表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

289/308

・錬金術師ユリウスの失敗 - 俺はユリウスだ…… -

 目覚めるとそこにシェラハがいた。

 俺に膝枕をしてくれて、ぼやける視界の向こうで俺を見下ろしていた。


「大丈夫……? もう、心配させないで……」

「すまん……」


 その昔、このやさしさに俺はコロッとやられた。


 人間不信になりかけていた当時の俺にとって、包み隠さないメープルと、慈愛にあふれるシェラハの姿はただそれだけで魅力的だった。


「んふふふっ♪」


 ただ――ぼやける視界の向こうの、シェラハだと思っていた物体が、野太い声で笑いながら俺の額に手を置いた。

 その手のひらはやわらかだったが、明らかに、女性の手の大きさではなかった……。


 目の焦点が戻ると、慈愛の微笑みを浮かべながら、俺に膝枕をするカマカマ野郎の姿がそこにあった!


「うわっ、お、お前っ?! え……っ?!」


 俺は二重に驚くことになった。

 自分の声が妙に甲高くなっていたからだ。


「ええ、そうでしょうとも。あたしもビックリしたわぁ~。まさか、ユリウスちゃんがいたいけな青少年になっちゃうだなんて♪」

「嘘、その子……本当にユリウスなの……?」


「だから言ったじゃない、自分で自分の若返りの薬を試したって」


 カマの膝から脱出し、立ち上がると視点がかがんだかのように低い。

 シェラハは目を丸くしていて、いつもよりもずっと大きく感じられた。


「成功……いや、だが……この身体は……」

「んふふっ、若返り過ぎたみたいね。ほら触ってごらんなさい、お肌スベスベよぉ~っ♪」


 顔面を抱えると、スベスベの感触に驚いて手を引っ込めることになった。

 シェラハはまだ俺を疑っている。不思議そうに首を傾げてこちらに寄ってきた。


「ユリウスなの……?」

「だからそう言っている」


 あの日、メープルと買った白と金糸のローブが証拠だ。

 どこもかしこもぶかぶかで、視線を落とすと胸元がはだけていたので急ぎ整え直した。


「顔はユリウスにそっくりね……」

「信じてくれ、俺だ!」

「それは無理な話じゃないかしら。だって、まるで別人のようにかわいいんだものっ、んもうっ♪」


 カマカマ野郎が人を抱きすくめようとしてきたので、蹴りで迎撃した。


「ああんっ……美少年に蹴られたわぁ……最高っ♪」

「シェラハ、まずはこの子供の教育によろしくない変質者にお帰りいただこう」

「ユリウスのまねをしているの? ふふっ、似ているわ」


「本物だと言っている!」


 カーマスの目当ては若返り薬だ。

 言われてそろそろお暇しようとでも考えたのか、瓶から薬を摘まんでいた。


「待て、それを使うのは俺の経過を見届けてからにしろ!」

「んふふふっ、若返って誰を誘惑しようかしらん……っ♪」


 カーマスは鍛え上げたたくましいその身体で、あまりに力強いスキップで飛ぶように工房から消えていった。


「坊や、家はどこかしら?」


 シェラハは俺が俺であることを信じてくれなかった。

 俺より大きな身体で俺の手を引いて、工房から居間の方に俺を連れて行った。


「クッキーは好き?」

「まあまあ好きだ……」


「そう、ユリウスみたいなことを言うのね」


 説明を諦めて俺は自分の考えに没頭した。

 実験は成功だ。成功したのだが、家族が俺を信じてくれない。

 このまま経過を観察し、自分がどうなるか様子を見よう。


 魔力は落ちていないようだが、このままでは身体が小さ過ぎる。


「ただいま、ママ! あれ、その子誰?」

「父の隠し子かー?」

「えっっ?! お、お父さんは、う、浮気なんてしないよ……た、たぶん……」


 ウルド、なぜそこでドモる……。


「父はモテるからのぅ~。で、そこの小僧、母は誰じゃ?」

「俺はお前の父親ユリウスだ」


「ワハハハハッッ、面白いやつじゃのぅ! 気に入ったっ、ワシの弟分にしてやるっ! ……本当に弟かもしれんがなっ!」


 大人の身体だった頃は大らかに受け入れられたが、小さくなると我が娘ながらムカつくやつだ……。


「サンディ、俺だ、ユリウスだ……。お前なら俺を信じてくれるだろ……?」

「パパが若返るなんて悪夢よ! うちのパパはこんなお肌つるつるのショタっ子じゃないわ!」


「ウ、ウルド……」

「お父さん、なの……?」


 ウルドだけが信じてくれた……。

 だがローブの肩の部分がまたずれると、悲鳴を上げて顔をおおった。


「まっ、父でも隠し子でもどっちでもよかろうっ!」

「うち的には隠し子の方が面白そうで好きかも! 弟、欲しかったんだぁ!」


 実験は今のところ大成功だ……。

 早急な説得を諦めた俺は、シェラハが運んできた茶を口にして、シェラハが作ったクッキーをかじった。


「どう? ママのクッキー美味しいでしょ?」

「ああ、いつもより美味い」


 子供の身体になると、甘さに対する感覚が鋭くなるのだろうか。

 いつも美味しいクッキーは、少しずつ大切に食べたくなるほどに絶品だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ