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・エピローグ カサエル姉妹の事件簿 1/3 - 調査報告 -

書籍版1巻、発売中です!

遅れていたKindle、hontoなどでの電子版配信も始まっています。

書籍が売れれば、その分だけコミックも良い作画さんが付きます。

どうか応援して下さい!

・サンディ


 出発前、うちら姉妹は式典用の白いドレスをママたちに着せられた。

 メープルママが髪をとかしてくれて、二人でゆっくりとお喋りをした。


 メープルママは特にうちにやさしくしてくれる。

 メープルママにとってシェラハママは特別な人だから、その特徴をよく受け継いだサンディがかわいくてたまらないって、そう言ってた。


「パパ、大丈夫……?」

「あ、ああ……な、何も、何も問題ない……。俺は、健康体だ……」


 うちら姉妹はパパと同じ馬車に乗った。

 スクルズは意地悪な顔でパパを見ていて、ウルドはなんでか顔が赤かった。


「父、ワシらだけで大丈夫じゃ、家で休んでいろー?」

「そういうわけにはいかん……。俺は、都市長の代理のようなものだ……」


「は~~、父は頭が硬いのぅ~。ワシらに任せておけばいいものを」

「エヴァンスさん……会うの、緊張するね……」

「良い人だよっ、凄くやさしくてっ、なんか……グラフママがメチャクチャ好きそうなタイプだよっ!」

「どういう評価だ……。すまん、出立させてくれ……」


 パパが御者さんにお願いをすると、御者さんは明るくうちらに笑って馬車を出発させた。

 パパとうちなら転移魔法でひとっ飛びなのに、パパは馬車での移動にこだわった。


 でも、その意味が出発すると少しだけわかったかもしれない。

 ウルドと一緒に左の窓辺に寄って、緩やかに流れてゆく町並みや木々、木漏れ日の数々を見ていると、ワクワクした気持ちが膨らんでいった。


 転移魔法を使えばあっという間。でもそれじゃ何も見れない。

 大切な姉妹と、同じ光景を共有することもできない。

 今日までちょっともったいないことをしてきたなと、そう思った。


「サンディ、本当に母好みの美人なのか~?」

「うんっ! うちはあの人好き! 好きだから……なんだか、あのひとが心配なの……」

「そうだな。どうにか俺たちで、彼女に手を差し伸べることが出来ればいいのだが……」


「そうじゃっ、いっそ父の嫁にするかっ!?」

「えっ、えええーーっっ?! な、何言ってるのスクルズちゃんっっ?!」


 パパは凄く嫌そうな顔だった……。

 パパは愛情深い人だ。いつだってうちらを心配してくれる。


 でもパパは浮気をするような人じゃない。

 今だってママたちに夢中だった。


「ありかもしれん……」

「ちょ、パ、パパァッ?!」


「冗談だ」

「わ、笑えない冗談止めてよーっ!!」

「ビックリ、したぁ……」


 うちらは馬車にゆっくりと揺られながら旅を楽しんだ。

 これからエヴァンスさんに真実を伝えなきゃいけない。

 

 そう思うと胸がつっかえるような、とても苦しい気持ちになるけれど……。

 隣には大切な姉妹とパパがいた。



 ・



 エヴァンスさんの家に着いた。

 エヴァンスさんはうちらの来訪にとても驚いて、でも嬉しそうに杖を突いて家に招いてくれた。


 あの美味しいオレンジティーを入れてくれて、はかなくてやさしい微笑みをみんなに送ってくれた。


「うむ、サンディよ。確かにこれは、母のハートにクリティカルヒットの美女じゃっ!! あいてっ、何をする父ィィッ?!」

「お前はもう少し行儀良くしろ……」

「ふふ……素敵な娘さんたちですね」


 エヴァンスさんが笑うと、うちらは心配になった。


 大切な人を亡くしたのに、そうやって笑えるほど平気なはずがないから、とても無理しているように見えた……。


 うちらはお茶をいただいて、本題を避けるように少しゆっくりして、それから――


「ユリウス様……ロキシスのことで、何かあるのですよね……」


 エヴァンスさんの方から話を切り出してきた……。


「ああ……。だが俺はただの付き添いだ、依頼を受けたのはこの子たちだからな」


 うちら姉妹互いに目を向けて、一緒に席から立ち上がった。


「ロキシスさんを殺した犯人を、犯人たちをパパが捕まえたわ……」

「そう……よかった……」


 でもロキシスさんは戻ってこない。

 エヴァンスさんにあったのは犯人が見つかった安心だけで、救いや納得はどこにもなかった。


「みんなエルフじゃなかった……。エルフに化けたヒューマンだったの……」


 うちが言葉を詰まらせていると、ウルドが少し嬉しそうな声でそうフォローしてくれた。


「そう! それにねっ、ロキシスさんっ、みんなを裏切ってなかったのっ!!」


 口にしてすぐにわかった。

 それこそがエヴァンスさんが欲しかった答えだったんだって。


 エヴァンスさんの綺麗な顔に驚きと、深い安堵と、喜びが複雑に入り混じった。救われたように目を閉じて、うちの言葉を確かめるように何度もうなづいた。


 閉じられた瞳から涙が静かなこぼれ落ちると、うちは勇気を出してここにきてよかったと実感した。


「本当、ですか……? ロキシスは――」

「ロキシスは英雄だった」


 ただの付き添いって言ってたくせに、パパが重々しい声でそう伝えた。


 パパはこのシャンバラのナンバー2だ。

 その英雄に英雄だと賞賛されることは、遺族としてもとても嬉しいことだったみたい。


 エヴァンスさんは嗚咽を上げながら大粒の涙をこぼして、愛する人の潔白を喜んだ。


「ロキシスは心変わりをした。同族を売るのをためらい、拒み、そのせいでやつらに殺されてしまった」

「ロキシスさんが従っていたら、うちらはこの問題に気付けなかった! 事件が起きたから、パパは敵から転移門を取り返すことが出来たのっ!」


 エヴァンスさんの涙はしばらく止まらなかった。

 ただただ静かな鳴き声を上げて、もう会えないお兄さんのことを悲しんでいた。


 ロキシスさんはエルフを裏切ってはいなかった。

 名誉の回復を心より喜んでいた。


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