表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

261/308

・終幕 カサエル姉妹の事件簿 - 言葉無き帰還 -

「普段あれだけかしましいお前たちが、それだけ静かだと心配になる」

「だって……何もかもが、ショックだもの……」

「メープル母め、ワシらを売りおったな……」


「いや、それは初耳だな。あいつめ、俺に報告してくれてもよかっただろうに」

「じゃ、じゃあ、誰から聞いたの……?」


「さあな。しかし、そうやって落ち込んでいていいのか? 仕事はまだ終わっていないだろう」


 パパに肩を叩かれた。うちらの背中を押して、さっきの小屋へと歩き出した。

 パパは小屋に入っていって、しばらくするとトレードマークの白いトーガを外に脱ぎ投げて、ロキシスさんを抱き上げて出てきた。


「一度戻ろう。それからサンディ、俺と一緒に依頼人にこの人を届けよう」

「で、でも……っ。お兄さん、死んでましただなんて、そんなの、言えないよ、うち……」


「気持ちはわかる、俺だって駆け出しの頃があった。酷い失敗をやらかして落ち込んだ」

「ぇ……パパにも……?」


「アルヴィンスに慰められたよ」


 さすがはアルヴィンスおじさまね! やっぱりおじさまって素敵!

 ……って口に出す元気はさすがになかった。


「だがこれは失敗じゃない。お前たちは見事に困難なこの依頼を達成してのけた。姉妹で力を合わせて、ロキシスの行方をこの短期間で突き止めたんだ」

「父ぃぃ……っ」

「そうだね……。私たち、がんばったよね……」


「この男のことは残念だったが、依頼そのものは成功したんだ、もっと自分たちを誇れ」


 うちらは道なき密林から引き返した。

 パパは一足先に遺体を運び、それからわざわざ戻ってきて、怒るどころかうちらを気づかってくれた。


 ママたちがパパに夢中になるのも、なんだかわかる気がした。

 パパは人の痛みや苦しみに敏感だ。そんな人を憎むなんて、おかしいのはあの人たちだ。


「さあ行こう」

「う、うん……。でも、エヴァンスさん……」


「何も言わなくていい。俺が代わりに伝える」

「ううん……うちが伝える……。だって、うちらが始めた調査だものっ!」


 家に戻るとうちはパパと一緒に依頼人への報告に向かった。

 パパが綺麗にしたロキシスさんを抱いて、うちがその隣で慰めの言葉を探しながら、世界の裏側を歩いた。


 あの果樹の匂いのするオアシスに到着すると、うちが案内をして、うちがエヴァンスさんの家をノックした。


 決めた通りに最初にうちが事情を伝えた。

 それから遅れてパパが、ロキシスさんかもしれないの遺体を抱いて姿を現した。そうするとエヴァンスさんは、大粒の涙を流して玄関先に崩れ落ちていた……。


「私、覚悟はしていました……。こうなるかもしれないと、気付いていたんです……」

「エヴァンスさん……。うち、なんでも力になるからもっと頼ってっ! これからは、うちらがエヴァンスさんを支えるからっ、ねっ!?」


「ありがとう……。ユリウス様も、わざわざ、こんなところまで……」

「この男のことは残念だった。お悔やみを申し上げる」


「ロキシスも喜びます……。あ、中へ、中へどうぞ……。ぁ……っ、すみません、サンディちゃん……」


 立ち上がろうとしてよろけるエヴァンスさんの杖になりながら、うちは家に入った。

 するとテーブルの下に、大きな布袋が置かれていることに気付いた。それをテーブルの上に載せて欲しいと言われて手に取ってみれば、信じられないほどの重さだった。


「先日、兄から届いた物です……」

「え……これっ、全部金貨っ!?」


「これで身体を治せと……そう手紙に……。ああ、ロキシス、どうしてこんなことに……」


 パパが寝室にロキシスさんを寝かせると、折り重なるようにエヴァンスさんがそこに倒れ込んだ。冷たく冷えた身体に驚いて、涙をまたあふれさせていた。


「言葉のかけようがない。心中お察しするよ……」

「ありがとうございます、ユリウス様……。サンディちゃんも、ありがとう……」

「え、でも、うち、ロキシスさんを……守れなかった……」


「いいえ、見つかって、なんだかホッとしました……。見つかってよかった……こうしてロキシスとまた出会えたのは、サンディちゃんのおかげです……」

「違うの、ごめんなさい……。うちらが、もっと優秀なら……せめて、もう1日だけでも早く見つけられたら……。ごめんなさい、エヴァンスさん……ごめんなさい……」


 ロキシスさんは見つかった。私たちの初仕事は成功したけれど大失敗で終わった。

 慰めの言葉見つからなかった。どうしてもエヴァンスさんが気がかりで、うちとパパはまた会いに来ると伝えてからその場を離れた。


「始めからパパを頼ればよかった……」

「らしくないことを言う。どちらにしろ、パパたちは他の仕事があって動けなかった」


「でも……うち、うちら、思い上がってた……。自分たちの才能に、うぬぼれてたよ……。もっと、もっと修行しなきゃ……」

「それがその歳でわかるなら十分だ。パパなんて、シャンバラに来るまでは虚栄心にしがみついて生きていたよ。己の未熟さに気づけなかった。お前はやはり優秀だよ、サンディ」


 パパに慰められながら帰り道を歩いた。久しぶりに、手を繋ぎながら。

 それから家に戻ってくると、うちが長女なんだからちゃんとしなきゃって思って、うちがウルドとスクルズをパパの言葉を借りて慰めた。


 うちらは約束した。これからもお互いに助け合って、次こそは依頼をハッピーエンドで終わらせようって誓った。


「うむっ、がんばるぞぉーっ!! このくらいでへこたれてたまるかなのじゃーっ!!」

「サンディちゃん、ありがとう……。サンディちゃんが1番、苦しいはずなのに……」

「平気! うちは全然平気だから、これからも一緒にがんばろ!」


 うちらの物語はここで一端終わり。そしてここから先は、パパの物語。

 うちらが出会ったその事件は、ロキシスさんの遺体発見だけでは終わらなかった。


 でもユリウス・カサエルは名探偵じゃない。彼は偉大なる錬金術師だ。うちにはパパの能力と常識にとらわれない行動力が、ミステリーの名探偵役に相応しいとはとても思えなかった。


 パパは推理なんてしない。推理よりも行動で困難をねじ伏せる。それがうちらのパパだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ