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・白の棺奪還の鍵 - 女王アストライア -

「おお父、すまぬ。起こしてしまったか……?」


 ふと目を開けると、窓辺から白い朝日が射し込んでいた。

 それとスクルズがベッドから出ていて、髪を整えているところで目が合った。


「いや、起きるにはちょうどいい時間だ」

「ダメじゃ、父はそこで母と一緒に休んでおれ。朝食ならワシが作る」


 あの塩辛いやつをか……?

 そう口にしかけて止めた。


 今朝のスクルズはいやに機嫌がいい。

 俺は横寝を止めて、一人分開いたベッドで仰向けになった。


「わかった、お言葉に甘えよう」

「うむっ、母とイチャイチャするがよいっ!」


「寝ている相手にそれは無理だな」

「そうじゃが……。とにかく父は母と一緒に寝ていればそれでいいのじゃっ」


「わかった」


 そうしていてほしいと言うので、俺は横寝に戻して目を閉じた。

 少しすると台所の方が騒がしくなり、ウルドの声が混じるようになった。

 サンディとスクルズを姉妹に持つのは、さぞ大変だろうな……。


 目を開けるとそこにグライオフェンの寝顔がある。

 青白く美しい髪と、黒ずみ一つない白い肌、同性を魅了する甘いマスクがそこにある。


 そういえば昨日、昔の話を少しした。

 当時のグラフは、ヒューマンである俺を強く警戒していた。

 今みたいな関係ではなく、彼女は常に壁を作って俺と接していた。


 それが今ではこうして隣に寄り添って眠ることになるだなんて、人生何が起きるかわからない。


「最初に出会ったときは何事かと思ったな……」


 あの日、ゾーナ・カーナ邸跡地に光る柱が現れた。

 まさか襲撃かと思い偵察に向かうと、俺はそこで倒れた彼女を見つけることになった。


 敵に奪われてしまった白の棺も、そういえば元々はあの場所の地下に埋もれていたものだったな。……ん?


「いや、待てよ……」


 そこまであの日のことを回想すると、とあることに気付いた。

 俺はベッドから抜け出し、真っ直ぐに家の厨房に向かった。


「父も母もしょうがない労働中毒者じゃな……。休んでおれと言ったであろうっ!」

「すまん、以降気を付ける。だがそれよりもウルド、今すぐ頼みたい仕事がある」

「えっ、わ、わたし……?」


「お前が教本にしている『錬金術初級』の本に、音爆弾というアイテムのレシピがある。ありったけの材料を使って、強力なのを2、3個ほど作ってくれ」

「い、いいけど……お父さんは、手伝って、くれないの……?」


「俺は都市長のところに行く。では頼むぞ」

「父っ、我の朝ご飯を食わずに行く気かっ?!」


「軽いのだけ包んでおいてくれ」


 話を付けると俺は都市長のところに飛んだ。

 外交文章を用意する必要があったからだ。

 事情を伝えると、彼はすぐに書簡の用意に入ってくれた。


 その間、俺は義兄のスレイに身支度を手伝ってもらった。

 これから会う相手のことを考えれば、たとえ近しい間柄だとしてもしっかりとしなければならなかった。


「先日はすみません、私があの子たちに甘い対応をしたがあまりに……」

「だが結果的に今シャンバラが救われている。それに、義兄さんがダメと言ってもサンディがおとなしく引き下がるわけもない」


「そうですね……。きっと貴方とシェラハに似たのでしょう。シェラハも、あれで頑固な面がありますから」

「同感だ。自分たちの業を、こんな形で支払うことになるとは思わなかったよ……」


 最後に外交官を証明する勲章を身につければ、これで身支度は完了だ。


「お待たせしました、ユリウスさん。もう少しお待ちいただければ、書簡の他に手土産も持たせられるのですが……」

「それならばもう準備させてある。では、上手く事が運ぶよう祈っていてくれ」


 都市長が蜜蝋で書簡に封をすると、それを受け取って俺は一歩後ろに跳ねた。

 扉が俺を飲み込み、世界から色彩が消えた。


 続いて数歩歩いて、俺たちの錬金術工房に転移した。


「あっ、お父さん、できたよ……っ! お母さんも手伝ってくれたの!」

「音爆弾……。これがあれば、フ、フフフ……」


 音爆弾はうちのウルドらしいかわいい形状をしていた。

 それは手のひらサイズのグレーの球体で、球面に驚いたかのような女の子の顔が描かれていた。


「ウルド、メープルにどんなに頼まれようと、絶対にこれだけは作るなよ?」

「う、うん……わかってる! お母さんに持たせたら、大変……っ」

「大丈夫……。ウルドはいい子だから、お母さんの言うことなら、なんだって聞く……」


「ダメだよぉーっ、お母さん……っっ!」


 これではどっちが親かわからないな……。

 子供みたいに跳ねながら、ウルドはメープルにかわいらしく抗議していた。


 俺はそんなメープルから、音爆弾をひょいと3つ立て続けに投げ渡された。


「んなっ、ちょっ、あ、危なっっ?!」

「おお、ナイスキャッチ……」


「お前っ、お前これっ、もしここで爆発したらどうなるのかわかってやってんだろうなっっ!?」

「へへ……。今の、なかなかスリルあったね……♪」


「スリルってお前な……は、はぁぁぁ……っ。少しだけでいいから、もう少し親らしい行動をしてくれ……」

「そういうの、姉さんとグラちんの仕事だから……」


「反面教師にはなっていることは認めるが、その本人が開き直るな……」

「昔、ルインタートルを嬉々と爆破しまくってた……ユリウスに言われたくない……」


 そうやって騒いでいると、そこに家族みんながやってきた。

 グラフにシェラハ、スクルズとサンディだ。この出立をサンディに知られるのは少しまずかった。


「そんなに急いでどこに行くの?」

「ちょっとその先だ」


「嘘っ、それこの前の外交官の勲章でしょ! うちも連れてってよっ!」

「ダメだ、お前はこっちで待機だ」


 包んでもらった朝食をスクルズから受け取った。

 スクルズは賢い子だ。早くも行き先に察しが付いているように見えた。


「ねぇユリウス、せめてどこに行くかくらい教えてちょうだい。そんなに急いで、どこに行くというの?」


 シェラハの質問に笑顔で返し、俺はスクルズに言ってもいいぞと合図を送った。

 今は一刻も惜しい。俺は再度転移魔法を背中の後ろに発動して、家族とシャンバラの前から旅立った。


 行き先は森エルフ(リーフシーカー)の国リーンハイムだ。

 これから俺はその地の女王、アストライアに会いに行く。


 白の棺奪還の鍵、それは彼女に他ならない。

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