・錬金術師ユリウスの失敗 - カマカマカマ -
投稿が1日遅れとなってしまい申し訳ありません。
あの粘土のように固まる宝石は、都市長により[クレイジェム]と名付けられた。
俺は都市長の要請に従ってサファイアにアメジスト、瑠璃や孔雀石などをベースにした試作品を作り、彼はツワイクより招いた建築家にそれを見せた。
するとその建築家は都市長の目の前で、図面を破り捨てたそうだ。
彼は強度の高いコンクルと鉄鋼を基礎建材にして、その上に瑠璃か孔雀石、あるいは翡翠をベースにしたクレイジェムを塗り込むプランを提案した。
それならば強度も十分だ。
俺と都市長も提案に賛成し、彼が図面を引き直すのを待つことになった。
ちなみになぜツワイク人が学校の建築家として招聘されたかというと、単純に祖国ツワイクの建築学が他国より発達していたからだ。
広大な土地を持つシャンバラと、都に国家の機能を集中させているツワイクでは、建築学発展の土壌そのものに大きな差があった。
俺は今でもツワイク人だ。同胞の活躍が誇らしかった。
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「あらやだ、最近渋くなったんじゃない……んふっ♪」
「出たな、妖怪……」
「んもうっ、やって来たのはそっちでしょ。いらっしゃい、ユリウスちゃん♪」
「こちらへどうぞ。ウィスキーでいいですか?」
いつもの冒険者ギルドに立ち寄ると、カマとカマに左右を囲まれた。
シャンバラのカマと、俺がかつてスカウトしてしまったツワイクのカマだ……。
左右から手を引かれてカウンター席に座らされ、本当にウィスキーの水割りを出された……。
ツワイク出身の彼には、手の甲に無言で手を置かれた……。
「んふふ……それで、本日のご注文は?」
「若返りの薬を試作する」
「まあっ、素敵ぃっっ!! また挑戦するのね、ユリウスちゃんっ!!」
「素晴らしい……! ぜひ私たちもあやかりたいものですね!」
カマとカマは鼻息を鳴らして身を乗り出してきた。
若返り。それは古今東西の錬金術師が試みて、探求の果てに挫折を味わったであろう到達不能の夢だ。
それでも俺はこの薬を探求したい。
色々な意味で、このままでは俺の身体がもたないからだ……。
メモを差し出すとカマとカマは大股になって、ギルドの大倉庫へと飛び込んでいった。
「あれ、受付のカーマスさんは?」
「カーマス……? ああ、あの男、そういえばそんな名前だったな」
カーマスの代わりにカウンターの内側に回り、やってきた若いエルフの男の前にバインダーを置いた。
「迷宮に行くのか?」
「よ、よく見たら貴方ッ、ユリウス様じゃないですかっ?!」
「そういうアンタはここらで見かけない顔だな。もしかして新人か?」
「え、ええ……」
「なら無難な土の迷宮……。いや、あそこにはルインタートルがいたか……」
「あの、ユリウス様……カーマスさんたちは……?」
「俺のわがままに付き合ってもらっている。お、今ならマク湖の樹の迷宮が空いているな、懐かしい……」
戸惑う彼と言葉を交わしながら、迷宮参加の手続きをカマの代わりに進めた。
後は受付嬢(?)のサインさえ入れればOKというところで、ようやくだ。
ようやくカマとカマが大倉庫から戻ってきた。
「あらやだごめんなさいっ、あたしたちったらつい♪」
「若返れるものなら、若返りたいものですね……。あの頃はヒゲの手入れもいらなくて、それに何より……男の子がみんな私にちやほやしてくれました……」
「わかるわぁーっ♪ それに下の毛もつるつる――」
「新人がドン引きしてるから、そのへんにしとけ……」
バインダーを突きつけると、カーマスはさらっと見ただけでサインを入れた。
「あの水涸れももうずいぶんと昔のことね……。懐かしいわ……」
「そうだな」
だがあそこにはもう近づきたくない……。
あそこには、水浴びをする美しいシェラハ像と、それをのぞく愚か者の像が存在する……。
「それで、探しに行った品物は……?」
「少し見つからない物があったわ。手配しておくから、ユリウスちゃんは先に帰ってなさい」
「そうか……。ならすまん、手間をかける」
「いいえ、それがあれば我々も若返って……フフッ、フフフフッ……」
「ええっ、若い子を誘惑し放題ねっ♪ ……あたしね、若い頃は、マジで美少女だったんだからっ♪」
「カーマス、アンタは今でも十分すぎるくらいのイケメンだ……」
クラクラしてきたので新人冒険者を捨てて、俺は逃げるように自宅へと引き返した。
道中、なぜ新人の彼は俺の顔を知っていたのだろうと疑問に思った。
しばらく考え、ふと導き出された答えは――マク湖だった。
マク湖は今や観光名所だ。
そこで人々は錬金術師ユリウスが、名声の割に親しみがいのあるスケベ男だと知るのだろう……。
メープルに黙って、メギドジェムを使ってでも破壊しておけばよかった……。




