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・終幕 カサエル姉妹の事件簿 - スタンバイミー -

 でも災難はそこで終わらなかった。小屋から出て気持ちを落ち着かせる間もなく、突然に、何かが風を切るような物音が響いた。それは弓矢だった。鋭い矢が一斉に飛んできて、うちの肩と膝に突き刺さっていた!


「おのれぇっ、よくもサンディをっ!」

「い、一度中に戻ろっ、サンディちゃんっ、こっちっ!」


 よかった、2人は無傷だった。

 スクルズが電撃の魔法銃で反撃して、ウルドが激痛にあえぐうちを小屋の中に引っ張っり込んでくれた。


「なんなんじゃあいつらはーっっ!?」

「犯人……っ、なんじゃ、ないかな……」


「矢、抜くね、サンディちゃん」

「えっ、それはまだ心の準備が――あうっっ?! ちょ、もっとやさしく――うああっっ?!」


 普段はあれだけ臆病なのに、追いつめられるとウルドは強かった。

 うちに刺さった弓矢を2本とも引き抜いて、あのぷにぷにで美味しいエリクサーをうちの口に突き付けていた。これを持たせてくれた心配性のパパママに感謝だった。


 甘酸っぱくて美味しいぷにぷにをを半分だけかじると、ますますパパに感謝したくなった。激痛が遠退いて、傷口がうちらの目の前でふさがっていった。


 なんて凄い人を父親に持ってしまったんだろうって、あらためて感じずにはいられなかった。


「サンディッ、動けるかっ!? 動けるなら逃げるのじゃっ、このままでは、ワシらまでロキシスのように殺されてしまうぞっ!」

「こ、怖い……っ、怖いけど、わ、私、がんばる……っ!」


 殺意を感じて凄く怖かった。迷宮のモンスターならなんでもないのに、同じエルフから殺意を向けられるなんて、うちらを愛してくれるシャンバラのみんなに弓を撃たれるなんて、こんなのショックだった……。


「なら、うちが囮になるっ! うちが先にあっちに逃げるからっ、2人は反対側に逃げて!」

「で、でも……そんなの、危ないよ……っ、また弓で撃たれたら――」

「ならばワシとウルドで援護するのじゃ! ウルドもグラフ母より授かった弓術、今こそ発揮する時であろう!」


「いくよっ、援護は任せたっ!」

「任されたのじゃ!」


 うちが小屋を飛び出すと、待ち構えていたかのように矢の嵐が飛んできた。それをうちはウィンドカッターで軌道をそらして、囮となって必死で走った。

 そんな中、魔法銃とエルフの弓が悪いやつらに反撃してくれた。当たったかどうかはわからないけど、悪いやつらは逃げ出したうちを追いかけてきた!


「殺せ、絶対に逃がすな!」


 あーあ、こんな危険なことをしたら、後でパパママにこっぴどく怒られちゃう。

 逃げて、逃げて、逃げて、背中に矢を撃たれて転んでしまうまで、うちはたっぷり時間を稼いでやった。あいつらの誤算は、うちのことをただの子供だと勘違いしたことだ。


「あの茂みだっ、蜂の巣にしてやれっ!!」


 命乞いと悲鳴を上げながら、うちは転移魔法を足下に発動させた。

 あとちょっと転移が遅かったら、全身串刺しにされていたかもしれない。

 うちは世界の裏側で背中の矢を引き抜いて、自分の分のエリクサーをかじって傷を元通りにした。


「死んだと思ってくれてるといいけど、そうもいかないよね……。うちを諦めたらサンディとウルドを追いかけるに決まってるもん……」


 うちは歩き出して、逆方向に逃げたサンディとウルドを探した。

 あいつらは砂漠エルフ(デザート・ウォーカー)じゃない。肌が白くて耳がたれていなかったから、きっと森エルフ(リーフ・シーカー)だ。でも、どうして……。


 視界の悪い密林の中を、2人を探して何度も転移した。


「恨みはないが見られてしまった以上は仕方がない、死んでもらおうか」

「ワシらがただでやられると思うてかっ!」

「ゆ、弓が、震えて……っ」


 やっと見つけた。でも2人は弓を持った男たちに囲まれていた。

 このままじゃ間に合わない。転移魔法を使っても倒せるのは1人くらいで、このままじゃ残りの人たちがうちの家族を串刺しにする!


 死なせたくない。生まれたときからずっと一緒の大切な姉妹を守りたい。うちは自分の無力さを悔やみながら、せめて1人だけでもと転移した。

 するとうちは、世界の裏側で――パパを見た!!


 あの聖剣を片手に消えては現れて、そのたびに向きを変えて、それを5度繰り返していた。

 それからパパの姿を探して表側の世界に戻ってみれば、刺されて倒れ込む悪い人たちと、自分の義手を不思議そうに見ているパパの姿があった。


 スクルズとウルドは無事だった!


「やはりどうも慣れん……」

「き、貴様は……ユリウス……ッ?!」


「ああ、あまり動かない方がいい。急所は刺していないが、傷口が広がればどうなるかはわからない」

「父ぃぃーっっ、怖かったのじゃぁぁーっっ!」

「お父さんっ、お父さぁんっっ!」


 うちらはパパに飛び付いた。怖い気持ちが胸の中で爆発して、自慢で憧れで強くてカッコイイパパにしがみついて震えた。


「ユリウス・カサエル……貴様は災厄だ……」

「永久に呪われろ! 地獄に堕ちるがいい!」

「我々がここで朽ちようとも、いつか仲間が、貴様の息の根を止める……」


 悪い人たちが立ち上がった。エルフはみんなパパを愛しているはずなのに、どうしてそんなことを言うのかわからない。

 うちらは英雄の娘として、絶対に負けないパパから離れて後ろに退いた。


「これ以上戦えば死ぬぞ」

「ユリウス……貴様だけは、絶対に許さん……」

「ハハハハッ、また会おう!! 地獄の底で!!」


 敵は魔法のスクロールを一斉に取り出した。それを開いて『燃えよ』と叫んだ。

 うちらはてっきり、炎の魔法攻撃が飛んでくるのかと思って迎え撃とうとした。でも、魔法は飛んでこなかった。


「ヒィィィッッ?! なんじゃぁぁっ、こやつらはぁぁーっっ?!」

「な、なんでっ、なんで、こんなこと……っっ」

「う、嘘……」


 うちらの目の前で人が燃え上がった。炎は凄まじい力で悪い人たちを焼き払って、やがてただの火柱に変わった。

 理解、出来なかった……。


 パパはうちらの自慢なのに、どうしてあの人たちがパパを憎むのかわからない。

 どうしてあんなにも簡単に自分の命を捨ててしまえるのか、うちらには全くわからなかった……。


 それに――せっかくロキシスさんを見つけたのに、彼はもう死んでしまっていた。

 うちらの事件簿の1章目は、大失敗で終わってしまった。


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