・水涸れの原因 樹の迷宮 2/3
この迷宮では、地下5階が1つの節目になっているようだ。
快進撃を続ける俺たちの前に、ハサミを持ち、巨大な殻を背負った怪物が立ちはだかった。
「巨大ヤドカリか、コイツは少し苦手だな……」
「今までで一番、磯臭い……」
「来るわっ、メープルっ弱体をお願いっ!」
乱暴に言ってしまえば巨大なヤドカリだ。
そいつがハサミを持ち上げて、見かけに反する敏捷性でこちらに突っ込んできた。
このまま突撃されると少しまずいので、俺はライトニングボルトを詠唱し、ハーミットクラブの真上に転移すると落雷を叩き付けた。
動きが鈍り、後衛であるメープルが退避する時間と、シェラハゾの反撃の時間が生まれた。
「メープルッ、いつものやつよっ!」
「りょー。守備力弱体……っ、3発全弾発射……っ!」
弱体魔法の3段重ねに合わせて、シェラハゾが刺突を乱れ打ちした。
だったら俺は最後のトドメを受け持とう。魔法属性の物理攻撃、アースグレイブの増幅に入った。
「当たらないわよっ、そんなのっ!」
反撃のハサミが何度も繰り出されるが、シェラハゾはマントをはためかせて全てを回避した。
彼女は火力には恵まれていないものの、前線を維持する能力に秀でていた。
「ユリウスッ、トドメをお願い……!」
「追い打ちの、守備力弱体……っ」
俺の補佐として都市長が差し出した姉妹は、一緒に戦ってみれば、恐ろしく使える連中だった。
無防備に背中をさらすハーミットクラブの足下で、俺は過剰増幅したアースグレイブを発動させて、磯臭いヤドカリ野郎を蜂の巣にした。
激しい振動の後に大地の槍が剣山となって敵を貫き、名だたる冒険者たちを苦戦させるハーミットクラブを屠った。
「ぁ……っ!? もしかして、これが噂の……宝箱?」
「あたし、初めて見たわ……。ふふふっ、何が入っているのかしらっ!?」
巨体が消えて、そこに2つの箱が現れた。
片方はメープルが入れそうなくらい大きく、もう片方は子猫が限界くらいの小ささだ。
「1体から2つも現れるなんて珍しいな……」
「欲張りは……大きい方、開ける……。小さい方が、正解……」
「だったら小さい方から開けましょ」
トラップのたぐいはなさそうだ。
小さな銀色の箱を、エルフの姉妹が瞳を輝かせて開けるのを見守った。
「なんだ、それ……?」
「これって、人形、なのかしら……」
「小さくて、まるくて、不思議なフォルム……。でも、かわいい……おわーっ!?」
箱に入っていたものは、長い腕を持った変なゴーレムだった。
材料不明の白い身体は子猫くらいの大きさしかなく、1つ目と思われた頭部には、いきなり『=_=』との文字が浮かび上がった。
「ココハ、ドコ……?(?_?)」
「シャンバラだ」
「アナタタチハ、ドナタ……?(・_・)」
「え、ええっ、えええーっっ、喋ってるわよこの子っ!?」
「私はメープル、こっちは姉さんのシェラハゾ……。それからあれが、ジョン……」
「ジョンって誰だよっ、俺はユリウスだっ!」
「……レグルス様?(=_=)」
「ユリウスだ。ユリウス・カサエル、錬金術師だ!」
いや、俺はゴーレム相手に何をムキになっているんだ……。
しかしこのゴーレム、不思議だ。人間との意志疎通能力のあるゴーレムなんて、今まで一度も見たことがない。
何より奇妙なのは、のっぺらぼうの顔に光を浮かばせて表情を作るところだ。
「ワタシ、ハ、ニーア、デス。……ハジメマシテ、メープル、シェラハゾ。アト、ジョン(・_・)」
その白くて腕の長い変なゴーレムは、メープルの手を借りて箱から這い出すと、兵士たちのように敬礼をした。
「ジョンじゃねーつってんだろっ、ユリウスだっ!」
「ジョン、ニ、シマス(=_=)」
「ゴーレムのくせに人に妙なあだ名付けんじゃねーよっ!?」
「ソレデハ、マスター・ジョン。ニーア、ニ、ご命令ヲ……」
「だったらこれは最初の命令な……。俺のことは、ユリウスと呼べ……」
「ワカリマシタ。ジョン(@_@)」
「全然っ、わかってねーじゃねーかよっっ?!」
俺を振り回すなんて、ゴーレムのくせにやるじゃないか、コイツ……。
機械と言い合うのもバカらしくなって、俺はもう片方の宝箱に手をかけた。
「気に入った……私の、妹分に、してやる……」
「ソレハ光栄デス、メープル姉貴(=_=)」
「不思議だけど、はぁ、確かにちっちゃくてかわいいわ……。なんなのかしら、これ……」
知らん。迷宮は別世界に通じているとも言われているので、たぶんこのゴーレムはこっちの技術ではない。
つまり、考えるだけムダってことだ。
「ニーア、ハ、ロボデス。人ヲ、支援スルタメ、ニ、作ラレマシタ。カワイガッテ、下サイネ(・ ・)」
すっかり姉妹はその変なゴーレムが気に入ってしまって、ベタベタと手乗りサイズの小さな体を撫で回していた。
それを横目で見ながら、大きな宝箱の方を慎重に開いてゆくと、ずいぶんと意外な物が入っていた。
それは絹だ。光沢のある純白と、薄桃色の生地が箱の中に折り畳まれていた。
「中身、なんだった……?」
「絹だ」
「ぇ……っ」
「あ、本当……綺麗……」
2人はそれを宝箱から拾い上げた。
メープルが気持ちよさそうに頬ずりをすると、シェラハゾもつられて白い生地に顔を埋めた。
「迷宮から加工品がドロップすることは極めて希だ。しかもこんなにいい布が手に入るなんて、ほとんど奇跡みたいなもんだな」
軽い気持ちでそう言うと、姉妹の瞳がこちらに釘付けになった。
けれどもそれは無言の凝視だ。どちらもぼんやりとしていて、何を考えているのかわからなかった。
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