表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

295/308

・第一期生 - ゲフェンのイェン -

 ゲフェンで俺たちを待っていたのは、贅を尽くした宴会だった。

 向こうの転移門に着くなり王の宮殿に招かれ、王と王にひれ伏す女官たちを目の当たりにした。


「おお、ウェルサンディ姫! ようこそ朕の宮殿に参った!」

「お久しぶり、王様! あれっきり頭ツルツルのままなのね!」


 女官たちは震え上がった。

 ゲフェン王は俺たちに対しては大らかだが、この国においては絶対的な君主だ。


「うむ、おかげさまで快適なものだ。水虫も治り、女官たちもユリウス殿に感謝しておる」

「さすがうちのパパでしょ!」


「うむうむ、ところでウェルサンディ姫や……」

「何、もったいぶって?」


「ますます美しくなったな。よければ朕の妻に――」

「ゲフェン王。国際問題にしたいなら、その言葉の続きを言うといい」


「ワハハハハッ、冗談だよ、ユリウス殿!」

「そうですか。ではここは一旦冗談ということにしておきましょう」


 この国にサンディを連れて来たくなかった。

 頭ツルツルの脂ぎったオヤジは、うちのサンディにまだ色目を使っていた。


「おお、それよりもちこう、ちこう寄れ! サンディとユリウス殿のために、最高の料理と酒を用意した!」

「パパ、がんばってね」

「ファルクのバカ騒ぎの次がこれか……」


 遠慮したいがそうもいかない。

 俺たちはゲフェン王の足下に用意された席に座った。


 ここでは座布団と呼ばれるクッションがイス代わりだった。


「これほど近くに人を寄せて会食するのは、はて何年ぶりだろうか」

「あら、そうなの?」


「あまり近付けさせると、暗殺されてしまうからな! ハハハハッ!」

「ふふっ、王様の冗談は独特ね!」


 きっとただの体験談だろう……。

 俺たちはゲフェン料理に手を付けた。主賓はこの通りだが、料理の方は驚きの美味さだった。


 エビを使った甘辛い料理や、揚げた肉と野菜を炒めた物、サンディが喜びそうな甘ったるいゼリーもあった。


「おい、ユリウス殿にお酌をしろ!」

「いや、勝手にやるからそういうのは……」


「イェン、何をやっている! 親の首をはねさせるぞ!」


 勘弁してくれ……。

 さすがのサンディも今のセリフにはドン引きだった。


 俺の隣にイェンと呼ばれる髪の長い黒髪の少女がやってきて、酒を注ぎながら気の強い目で俺を値踏みした。


「どうぞご自分でご自分の首をはねて下さいまし、お父様」

「へ……っ?!」

「娘なのか……? たちの悪い冗談だ……」


 イェンと呼ばれたその娘は、この国の王女だった。

 癖のないまっすぐな髪を額と腰で切り揃えた、まるで人形のように美しい少女だった。


 見たところの年齢は15歳くらいだろうか……?


「イェンは朕の11番目の子だ。性格は誰に似たのやら苛烈だが、いつか朕の首を取るかもしれない才女とも呼ばれている」

「ご希望なら今すぐ、その首を斬り落として差し上げますわ」

「わ、わぁぁ……」


 どういう親子だ……。

 宮廷を震え上がらせる修羅の子は、修羅ということなのか……?


「ウェルサンディ様、父が大変ご迷惑を」

「あ、それは大丈夫。あたし、王様みたいな渋いおじさん好きだから」


「……そ、そう、ですか? 汚らしい水虫のハゲ男かと存じますが」

「この通りの口の悪い娘でな、近くに置いておくと胃がキリキリと痛む……」


 それは自業自得だろう。


「彼女をうちの学校に?」

「え、そうなの!?」

「うむ、女に勉学をさせる趣味はないのだが、イェンがどうしてもと言うのでな」


 イェンに目を向けた。

 彼女は苛烈な態度を解いて表情を消すと、ただ静かに頭をこちらに下げた。


「イェンさん、苦労してるのね……」

「ゲフェンはそういうお国柄ですので。どうかよろしくお願いします、サンディ様、ユリウス先生」


「ええ、よろしく!」

「よろしく、イェン。君のような人にチャンスを与えたくて始めたことだ。喜んで歓迎しよう」


 ゲフェン王は眉をしかめていた。

 『女に余計な知恵を付けさせる後が面倒だ』と言い出しそうな様子だった。


「王よ、俺としては彼女のような向上心のある人間を迎えたい。学びたいという女性が他にいたら、こちらに回してくれ」

「わかった、そうしよう」


 その後はゲフェン王と並んで酒を交わした。

 それも異例なことのようで、女官たちがギョロギョロとした目で俺を見ていた。


 サンディとイェンが席を離れ、さすがに酔いが回ってクラクラとしてくると、王は人払いをさせた。


「ユリウス」

「なんだ、ゲフェン王?」


「もし朕が暗殺されても、次の王と仲良くしてやってくれ」

「それは構わないが……。アンタ、立場が危ういのか?」


「常に危うい。この国はこういう国だ。民は強者に支配されることに慣れ切っている。この国の者は、独裁者に支配されるのが好きなのだ」

「それは泣き言か?」


「ああ……朕はシャンバラが羨ましい。ファルクのような民と王が近い国に憧れる。ユリウス、朕のようにはなるな。どうか上手く、シャンバラを導くのだぞ……」


 独裁者が独裁政治にうんざりしているだなんて、女官たちには絶対に聞かせられない話だ。


「そのための学校だ。イェン姫のことは任せてくれ」

「ありがとう、ユリウス。仰々しい歓迎しか出来ぬが、またいつでも来てくれ」


「サンディに色目を使うのを止めてくれたらな」


 俺たちはゲフェン王国でイェン姫と出会った。

 それから翌日、俺たちは次なる目的地に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ