・錬金術師ユリウスの失敗 - 何も問題なかった -
「あらんっ、いらっしゃい、ユリウスちゃん♪」
「ようこそギルドへ。何か入り用ですか?」
訪ねてみると、何も問題なかった。
むしろかつてよりはなはだに著しく改善しているとも言える。
美形の受付嬢(♂)×2と触れ合える愉快なギルドから、可憐な受付嬢(♂)×2が迎えてくれる華やかなギルドになっていたのだから。
「その口調、間違いなくカーマスだな……」
「凄い効果ね……。カーマスさんが、こんなにかわいらしくなるなんて……! あ、あたしったらごめんなさい……」
どこで手配したのやら、2人はひらひらとした少女趣味なドレスを身にまとっていた。
その姿は若返りの薬により少年に戻っており、少女と呼んでも差し支えのない可憐さを持ち合わせていた。
「いいわぁ~、最高よ、ユリウスちゃん……っ♪ みんなの視線が、あっ、ああっ、快感よ……っ♪」
「長年の夢が叶いました。ありがとうございます、ユリウス様……」
カーマスのあのクネクネとした動きも、少女がするならばありだ。
だがその中身は長身痩躯のカマカマ野郎だと思い返すと、難しい顔をする他になかった。
「1つ聞くが、あの薬をいくつ飲んだらその姿になったんだ?」
「1つよ」
「たった1つでギルドのアイドルになれました」
それは妙だ。
聞いた話によるとカーマスは既に100歳を超えているという。
ならば俺の5、6倍を飲まなければあの姿にはならないのではないか?
「なぁに、ユリウスちゃん……スカートの下が気になる……?」
「もちろん、生えていますよ」
シェラハが嫌な顔していた。
いつでも耳を塞げるように腕を上げていた。
「妙だな、それは計算が合わない……」
「そうね、でもいいじゃない! スベスベのお肌、この高い声、○○毛だってちょろっとしかないのよっ、オホホホホホッッ!!」
間違いない。可憐な美少女に見えるが、コイツはあの自然に下品なカーマスだ……。
「あら、何かご不満?」
「ああ……。カーマス、アンタは下品過ぎる……」
それに、俺の方は1本も生えていなかった。不公平だ。
しかしこの薬、単純に人を若返らせるのではないのかもしれない。
俺が欲しいのは若い姿ではなく、老いを止めることだ。
「帰る。何か症状が出たら報告してくれ」
シェラハの手を引いてギルドを出た。
俺は出た後も彼女の手を握ったまま離さなかった。
「ありがとう、あたし、どう受け答えたらいいかわからなくて……」
「俺もだ。あいつらとまともにやり取りをしていたら、いずれ発狂する自信がある」
「あ、そうだわ。せっかくだからバザー・オアシスに寄っていきましょ。たまには2人で夕飯の買い物をしたいわ」
「喜んで付き合おう」
「ふふっ、よかった」
しかしいかんな、これは。
この身体だと、ますますシェラハに魅力を感じてクラクラとする……。
肩、脚、胸、手のひら、なにもかもがビッグサイズだ……。これは、危険だ。危険な薬だ……。
「薬の作用さえ把握していれば……」
「していれば?」
「同じ薬をお前に盛っていた。この小さく低い視点からお前を見ていると、刺激が強すぎる……」
「あら、あたしを子供にする気?」
「俺と同じ苦労を味わってくれ。何もかもが大きく見えて、驚きに満ちている」
バザーオアシスにはネコヒト族が多い。
大きくなったネコヒト族は普段よりかなり強そうに見えた。
俺たちは夕飯の材料を買って、かしましい子供たちが待つ我が家へと引き返していった。
・
夜。ベッドであぐらをかいて本を読みあさっていると、そこに客がきた。
メープルとグラフだった。
「本当にこの美少年がユリウスなのか……!?」
「うん……毛も生えてない、ツルツルボディだったって、姉さんが……」
いぶかしむ少年を2人の美姫が左右から囲んだ。
特にグラフの様子がおかしい。彼女は先ほど帰ってきたばかりで、少し汗の匂いがした。
「ユリウスユリウス……」
「なんだ?」
「合法ショタになった気分は、ど……?」
「最悪だ」
「これは、クッ……アリ、だな……」
白百合グライオフェンと呼ばれていた女に、ふいに下顎を撫でられた。
「私は元の方がいいけど……。これはこれで、ま、別腹でアリかも……」
「可憐だ……中身がユリウスだなんて、信じられない……」
俺をユリウスと見分けてくれたことは嬉しい。
だが彼女たちから、歪んだ何かを感じるのは気のせいだろうか……。
「ユリウスユリウス……踊って?」
「お前はいつだって唐突だな……。断る」
「フフフ……僕は決めたよ。今夜はここに泊まる」
女ったらしの女に膝を撫でられた。
激しく困惑する俺を見てメープルも同じことをした。コイツはそういうやつだった。
「白百合のグライオフェン」
「なんだい、かわいい子猫ちゃん……」
「たとえ相手が伴侶あっても、そういうことには合意が必要だと思うのだが……?」
「すまない。だが僕の気持ちも理解してくれ。僕は本来、ユリウスのようなたくましい男は好みではない」
「それは旦那に言う言葉か……?」
「だけど君への好意は本物だ……。そんな僕の前に、僕の好みの姿をした君が現れたら、フフフッ、いったいどうなると思うかい……?」
今のように興奮するだろうな。
ピッタリとメープルとグラフに左右を囲まれて、俺はベッドへと仰向けに寝そべった。
「ああ、ユリウス……もし僕のことを思うなら、ずっとその姿でいてくれ……」
「姉さんも、なんだかんだ……気に入ってた……。オネショタ、尊い……」
俺は彼女たちの前ではたくましい俺でいたい。
だが、今夜の俺は合法だった。
「なんか、犯罪臭い……。けどそれがゾクゾク……」
「ありがとう、ユリウス……。僕のために合法になってくれて……」
酷い夜になった。とだけ、断っておこう。
姿が変わると人の態度も変わる。俺はその晩、特にグラフの意外な側面に激しく振り回された。




