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・バインダーと失踪者

前回の更新。実は半分に分割し忘れたものでした。(翌日に修正しました)

更新日に読んで下さった読者さん、ごめんなさい!


「わかった、ママたちの許可が下りたら考えるよ」

「下りるかそんなものーっ! 頼むぅーっ、父から母を説得してくれーっ!」


「そう言われたってな……。ただでさえこの混乱状態だ。親としてはもうしばらく、ここに居てくれた安心するんだが……」

「お父さん……2人ともね、もっと、お父さんとお母さんたちの助けになりたいだけなの……」

「そうよ、みんながんばってるのに、なんでうちらだけ地味な仕事ばっかりしなきゃいけないのっ!?」


 パパはうなづいてくれなかった。

 困ったようにため息を吐いて、水槽の中のポーション瓶を自分で木箱に移し始めた。まだ義手に慣れていないくせに……。


 うちら姉妹はパパの後を追って、パパを引っ張ってイスに座らせて、梱包作業を代わった。


「仕方ない、義兄さんのところにでも行ってこい。言えば何か仕事があるかもしれない」

「本当っ!? やった、パパ話わかるじゃない!」

「ウルド、そなたも一緒にいくぞ!」

「えっ、で、でも、私……っ」


「一緒に行っていいぞ。代わりにラウリィを呼んできてくれ」


 そういうことになった。うちらはスタミナポーションの梱包を済ませると、台車を使ってラウリィのいる商館に荷物を運び出した。


 ウルドは仕事漬けでストレスがたまっていたのか、外に出るとメープルママ似のベビーフェイスで晴れやかに微笑んでいた。


「ユリウス様がっ!? もちろん行きますっ、行かせてもらいますっ! ありがとうサンディちゃんっ、スクルズちゃんっ!」

「うむ、父によろしくなー」

「ご、ごめんね……ラウリィくん……」


 これでよし! 後はうちらの新しい仕事を探すだけ!

 バザーオアシスの商館から離れると、うちらは市長邸を目指して姉妹でお喋りをしながら歩いた。


 市長邸に着くと、たくさんの人が建物の中を忙しく行き交っていた。

 うちらはその中から伯父の顔を探して、少しの間キョロキョロと見回しながら待った。


「おや……何かジィジにご用ですか、皆さん?」

「ううんっ、あなたを探してたの! スレイ伯父さん!」


 パパは名前を忘れがちだけど、この人の名前はスレイ。メープルママとシェラハママと同じで、ジィジに拾われた孤児だって聞いた。


「私を……?」

「頼むぅぅーっ、伯父貴ぃぃーっっ、ワシらに仕事くれーっ!!」

「ふ、2人とも、パパのお手伝い、飽きちゃったみたいなの……」


「ふむ……お父さんとお母さんの許可は取りましたか?」

「ぎくぅーっ?!」

「パパは許してくれたわ! ママたちはまだだけど……」


 うちらのマゴマゴとした様子に、スレイ伯父さんはやさしく目を細めた。すっごいイケメンだけど、うち的にはやっぱり渋さが全然足りない。


「書斎へどうぞ。幸か不幸か、ジィジは今ちょうど不在です。この隙に何か探してみましょう」

「助かるぞ伯父貴ぃっ!」


 うちらは伯父さんと一緒に書斎に入った。

 伯父さんは棚からバインダーを取り出して、それを書斎の上に置いて開いた。


「民からの陳情をまとめたものです。助けを求める者は多いのですが、とても手が回り切っていません」

「えっ、私たちに、任せてくれるんですか……?」


「簡単な物ならかまわないでしょう。それに……貴女たちを大切にしたいシェラハたちの気持ちはわかりますが、姫君が率先して民のために働くというのは、それはそれで士気高揚に繋がります」


 うちたちは少し困ってしまった。

 パパとママがあまりに立派だから、シャンバラのみんなはうちらのことをとても大切にしてくれる。でもうちたちはただの子供だった。


「むー、地味ぃ~な仕事ばかりなのじゃ……」

「まあ、大きな事件は放置できませんので」


 バインダーを姉妹でのぞき込みながら、スクルズがページをめくっていった。

 すると1つだけとても気になる陳情が目に入って、スクルズの手の方も止まっていた。


 依頼人はフリドオアシスのエヴァンス。

 1ヶ月前に失踪した兄のロキシスを捜してほしいという内容だった。


「それは止めましょう。もしかしたら事件かもしれません」

「待ってっ!」


 スレイおじさんがページを次に進めようとしたので、うちはバインダーの中に手を置いてそれを止めた。


「面白そうじゃ、ワシはこれがいいっ!」

「ダメです、こんな仕事を斡旋したら私が怒られます!」

「でも……このエヴァンスさんって人、凄く困ってると思う……。お兄さんが心配で頼ってきたのに、何も出来てないんだよね……?」


 普段控えめなウルドもうちの手の上に自分のものを重ねた。うちらは姉妹の希望はこれで決まりだった。


「うちら、この仕事にするっ!」

「決まりじゃ! このエヴァンスという人に会いに行ってくるのじゃ、サンディ!」

「バ、バックアップは、私たちに任せて……」

「いえ待って下さいっ、犯罪に巻き込まれたらどうするのですっ!?」


「大丈夫、うちは誰にも捕まらないわ」


 帰らない家族の帰りを待っている人がいる。

 知ってしまった以上はもううちは止まれない。これは転移魔法使いのうち向きの仕事だと言い張って、スレイ伯父さんを説得した。


「そういう紐の切れたタコのようなところがユリウスさんにそっくりですよ……」

「大丈夫、必ずうちがこのロキシスって人を見つけ出すからっ!」

「推理はワシに任せよ! 安楽椅子探偵役はワシじゃ!」


「じゃ、行ってくるわ!」

「今から!? ちょっと、待ちなさいサンディッ!!」


 いつも丁寧なスレイ伯父さんが、うちに命令調の言葉を使うのが面白かった。

 うちは尊敬するパパみたいに世界の裏への扉を開くと、フリドオアシスを目指して歩きだした。


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