・第一期生 - ファルクのモゲミア -
「ビックリした……タラさん、女の子だったのね!」
「貴女がサンディ様ですか」
「ええ、よろしくね、タラさん!」
サンディが握手を求めると、彼女は少しの間を置いてからそれに応じた。
王の手前仕方なしといった様子だった。
「許してやって下さい、兄上。タラからすれば、兄上は父の仇なのです」
「ユリウス様、私の父はあの戦争でツワイクの魔術師に暗殺されました。最近、それがユリウス様だとやっと判明したのです」
サンディは戸惑った。
パパがそんなことするはずないと、否定を求めてこちらに振り返った。
「たぶん俺だ。すまん」
「戦場で起きたことです、気にしていません。勉学の機会を下さり嬉しく思います」
どこまで本音かわからない口調の硬さだった。
だが剣の腕はよさそうだ。わざわざ選別されただけあって魔法の素養も感じられる。
「こちらこそ参加してくれて嬉しい。父を殺めたことは――」
「気にしていません」
『これ、メチャクチャ根に持ってる反応だよ!』と、サンディが言いたそうだった。
「借りは返す。タラ、どうかシャンバラに来てくれ」
「……そこの子も、第一期に加わるのですか?」
「うち? うん、そうだよ、よろしくね!」
二度目の握手をタラは不機嫌そうに受け入れた。
「それでは兄上! 今日は……オ、オドに……滞在、してくれる約束ですよね……?」
いきなり魔剣を手放されるとビックリする。
胸を張っていた王は、また気弱な内股の猫背に戻った。
俺たちは今日1日、オドに滞在して人材発掘をする予定だ。
「ああ、光る人材を探して町を歩く。一番大きな学校に入る許可もくれ」
「えと……うち、今日はタラと過ごすわ! うちはいいから、王様と一緒にお出かけしてあげて!」
「な……っっ」
サンディの行動にタラが絶句した。
オド王はすっかりその気だ。
2人で町を歩けるとウキウキとしていた。
「行きましょ、タラ! だってうちら、もうじきクラスメイトになるんだもの。仲良くしてね!」
「で、ですが、わ、私は……」
「仇の娘は嫌い……?」
「……いや、アンタは無関係。あたいらの親たちが、勝手に殺し合っただけさね」
最初はどことなく不安だったが、タラとサンディは上手くいきそうだった。
俺の方は、まだ内心恨まれているのかもしれないが……。
・
オドの若者はチャンスに貪欲だった。
シャンバラで教育を受けたいと、積極的に入学を望んでくれた。
だが急なことだ。
これといって飛び抜けた人材も見あたらなかったので、本校舎の完成を待ってもらうことになった。
ちなみにオド王は、俺の右手を握って離さなかった。
幸せいっぱいの笑顔で、この思わぬ余暇を喜んでいてくれた。
「僕もお兄ちゃんの生徒になりたい……」
「暇が出来たらシャンバラに来てくれ、いくらでも付き合おう」
「ありがとう、ユリウスお兄ちゃん……」
王という立場上、彼は長く国を離れることは出来ない。
学校の生徒になるなんて叶わぬ願いだった。
・
こうして一日が終わり、楽しい一晩の後に翌朝となった。
転移門の前までオド王と女官に見送られた。
次は滞在先はファルクだった。
あの豪快極まりない王と会話しなければならないと思うと、少し気が重かった……。
・
転移が完了し、ファルク王と謁見した。
あの大臣は相変わらず、豪快なファルク王に振り回されているようだった。
「おおっ、酒の友よっ、ユリアスッッ!! 再会を祝って一杯飲もうぜ!!」
「それは仕事を終わらせてからにする。久しぶりだ、ファルク王」
「ああ~? 飲みに来たんだろ~っ? おおっ、サンディッ、もう酒は飲めるのかっ!?」
「パパが頭抱えてる……」
「陛下、ユリウス様は学校の入学者を探しにこられたと、今朝あれほど説明したではありませんか……」
「あ? そうだったか? ……おおっ、あれかっ、酒に滅法強ぇ若造を取り揃えておいたぜっ!」
この国、大丈夫か……。
頭を抱えて言葉を失っていると、謁見の間に青年が入ってきた。
「叔父貴、コイツがユリウスか!?」
「おうよ、コイツがあのモンスターカクテルと杜氏様よ!」
「パパは錬金術師よ」
ファルク王推薦の人材は、紹介者を考えればまあ納得の人柄だった。
王を叔父貴と呼ぶのだから王族なのだろう。ファルク王に似て毛深い身体をしていた。
「お、かわいいじゃん! 誰?」
「あたしはウェルサンディ、パパの娘。貴方の同級生よ」
「叔父貴……俺、やっぱ学校行くわーっ!」
「ガハハハハッ、ユリアスが怖ぇぇ~目でテメェを見てるぜ、モゲミア!」
「睨んでなどいない。だが娘に何かしたら、それは外交問題に発展するだろう」
モゲミアはまだ若いのにおっさんくさい顔をしている。
そこが俺は不安だった。
「パパッ、おとなげないことしないで!」
モゲミアにはこれといった魔力を感じなかった。
だとすると、学があるのか……? いやそうは見えない。
「娘さんかわいいっすね、お義父さん!」
「モゲミア」
「なんですか、お義父さん?」
「その気になれば俺は、お前を次元の挾間に蹴り落とすことも出来る。もし、サンディに何かしたら、二度とこの世界に戻れないようにしてやる」
威圧にモゲミアの表情から余裕の笑みが消えた。
俺は本気だった。
「ガハハハハッッ、ユリアスをマジギレさせるなんて、オメェやるじゃねぇかよ!! まっ、一杯やろうぜ!!」
「アンタも人の話を聞け……」
ファルク王国での成果はボチボチだった。
国家そのものが体育会系というか、勉学や魔法とはほど遠い環境にあった。
夜になると城中を巻き込んだバカ騒ぎの大宴会が始まって、どこもかしこも酔っぱらいだらけになった。
俺とサンディはほどほどにして、与えられた客室で眠った。
・
翌朝、ファルク王もモゲミアも見送りにこなかった。
探すと玉座にひっくり返っていびきを立てていたので、俺たちは書き置きだけ残して城を出た。
「申し訳ありません、本当に申し訳ありません……」
「城の連中、みんな馬鹿なんです!」
転移門で仕事をしていたまともな連中は、俺たちに平謝りをしてくれた。
ファルク王国はシラフが酔っぱらいに振り回される国だった。
「いや、まあほどほどに楽しかったよ」
「ええ、この国のみんな、明るくてうちは大好きよ! モゲミアもお猿さんみたいでかわいいもの」
「猿……? 好みじゃないのか……?」
「え、全然」
安心した。
俺たちは次なる目的地ゲフェン王国に転移した。




