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・世界最速の調査官、オアシスを巡る - ただし忙殺気味 -

 翌日早朝。これから本格的に調査へと乗り出してゆくために、俺は工房のオーブの前に立った。


「遅くなりましたっ、おはようございます、ユリウス様!」

「謝るのはこっちだ、付き合わせてしまって悪かったな」


「いえっ、むしろ感激です! 貴方とご一緒出来るなら、僕はなんだって……っ」

「よしてくれ、その言葉に甘えてしまいそうになる」


「僕に甘えて下さい!!」


 実は昨日、無理を言ってラウリィに早朝からの手伝いを頼んだ。

 小柄だが働き者の彼は、俺が頼むと指定の材料をテキパキと水槽に入れてくれた。


 それが済むとちょうどさっき運んできたガラス瓶を水槽に溶かし、それから次の調合の準備のためにオアシスの水を汲みに行った。


 オーブと水槽を使った錬金術は、彼らのバックアップがあってこその生産効率だった。


「あ、スクルズちゃんおはよう」

「た……大変じゃ皆っ! また父がーっ、ラウリィを工房に連れ込んでこき使いっておるぞぉーっ?!!」


「えっ!? あ、いや、別に僕はいいんです。僕、ユリウス様のお手伝いが出来るだけで、それだけで幸せなんですから……」

「なんてことじゃっ、おまけにキャッキャウフフまでしておるぞーっ!?」

「していない」


「起きよっ、起きよ皆の者ーっ!! このままでは我らの仕事が取られるぞーっ!!」


 グラフの青い髪、白い肌、端正な容姿を持って娘は、気質の面で言えば白百合とまで呼ばれた母親とは大違いだ。

 見た目は美しかろうと、中身の方はというとまだまだ落ち着きのないお子様だった。



 ・



 まあそんなこんなで、結果的に騒ぎは多くのバックアップ役を提供してくれた。

 メープルとシェラハがいつものように忙しく家を出て行く中、三人娘に休暇中のグラフ、ラウリィが早朝からサポートをしてくれた。


 このおかげで『明日明後日分の仕事を今日中に片付ける』という無理が、ようやく昼過ぎまでに通ることになった。問屋やガラス工房、輸送を担う商会たちの理解や融通がなければ、こんな無茶苦茶はとても実現しなかっただろう。


 こうして錬金術師ユリウスの仕事が終わった。

 これでようやく調査官ウェルサンディと共に、そのお目付役として真実を探しに行ける。


 なぜロキシスという誠実な若者が殺されなければならなかったのか。

 ロキシスを殺害した連中は何者で、何が目的だったのか。俺だってここまで関わった以上、気になって気になってたまらなかった。


「行こうか、サンディ」

「うん……」


 軒先のオアシスの前に集まり、家族に見送られながら出発しようとすると、サンディのやつがらしくもなくうつむいていた。


「どうした、疲れてしまったか?」

「ううん、そうじゃなくて……。あの……ごめんね、パパ……」


「ごめん? それは何がだ?」

「だってパパ……信じられないくらい忙しい人なのに……。うちら何も考えないで巻き込んじゃった……」

「うむ……。あれだけ働いて、まだ働けるとか、父も母も信じられん気力じゃ……。大人はヤバいのじゃ……」


 言葉を受けてグラフと目線を合わせると、お互いに自虐するかのような冷笑を返された。シャンバラの混乱状態を言い訳にしているが、今の多忙極まった状態は親としてあまりよくないな。


「いや、俺はただ真実が気になっているだけだ。さあ行こう、サンディ! ロキシスがなぜ殺されなければならなかったのか、俺たちの手で調査を進めるんだ!」

「……うんっ! パパとうちって、やっぱり親子ねっ、ふふふっ!」


 さあ行こう。世界の裏側への扉を開いて、そこにサンディの背中を押した。


「さ、ボクらも買い物にでも行こう。せっかくの休暇だ、なんだって買ってやるぞ」


 その言葉に、サンディが後ろを振り返って抗議の言葉を上げたのは言うまでもない。

 だったら俺だって、調査先でサンディに何か贅沢をさせてやろうとそう心に思ったことも、あえて言うまでもなかった。



 ・



 まずはフリドオアシスに向かった。

 エヴァンスの家を訪ねてこれから調査をすることを伝えると、彼女は感激の涙を浮かべていた。


 シャンバラの英雄というこの肩書きが、少しでも彼女への慰めになるのならばと、俺は頼もしく目に映るようにと理想の英雄役を演じた。


 だが最大の慰めは、俺なんかよりもサンディの来訪の方だった。

 エヴァンス自慢のオレンジピールティーをサンディが褒めたくると、儚げだったその表情が笑顔でいっぱいになった。


 茶を楽しんでからエヴァンスの家を出ると、さあ本格的な調査の開始だ。まずは報告にあった酒場に向かい、情報の裏を取った。

 その次はケパ・オアシスだ。サンディがご厄介になったという、女店主が経営する宿屋を訪ねた。


「サンディが世話になった」

「ユリウス様っ?! い、いえっ、ウェルサンディ様は酒場でも大好評――あ、いえっ、なんでもございませんわっ、オホホホホッ!?」


 店主のリアクションだけで、サンディがどんなやんちゃをやらかしたかだいたいわかった。

 宿娘の仕事が楽しかったと笑う娘と一緒に、その宿でも俺は情報の裏を取り、それが済むと簡単な推測を立てた。


「えっとこの後、どうしよっか……?」

「次のオアシスに移るぞ」


「え、それってどこへ?」

「彼らの最終目的地は行政区だ。この時点でルートはもう決まっている」


「あ、そっか!」


 宿の女店主に、ここから行政区やバザー・オアシスの辺りに行くにはどうすればいいかと聞いてみた。

 すると、ここから直接繋がるルートはなく、リャダ、ユス、カノッソといった3つのオアシスを経由する必要があると教わることになった。


 俺たちは転移して、探って、また転移して、オアシスからオアシスを巡っては、ロキシスを殺したやつらの足取りを求めて、樹海の国シャンバラをさまよった。


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