・エピローグ カサエル姉妹の事件簿 2/3 - 依頼人あらため―― -
「すみません……なんだか、急に、緊張の糸が切れてしまって……。ユリウス様に、お見苦しいところを……」
「つらい気持ち、わかります……。わたしも、もしサンディとスクルズが死んでしまったら、悲しいです……」
気持ちが落ち着くと、エヴァンスさんはまたうちらにやわらかく笑ってくれた。
体は弱いけれど、心の強い人だった。
「一つ聞くが、エヴァンスはこれからどうするのじゃ……?」
「私ですか……?」
「うんっ、そうだよ! うちら、エヴァンスさんが心配で……っ」
「わ、わたしも……」
あたしたち姉妹が気持ちを伝えると、また彼女が微笑んでくれた。
でも、これだけじゃとても慰めになっている気がしない……。
「兄が残してくれたこのお金で、どこかで治療を受けようかと思います……。それからリーンハイムにでも行って、新しい人生を……」
「治療か」
「はい……」
パパもあたしたちと一緒になってエヴァンスさんを心配した。
お兄さんがいなくなって、エヴァンスさん独りぼっちだ。
これから独りぼっちでずっと生きていかなければいけない。
そんなのダメだ……。
そんなの悲しすぎる……。
うちはもっと、この人に何かをしてあげたい!
このままお悔やみ申し上げますとか、当たり障りのないことを言ってお別れだなんて、そんなのヤダ!
「父、ワシの案は本当にダメか……?」
「お前は、俺を、なんだと思っているんだ……」
「同時に三人の女を愛せる懐のでかい男じゃ! 四人くらいいけよう!」
「ま、まさか、わ、私を……っっ?! そんな恐れ多い……っ」
パパは呆れ果てた様子で顔を手で覆って、何度も頭を横に振った。
エヴァンスさんはパパのそんな反応に、なんか意外だけど、かなり残念そうな反応だった。
「パパ、本当にダメ……?」
「サ、サンディちゃんまでっ、何言ってるのーっっ?!」
「サンディ……。お前にまでそんなふうに思われていただなんて……。ショックだぞ……」
でもこれって悪くないと思う。
何かが起きるたびに、うちの家では人手不足になる。
シェラハママとメープルママは今でもジィジの大事なサポート役だし、グラフママは頼れる元軍人さんだ。
そう見ると、エヴァンスさんって、なんか……。
ちょうどいい気がする……。
「じゃあ……んん……そうだっ! エヴァンスさんっ、うちのお嫁さんになってっっ!!」
「それはずるいのじゃサンディッッ、ワシだってこんなはかなげな美人をはべらせたいのじゃぁーっっ!!」
「ふ、二人とも落ち着いてっ、女の子と女の子が結婚なんてできないよぉーっっ?!」
パパはまたため息を吐いて、エヴァンスさんは嬉しそうに笑っていた。
うちらのお嫁さんになりたいっていうより、こんなに心配してくれて嬉しいって感情が見えた。
「ユリウス様……でしたら、私からお願いが……」
「娘たちがすまない……。それで、なんだ?」
「私……やっぱり、リーンハイムには行きません……。でももし、もしお許しいただけるなら……」
「ああ……。よければ、うちにくるか?」
「な、なんじゃとぉぉーっっ?!」
スクルズはいつもやかましい……。
「そ、そこまでは言っていませんっ! ただ、ただ私は……サンディちゃんの、隣にいたいんです……」
「パパッ、うちもそうして欲しい! エヴァンスさんとこのままお別れなんヤダッ、病気のことまでパパが面倒見てよっ!」
メチャクチャな要求だけど、パパは静かに顎に手を当てて思慮を始めた。
少しするとエヴァンスさんを見て、エヴァンスさんは緊張した様子でパパを見つめ返した。
「治せる保証はないが、医者が必要とする薬の調合くらいはできるかもしれないな」
「で、ですが、そこまでしていただくわけには……」
「それに……貴女のような人がいれば、娘たちももう少し落ち着くかもしれない……。有事が起きると、こいつらを見張る役割の人間がいなくなるのが、問題なのだろうな……」
パパが認めると、うちはテーブルを回り込んでエヴァンスさんに抱き付いた。
スクルズも遅れてくっついてきて、ウルドはそんなうちらにパパと一緒にため息を吐いていた。
「身体は弱いですが……誠心誠意、お仕えいたしますユリウス様。サンディ様。スクルズ様。ウルド様……」
「様はいらぬっ! ワシと一緒に水浴びをしてくれたら、それだけで……グフフフッ♪ 痛っ、父ぃぃーっ、ワシがバカになったらどうするーっ!?」
これでよし。
これでハッピーエンド。
探偵の物語のように、取り残された依頼人をそのままにして終わるなんてうちららしくない。
パパとエヴァンスさんの間で細かい話が進んだ。
エヴァンスさんはこれから、市長邸に住居を移してお手伝いをしてくれることになった。
病気で身体が弱くても、彼女なり出来ることをしてもらいながら、少しずつ身体を治してもらえばいい。
それがパパとあたしたちの望みだった。
これでエヴァンスさんとお別れをしなくて住む。
本当に、本当によかった!
「エヴァンスさん、これからよろしくねっ!」
「はい、サンディ様……。私、このご恩は一生忘れません……。貴女はなんて心の温かい方なのでしょう……」
「お、大げさだよっ!?」
パパは一足先に転移魔法を使って仕事に戻った。
うちらはエヴァンスさんと荷物と一緒に馬車に乗って、家への長い旅路を進んでいった。
たった1人の家族を失ったエヴァンスさん。
その心の傷がどうか少しでも早く癒えますようにと、神様に祈って木々に覆われた空を眺めた。
エヴァンスさんをお手伝いさんとして迎えた新しい生活が、うちは今からもう楽しみだった!
・
・腰痛持ちの錬金術師
そうなることは既に娘たちの間で予期されていた。
「素晴らしいっ、素晴らしい人道的措置だよ、ユリウス! ああっ、エヴァンス……想像通りの美しい人だ……」
「それは果たして、旦那相手に言うべき言葉なのだろうか……?」
「だって素晴らしいじゃないか彼女はっ! あの儚げな容姿だけではなく、心までもが美しいとくる……」
「グラフ……。俺は今、エヴァンスに若干の嫉妬の情を覚えているぞ……?」
エヴァンスがやってきて、最も喜んだのはグラフのやつだった。
俺を、娘たちを、そしてエヴァンスを褒め讃え、その儚げな乙女の前にひざまづいて手の甲に接吻をしていた。
そういうやつなのは知っていたが、見ると旦那として、グラフを取られた気分になった……。
「フフ……平等に君も愛してあげるよ、ユリウス」
「いや、念のために言うが、これ以上エヴァンスに迷惑をかけるなよ……?」
「あの人を守ってあげたい気持ちは君と一緒だ……」
「嘘を吐け……。俺には下心ありありにしか見えんぞ……」
「あんなに綺麗な人を相手に、『初めましてよろしく』だなんて退屈なリアクションをしたら、それこそ美人に失礼ってものさ」
「はぁ……まあ、いいか……。彼女には人との新しい繋がりが必要だ。気休めになるだろう」
「そうだね、そう思うよ、僕も」
「手は出すなよ?」
「……うん?」
「はいと言ってくれ……」
まあそんなわけで、グラフのやつはご機嫌もご機嫌だった。
胸くそ悪いバッドエンドで終わった事件簿に、思わぬ選択肢が現れて、舞い上がっているのもあるのだろう。
俺も明日から医者と協力して、彼女の病に効く薬を模索していきたい。
今回の事件のその先も、ハッピーエンドで終わらせるためにだ。
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