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・学校を作ろう、建材編 - 再誕 -

「ユリウス、出来たよ……」

「やっとか。ずいぶんと熱中――な、何をやっているっっ?!!」


 メープルの静かな声に振り返ると、そこに湖水へと下半身を沈めたメープルがいた。


「へへへ……なんか、ドキドキするね……」

「服を着ろっ、服を……っ!」


「水浴び、なのに……?」

「お、俺はもう上がる……っ!」


「ユリウスは英雄……でも、ヘタレ……」

「どうとでも言え……っっ」


 オアシスをメープルに譲り、俺は全裸で水の上を走った。

 岸辺で水を払っていると、砂漠の国が恋しくなった。


 あの熱い日差しと乾いた風が水分を飛ばしてくれていたのに、森となった今ではタオルが欲しかった。

 服に袖を通して工房の前に戻ると、そこにメープルの手並みがあった。


 それは水晶のネコヒト象だった。

 よく透き通るその性質から造形を掴みにくかったが、見ると細部の毛のうねりまで作り込んである。


 触れてみると非常に硬い。

 余った水晶コンクルがボールのようにいくつか丸められていたので、俺はそれを叩きつけたり、炎の魔法にかけてみた。


「火にも強く、強度も完璧。水晶の外見と、コンクルの強度をかね揃えているな……」


 今すぐ都市長をここに呼んでもいいが、こうなると他の宝石で試したくなってきた。

 俺は工房に戻り、今度は水晶ではなくトパーズを主材料にして、同じことが出来ないかと確かめた。


 結果は、金色に透けるキューブの完成だ。


「ふぅ、凄く、気持ちよかった……」

「お帰り、メープル。これを見て――んなっ、ふっ、服を着ろっっ!!」


「着てるよ……? タオル……」

「タオルは服じゃない……っ!」


「フフ……エッチ……♪」


 メープルはタオルの下の方をピラピラさせて人を挑発した。

 だがそれは金色のキューブに気付くまでだ。


 メープルはそれに飛び付き、嬉しそうにまるで少女みたいな歓声を上げた。


「綺麗っ、他の宝石でも試してくれたのっ!?」

「ああ、水晶で出来るなら他……ほ、ほ、ほか……ふ、服を……服を着てくれ……」


「あ、ごめ……。つい、興奮して……へへへ♪」


 一瞬だけ、一瞬だけのぞき見ると、メープルは黄金のキューブに目を輝かせていた。

 そんな姿を見ていると、昔のことを少し思い出す。


 初めてこのシャンバラに来たあの日、迷宮で宝石を手に入れたときも彼女はこうだった。

 宝石を夕日に掲げて夢中になっていた。


「都市長を呼んでくる。それまでに服を頼む……」

「おけ……」


 気持ちを落ち着かせるのもかねて徒歩で、俺は道を歩いてすぐそこの市長邸を訪ねた。

 いつもならアポなしで飛び込むところを、段取りを踏んで彼の書斎を訪ねた。


「水晶とトパーズですか……?」

「ああ、こればかりは見た方が早い」

「すみませんがユリウスさん、少しお待ちいただけますか? 都市長には早急に終わらせなければならない書類仕事がありまして」


 そう言うので俺は仕事を手伝った。

 何、彼の代わりに書類を判断して、サインを入れる書類とそうでない書類を仕分けするだけのことだった。


 終わるとスレイ義兄さんも一緒に連れて、工房の前に彼らを案内した。


「強度はコンクルにやや劣ると思う。だが装飾性が極めて高い」

「強度のある水晶ということですか? それは素晴らしい」


「ああ。屈折率の方は本物の宝石が勝るが、砂の分だけこっちはかさ増しされている。ほら、アレだ。あのネコヒト像を――」


 後ろ歩きで都市長とスレイ義兄さんに解説して歩いた。

 そろそろ見える頃だったので正面を向き、彼方のネコヒト像を指さす。


 ……いや、そこまではよかった。

 金色に透ける何かが、庭先にそそり立っていた……。


「ユリウスさん、あれはネコヒトにしては丸くありませんか?」

「あ、ああ……」

「気のせいか、どこかで見覚えがあるような気がします……」


「ええ、実は私も。どこかで見た造形なのですが……」


 さらに近付くとその正体が白日の物となった。

 あれは、例のアレだ……。


「遅かったね、ユリウス……フフフ……♪」

「お、お前……お前な……。お前……これだけは止めてくれって散々言っただろっっ?!」


「帰ってくるの遅いから……つい……?」


 それはあのオーク像だった……。

 メープルがユリウス像だと言い張って聞かないオーク像の、トパーズタイプだった……。


 オーク像は日の高い夕日に照らされてきらびやかに輝いていた。

 でっぷりとしたビール腹が光を複雑に反射させて、まるで子供でも宿っているかのように腹だけ目立って光っていた……。


「なんてことすんだよっ、お前はーっっ?!!」

「学校に飾ろ……? これが、シャンバラの英雄ユリウスの……真の姿ですって……」


「ダメだ、捨ててきなさい……」

「お願い……一生のお願い……。飾らせて……?」


 都市長とスレイ義兄さんは何も見なかったことにして、ネコヒト像を見て談笑をしていた。

 俺は困り果てた嫁さんに頭を抱えて、強度からして破壊不能のユリウス像に深いため息を吐いた……。


「ダメ……?」

「ダメだ……。こんなの見たら、子供が泣いて逃げ出すぞ……」


「真の姿なのに……」

「俺はこんなんじゃない……っ!」


「でも、ベッドの上ではこんな感じ……」

「捨ててきなさい……」


 俺も何も見なかったことにして、都市長たちとの打ち合わせに入った……。



 ・



後日談


・小さな転移魔法使い


「なーに、メープルママ?」

「うん、ごめんね……こんなところに連れ出して……」


 メープルママに招かれて、ライトボールの明かりに照らされながら森に入った。


「全然いいよ。それで相談って何……?」

「うん、あのね……ユリウス……」


「えっ、パパに嫌われたの……?」

「違う。ユリウスは、私と姉さんに今もぞっこん……」


「はぁぁっ、よかったぁ……。え、じゃあ何?」

「まずはこれ……見て……」


 もう1人の転移魔法使いの使い手に、私はユリウス像7号トパーズタイプを見せた。

 いくつものライトボールで照らして、過去最高傑作を紹介した。


「あっ、これって庭にあるオークの像よね! あははっ、お腹が前より出てるぅーっ!」

「リアルを反映させてみました……」


「リアル……? それで、これの感想を言えばいいの? すっごく面白いっ、さすがメープルママ!!」

「へへ……サンディなら、わかってくれると思ってた……。それでね、サンディ……」


「うんうんっ、なーにっ!?」

「この我が家の守護神、またの名を――…………像7号トパーズタイプを……」


「いいねっ、それっ! これ見たらみんなビックリすると思うっ、うちも賛成!」


 メープルママは凄く面白い人だ。

 うちは我が家の守護神を、新しい学園の庭園にこれを運ぶ約束をした!


 だってそうしたらみんな驚くし、学校も守ってもらえそうだもの、このオーク像に!


「ありがと、サンディ……」

「いえいえっ、楽しみだね、学校!」


「私は、サンディの制服姿が楽しみ……」

「え……わ、私も通うの……!?」


「外の世界を知るチャンス。通った方がいい……」


 パパが作った学校に通う。そういう発想はなかった……。

 でも考えてみたらそれって楽しそう!


 この像が現れて、みんなが驚く姿も隣で見れる! それって絶対楽しい!


 うちはメープルママと約束を交わして、抜け出した家に帰った。


「えーーーーーっっ?!! アレってパパだったのーっっ?!!」

「そうだけど、何か……?」


「パパはあんなじゃないよぉーっっ?!」


 メープルママは本当に、本当に独特のセンスを持った人だった……。


2022/09/03

申し訳ありません。投稿ストック0でした。

本日の夜に書いて明日00時に投稿いたします。

1日だけお休みを下さい。

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