・終幕 カサエル姉妹の事件簿 - 思わぬ結末 -
・小さな転移魔法使い
水浴びをしているとウルドが岸辺に立っていた。
ウルドは右の手のひらにキラキラと銀色に光る何かを乗せていて、それをうちらの前に突き出していた。
いつになく明るい笑顔だった。それを見ているだけで、うちらまでなんだか嬉しい気分になれる笑顔だった。
うちらは同じ父親の子として、同じ年に生まれて片時も離れずに育った。
だからウルドが嬉しいと、うちらも嬉しい。うちは笑顔に笑顔で返していた。
「ニャンコ探しに使ったあれかっ!」
「ウルドって天才っ! これでロキシスさん探しを再開出来るねっ!」
「ち、違うよ……っ、これ、お父さんのアドバイスだから……っ」
その銀色のやじろべえは、あの正体不明の紋章と引き合う。そうウルドが大まかに説明してくれた。
ゆらゆらと左右に揺れる不思議なオモチャはスクルズに奪われて、それからしばらくしてから、最終的に調査員であるうちの手に渡った。
「三角形じゃ。北と、南西、南東でそれを試すのじゃ!」
「いいけど、なんて三角なの?」
「マリウスおば上にそう教わったのじゃ。四角よりも三角がいいのじゃ」
スクルズが木の枝で地面に三角形を描いた。
それからその三角形の中に、右端に棒を1本足して小さな三角形を作った。
「こうじゃ、わかったかっ!?」
「ううん、全然!」
「ムッキャァァーッッ、現場担当のサンディがわからんでどうするーっ!!」
「わ、私、わかったかも……。この3つの頂点の中で、一番反応が強いところを見つけるの。そして今度は、この小さな三角形から、残り2つの頂点の部分を調べるの」
スクルズがそうしたように、ウルドが小さな三角形の中に棒を1つ足して、さらに小さな三角形を作った。
「えっと……それで?」
「むふふふっ、そうかわからぬか! 全くしょうがないのぅ、サンディは! 足りない知恵はこれからもワシが貸してやろう」
「何よっ、ちょっと頭がいいからって偉そうに!」
「ひがむなひがむな。知恵担当のワシがちゃーんとわかりやすく教えてやる!」
私は2人から場所の絞り込み方を教わった。
まだよくわかんないけど、2人の言う通りにすればきっと上手くいくってことはわかった。
「それじゃうち行ってくる! 2人ともありがとっ、2人がうちの姉妹でホントよかったっ!」
「無理、しないでね……あっ」
居ても立ってもいられなくて、うちは準備が済むと感謝してからすぐに転移した。
北と、南西と、南東。シャンバラの辺境まで飛んで、それからうちは一番反応の強いところを探していった。
・
「あれ……おかしいな。全部内側に向いてる……?」
シャンバラはどこもかしこも樹海だった。
うちは一番大きなブナの大樹の上に転移し直して、高い幹の上から樹海の国シャンバラを見渡した。今は大きな三角形部分を終わらせて、二つ目の小さな三角形を調べ終えたところだった。
「ということは……。シャンバラの中心の方にあるってこと、だよね……?」
うちはどこまでも続く樹海と、伐り拓かれたオアシス周辺の町を眺めながら、スクルズの言葉を思い出そうとした。
こういう場合は――そう、スクルズは内側に逆三角形を作っていた!
三角形が4つ出来るように線を引いてた!
「うぅ、図形とか苦手……。でも、こういうの覚えておいた方がいいんだよね……。よし、がんばるっ! とにかくやってみようっ!」
うちは足下に扉を作ると飛び込むように転移して、内側の三角形の頂点の部分に飛んだ。
するとそれぞれどの頂点でも、銀のやじろべえは内側に傾いていた。
「あ、わかった! この場合、内側にもう1つ三角形を作ればいいんだ!」
世界の裏側を、うちは歩数を数えながら歩く。
何歩で行けたか数えて、その半分の歩数のところに転移する。足下に碁盤目模様があるから、方角を間違えるようなことはなかったと思う。
飛んで、確かめて、また飛んで、うちは砕けた紋章の行方を絞り込んでいった。
・
そしたらだけど――なんか意外なことになった。
だって銀のやじろべいが指し示す場所は、うちらが暮らすオアシスから見て、ちょっと東に行ったところだったの。
だからうちは場所を確かめた後、スクルズとウルドを誘った。せっかく近くなんだし、一緒に探そうよって誘ったら、2人とも凄く嬉しそうだった。
「近いぞ、近いぞ、ロキシスまであと一歩じゃ!」
「でもスクルズちゃん、直接、ロキシスさんに繋がるとは限らないよ……?」
「その時は何か遺留品を見つけて、またウルドを頼る!」
「あ、うん……っ。が、がんばるね……っ!」
「わははっ、ワシらはスーパーエリートの娘じゃっ、出来ぬことなどないわーっ!」
うちらは樹海を探検した。やじろべえの導きに従って、道ならぬ道を伐り拓いていった。うちのウィンドカッターで。
「む、あそこに掘っ建て小屋があるぞ……? 誰が作ったかしらんが、尋常ならざるボロさじゃなぁっ!」
「でも、なんでこんなところで暮らしてるの……?」
それは木の葉の屋根と、製材されていない木をいくつもも使っても建てられた間に合わせの小屋だった。やじろべえはその小屋の方に強く倒れている。
あれ、でもウルドの言う通りだ。貧乏ならスラム街へ行けばいいのに、なんでこんな場所で隠れて暮らしているの……?
「そうだよっ、これってなんか変だよ、気を付けてスクルズッ!」
「大丈夫じゃ、今日のワシにはマリウスおば上特製のコイツがある! 皆の者、突入じゃーっ!!」
「わっわっ、ダメだよぉっ、危ないよぉーっっ?!」
魔法銃を構えて、スクルズが木の葉で作られた入口に飛び込んだ。遅れてうちらも後を追ったけど――
「ヒ、ヒェェェッッ?!!」
「スクルズちゃんっっ!?」
中からスクルズの悲鳴が聞こえて、ウルドが弓を構えながら突入した。
うちは転移で中に飛んで、戦いになるとパパがそうするように回り込んだ。
「し……死んで、死んでおる……」
「そんな……。もしかして、この人がロキシスさん……?」
薄いブロンドの若い男の人だった。だけどその人の胸には赤い血痕が広がっていて、背中の木の葉の寝床には、真っ赤な水たまりが出来ていた。
それは死体だった。ロキシスさんに似た特徴を持った男の人が、何かで胸を刺されて死んでいた。
「こ、これ……っ、あの紋章……っ!」
ロキシスさんの手の中にあの紋章の残りが握られていた。
「じゃあこれって、エヴァンスさんが探してたロキシスさんなの……? こんなのってないよ……。消えた家族が殺されていただなんて、そんなのあんまりだよ……」
お兄さんを見つけ出して安心させてあげたかったのに、死体を見つけましただなんて、そんな報告できないよ……。
頭の中が真っ白だった。手足が震えて、急に怖くてたまらなくなった。だってここに刺殺体があるってことは、殺した人がどこかにいるってことだもの!
うちらは恐怖にひきつった顔でうなづき合って、死体のある粗末な小屋から逃げ出していた。
うちらは死体を見つけた。ロキシスさんにそっくりな特徴を持った男の人を、見つけてしまった……。
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お待たせしてしまってすみません。




