・水涸れの原因 樹の迷宮 3/3
「なんだよ、何か言えよ……」
「奇跡って、運命……?」
「そ、そうね……。宝石に加えて、絹まで現れるなんて……。偶然だとしたら、こんなの出来過ぎよね……」
「なんの話だ」
「ニーア、モ、キニナリマス。後デ、教エテ下サイ(=_=)」
絹は荷物になる上に、他の布と比べて繊細で貴重だ。
下に進むならば、ここに置いて後で回収するべきだろう。
「それより先に進むぞ。それは荷物になるからここに置いて――」
「嫌ですっ、これは誰にも渡せませんっ!」
「姉さんに同じ……。これは、運命の証……誰かに盗まれたら、大変……」
「そうか。よくわからんが、ずいぶんと気に入ったんだな……。だったら少し下を見てくる」
彼女たちは絹に夢中で、俺の言葉なんてまともに届いていなかった。
欲しいなら売らずにくれてやってもいいな。
そう心に描きながら下り階段を進むと、行く先から水の流れる音が聞こえてきた。
もしやと思い駆け下りると、下り階段の続きが水没していた。
樹木の壁には大きな空洞が出来ており、そこから冷たい地下水が勢いよく吹き出していた。
仮説は現実のものとなった。
地上に湧き上がるはずの水は、地底の彼方で迷宮へと流れ込んでいた。
「やっぱり原因は迷宮だったのね」
「そうみたいだ。絹はもういいのか?」
「メープルとニーアちゃんに任せたわ。それよりこれを塞げば、オアシスに水が戻るのよねっ!?」
「ああ、ただどうやってこれを塞ぐかが問題だな。応急手当で氷魔法を放てば、一時的に塞ぐことは可能だが、結局はまた底が抜ける」
水を止めようにも上手い方法が見つからない。
あふれ出す水の量からして、これを塞ごうとするとかなりの水圧がかかる。補修部にはその水圧に耐えられるだけの処置が要る。
「困ったわね……。でも、ユリウスならどうにか出来るのよね……?」
「いや、なぜそうなる……」
「だってユリウスだもの。ツワイクの工場で見つけたときから、あたしはあなたを天才だと思っているわ」
「そうやっておだてるな」
しかしあの絹といい、ニーアといい、このマク湖迷宮には大きな可能性がある。
迷宮は鉱山よりも貴重だ。
そしてこの大穴を塞がなければ、これより下のフロアに挑戦することも出来ない。
「さすがに無理かしら……?」
「いや、今すぐ本国に戻ることにする」
「えっ、ま、待って……っ、せっかく絹と宝石が手に入ったのにっ、帰っちゃダメよ!」
「今朝言ったとおり本をパクッてくるだけだ。必ず戻る」
シェラハゾは不安半分、不満半分といった様子で唇を突き出していた。
美人にそんな顔をされると、悪いことをしているような気分になってくる。
「だったら、交換条件があるわ! あの絹、あたしたちにちょうだい!」
「いいぞ。ベッドシーツにでもなんにでもするといい」
「あ、あなたあたしたちが、あれをベッドシーツにすると思ってたの……っ!?」
「違うのか? 頬ずりをしてたじゃないか」
「はぁ……もういいわ……。でも必ず戻ってきてね。戻ってこなかったら、連れ戻しに行くんだから、覚悟してなさいよ……?」
「ああ、必ず戻る。昼間はとんでもない暑さだが、ここはカラッとしていて気持ちいい。俺はシャンバラが気に入ったよ」
出会ってまだほとんど経っていないのに、シェラハゾは微笑みを浮かべて俺を信頼してくれた。
だから俺はそれに笑い返して、彼女と一緒にメープルとニーアと合流して、地上へと出た。
・
「どれくらいで、戻る……?」
「長くて4、5日。順調なら3日で戻る」
「わかった……寂しいけど、我慢する……。ユリウスも、姉さんの水浴――むぐぅ」
「口が軽いにもほどがあるって言ってんだろっ、お前っ!?」
水浴びを見れないのは、ハッキリと本音を言えば、非常に惜しい。
シェラハゾの無防備な微笑みを見るのが、日々の喜びと言ってもいい。
だがこれはやらなければならないことだ。
さっと行って、人知れずパクッて、戻るだけだ。
「マスター、旅立ツ前ニ、ニーア、ニ、ゴ命令ヲ……(・ ・)」
「そう言われてもな。そのちっこい体で、具体的に何が出来るんだ?」
「ナンデモ、デキマス。マスター、ハ、ナニガ、必要デスカ?(?_?)」
「そうだな……金が欲しい」
「カシコマリマシタ(・―・)」
「……お前、本当にゴーレムか?」
「ゴーレム、違イマス。ニーア、ハ、ロボデス(=へ=)」
まあ、そこはどっちでもいい。
俺は亜空間の扉を開いて、もう行くと意思表示をした。
「じゃあな」
「ユリウス、行ってらっしゃい……。絶対、絶対戻ってこなきゃ……ダメだよ……?」
「絶対よっ!」
「ニーア、オ戻リニ、ナルマデ、ガンバリマス(・_・)」
変な超小型ゴーレムと、エルフの姉妹に微笑み返して俺は扉をくぐった。
これから国に戻って、王立図書館から錬金術関連の書を盗む。
その中にきっと、マク湖とそこで暮らす民を救う糸口があるはずだ。
大切そうに絹布を胸に抱いて、どこか幸せそうにうっとりとする姉妹の姿が、旅立ってもなお頭から離れなかった。
なんだか最近の俺は変だ。毎日、あの2人のことばかり考えている……。
もし少しでも気に入ってくださったら、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】いただけると嬉しいです




