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253/308

・依頼人エヴァンス

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 書籍化にあたってタイトルを少し変更しました。

 まだ確定ではありませんが、この名前でお店に並びます。

 現在、最終稿の作業中です。最高の書籍版を仕上げて、そこからコミカライズへと繋がってゆくがんばってゆきます。応援していただけるとありがたいです

 数年ぶりに訪れたフリドオアシスは果樹に飲み込まれていた。

 どこを見回しても果物、果物、果物ばかりで、収穫されなかった物が地に落ちて腐敗していた。


 うちらの暮らしているところはシャンバラの中心なのでもう拓かれていたけれど、このフリドオアシスはおびただしい草木にいまだに飲み込まれたままで、人々は樹海とオアシスと共に暮らしていた。


 道行く人にエヴァンスさんの家を聞いて、ちょうど今やっと見つけ出した。

 その家も急成長した草木に全体を飲み込まれていて、まともに管理されているのは出入り口部分だけだった。


「はい、どなたですか……?」

「こんにちは! うちはウェルサンディ、エヴァンスさんの陳情を見て来ました!」


 ノックをすると奥から穏やかな女性の声が聞こえた。

 足音がやけにゆっくりと扉の向こうにやってきて、しばらく待つと玄関が開いた。


「あっ、もしかして……ユリウス様の娘の……」

「うんっ、そうだよ、ユリウスはうちのパパ! そっちはエヴァンスさん?」


「ええ。でもごめんなさい、こんな大切なときにユリウス様のお手を煩わせるなんて……」

「あ、こっちこそ期待させてごめん……。実はね、パパは関係ないの……」


「え、そうなんですか……?」

「うんっ、でも安心して! うちら三姉妹はパパの凄いところをそれぞれ受け継いでるの! こんなふうにねっ!」


 パパやおじさまが怒る使い方だけど、うちはパパのまねをした。

 パパがするように相手の背後に飛んで、相手の肩を後ろから叩いた。


「キャッ……?!」

「うちは転移魔法の才能を受け継いだ――あっ、ごめん、大丈夫……っ!?」


 エヴァンスさんがよろめいて、うちはその背中を支えることになった。

 彼女は色の薄いブロンドと、体重がないかのように細い身体を持った華奢な人だった。なんかこういう人、グラフママが凄く好きそうだ……。


「違います、サンディちゃんのせいじゃないのです……。私、昔からこういう身体なのです……」

「そうだったんだ……。そうと知らずうち、ごめん……」


「気にしないで、この身体は元からだから……。あ、少し待って下さいね……」


 エヴァンスさんはお茶の支度をしてくれるようだ。でも見ていられなくて、うちはエヴァンスさんと一緒に厨房に入った。

 話してすぐにわかったけど凄くいい人だ。いい人だからこそ、ますます助けてあげたくなった。


 彼女は人任せにしたくて兄探しを依頼したんじゃない。

 自分じゃ探せない身体だから都市長シャムシエルを頼った。うちはジィジの孫としてこの人を助けたい。



 ・



「兄のロキシスを捜してほしいのです……」

「あ、うん。じゃ、詳しい話聞かせて? 行方不明になったのは1月前だっけ?」


 オレンジピール入りの紅茶を、スライスしたリンゴをお茶請けにして楽しんだ。美味しいお茶だったから、後でどこで買ったか教えてもらおう。


「ええ……正確には、34日前です……」

「お兄さんのこと大好きなんだね。……それで、お兄さんは何か言ってなかった?」


「いえ、いつもと変わりませんでした。仕事が終わると帰ってきて、私の作った食事を食べて、お喋りをして、眠って……。そんな毎日です……」

「えっと、じゃ他に親族は……?」


「私たちは2人だけです……」

「そっか、ごめん……。このお茶凄く美味しいっ、どこで買ったのっ!?」


「ふふ、でしたら後でお分けしますね。大好きな紅茶に自分でオレンジピールを加えたの。兄が果樹園で働いていたので……」

「凄いっ、これ自分で作ったんだーっ!?」


 ママに少し似てると思った。ママはこんなにおとなしくないけど、ママに似てやさしい雰囲気があふれていた。絶対に絶対、この人グラフママの好みだ……。


「ありがとう、気に入ってもらえて私も嬉しいです……」

「あ、それでさ、うち思ったんだけどさ。……あの樹海化のせいでさ、国中が混乱してるじゃない? そのせいで戻ってこれないって可能性もあるよね……?」


「そうですね……。でも兄は、仕事が終わると買い物だけして、まっすぐに帰ってきてくれるんです。兄が黙ってオアシスの外に出るとは思えないのです……」


 パパとママがこの樹海化を引き起こしたとするなら、ますますうちがこの人を助けなきゃいけない。

 しばらくうちはエヴァンスさんの言葉を噛み砕いて、やっぱり推理なんて向いてないと頭を振り払った。


「でもロキシスさんだって、たまに寄り道するところもあるよね? うち、そこから当たってみるから、よく行くお店とか教えてくれる?」

「ありがとう、ウェルサンディちゃんは優秀な探偵さんですね……」


「ま、まあねっ! スーパーエリートの娘ですからっ!」

「うふふふっ、なあにそれ?」


「パパの昔の口癖なんだって。事あるごとに言ってたらしいの」


 エヴァンスさんを元気にして、ロキシスさんの行きつけの店を聞いて、うちはオレンジピール入りの紅茶をおみやげにもらって調査に出た。

 エヴァンスさん。うちは好きだ。うちはこのやさしい人を助けたい。

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