な紳士で、だが俺の姿を見て目を白黒とさせた。


 彼はそのまた上の人間に取り次ぐと言うので、応接間で休ませてもらった。

 若い監視が1人付いたが、そいつは俺を怖がらなかった。だから見張りに採用されたんだろう。


「なんだか調子が狂う。なんなんだ、この国は?」

「外から来た人はみんなそう言いますよ」


「なぜこんなに排他的なんだ?」

「なぜと言われても、僕たちにとってはこれが正常な状態ですから、なんとも言いにくいです」


「……なぜこの国はエルフとシャンバラを敵視する?」

「教皇猊下がエルフは敵だと、そうおっしゃられたからです」


 教皇がそう言うから、みんながみんなそう信じるのか?

 そう言ってやりたくなったが、今は彼の機嫌を損ねたくない。まともに話をしてくれるただ1人の人間だった。


「その教皇はそんなに慕われているのか?」

「ええそうです。シャンバラとエルフを倒さない限り、人類に未来はないと予言されました」


「……俺はそうは思わない。シャンバラの連中はみんないいやつらだ。あいつらがヒューマンを滅ぼそうとするわけがないだろう」


 少し言い過ぎただろうか。見張りの彼は黙った。


「この国では猊下を疑うことは許されません。そこは少し、言葉に気を付けた方が穏便かと」

「気を付けよう。わざわざ助言ありがとう」


 彼からもう少し情報を得たかった。

 だが応接間に貴族風の男がやってきて、冷たい目で俺を見た。


 よく見るとその男は、あの戦で俺が脅し上げて撤退させた将軍だった。


「我々をコケにしているのか、ユリウス……」

「今の俺は外交官だ。シャンバラはガルツランドと友好を深めたい」


「寝言を言うな、裏切り者め!!」

「アンタの意見は聞いていない。国王に会わせてくれ」


「お前をこの場で殺してやりたい。お前のせいで私は臆病者扱いだ……」

「それはアンタに責任を擦り付けたやつが悪いんだ」


 不機嫌な彼に外へと導かれた。

 馬車に乗るように言われ、素直に乗り込むと馬が進みだした。


 ガルツランドは二通りの考えを認めない国だった。


 真実は1つであり、エルフとシャンバラは悪である。

 そう教皇が言えば否定することなど許されない。ここはそんな国のようだった。


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