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・水涸れの原因 樹の迷宮 1/3

「なあ、これは仮説だが……これが水涸れの原因なんじゃないか?」


 俺たちの目前には今、『樹の迷宮』と系統付けられるものが立ちはだかっていた。

 その扉はまるで磨かれていない翡翠のような材質で、触れるとひんやりと冷たかった。


 砂漠の地下だというのに、ここでは扉の周囲には壁となって樹木がうねり、その葉は決してしなびれることなく青々と息づいている。


「仮説っていうか……まんま、これが原因だと思う……」

「そうね。この葉なんて憎たらしいくらい瑞々しいもの。中に地下水が流れ込んでるとしか思えないわ」


 姉妹が樹木に身を寄せると、エルフという種族ゆえかこの上なく緑の背景に似合った。

 俺は2人に見とれかけた頭を振り払って、翡翠色の扉を押し開いて奥をのぞく。


 内部は典型的な樹タイプの迷宮で、岩盤と樹木の壁と若草の床で覆われていた。

 カラッとした砂漠の気候とは正反対に、中は涼しく湿潤としている。


「では行こう」

「えっ……? ちょ、ちょっと待ってそれは困るわよっ! だってあなたが怪我したら、誰がみんなのエリクサーを作るのよっ!?」

「姉さん……だから言ったでしょ……。この人、とんでもないよ、って……」


 腰のナイフに手をかけて1人で迷宮にどんどん入り込むと、姉妹が慌てて駆けて来た。

 シェラハゾは俺の正面に回り込むと、両手を広げて道を塞ぐ。


「あなた人の話聞いてるっ!? ここであなたが危険を冒すことないじゃない!」

「これは調査の延長だ。それにここまで突き止めて、手ぶらで帰るなんて考えられん」


 すり抜けようとすると、頑固にも彼女は俺の突破を阻んだ。


「メープルッ、手伝って!」

「姉さん……たぶん、無理だと思うよ……。その人、断崖絶壁で、平気で片足立ちするような……危機感とか、そういうの、完全に麻痺してる人種……」


 酷い言われようだ。

 つまらない言い合いで立ち往生する気はないので、俺は一歩下がると見せかけてから、素早く亜空間を開き、シェラハゾの背後へと転移した。


「行くぞ」

「えっ……な、何、今の……?」


「ただの短距離の亜空間転移だ。ここからは俺の心配より、自分の心配をした方がいい。……行くぞ」

「へーき。ユリウス、クソ強いから……大丈夫だよ……」


 マク湖を生み出していた地下水が、この迷宮のどこかに流れ込んでいるはずだ。

 湖の底に迷宮が生まれたことと、水涸れが無関係とは思えない。


「ちょっとユリウスッ、もうっなんなのよっ、あなたって人はっ!」

「だったらカバーしてくれ。あの扉の向こうに何かいるぞ」

「ドン引き……この人、また前衛する気だ……」


「魔法を撃つより、転移して急所を突いた方が楽だ」

「ダメよっ、都市長に怒られるわ!」


「いいから行くぞ」

「全部よくないわよっ!!」


 制止を無視して扉を開き、俺は標的を発見するなり転移した。

 動く樹木の怪物トレントが3、後衛に魚男のサハギンアーチャーが4だ。


 狙撃を受けるよりも速く、亜空間という裏道を使ってサハギンの背後に回り込むと、俺はナイフで敵の急所を突いた。

 シェラハゾが細剣を抜き、こちら目掛けてトレントに突撃するのを見届けると、俺は立て続けにサハギンをもう1体片付けた。


敏捷性低下(スロウ)! 守備力弱体(アーマーブレイク)! お姉ちゃん、いいよっ!」

「補佐する側の身にもなりさいよっ、もうっ!!」


 トレントの3m近い巨体から繰り出される樹木の槍を、シェラハゾはまるで体重がないかのように軽やかにかわし、その細剣で怪物の顔面を貫いた。

 あっちは大丈夫そうだ。こっちは後ろを突かれて恐慌状態のサハギンを、転移からの奇襲で全て片付けた。


「消し炭になっちゃえ……ファイアーッ!」


 片方は焼かれ、もう片方は何度も貫かれて、2体のトレントが動きを止めた。

 残る1体は俺が片付けよう。トレントの上空に転移すると、俺はやつらの急所である光る木の実を刃で刈り取った。


 たった一撃でトレントが倒れ、少し遅れてフロアの全てのモンスターがドロップへと変わっていた。


「つ、強いわ……。いえ、強いというより……なんなのよっ、あなたっ!?」

「魔法の使い方が、変態的……」

「褒めてるのか、それ?」


「うん……変態は、いいこと……」

「よくないわよ……っ」


 姉妹の言葉を軽く聞き流しながらドロップをかき集めた。

 トレントの魔石が3、枝が2、サハギンの鱗が4に、水色のプリズンベリルが1だ。


「ここはなかなかドロップ率がいい。さあ行くぞ」

「ユリウス……あなた、全部おかしいわ……。あたし、そんな器用に転移魔法を連発する人なんて、見たことないわよ……」

「同感……。なんで閑職に追われたのか、イミフ……」


「今思えば、凄く性格が悪かったからだろう」


 ぐいぐいと前進すると、シェラハゾが隣に並んできた。

 メープルは後衛なので後ろに控えて、俺たちのやり取り眺めている。


「この上なく、納得……」

「そうね、空気が読めないのは知っているわ。だけどあたしたちが調べた限りでは、悪いのはアリ王子の方よ」


「王子がユリウスの提案、聞いていれば……戦争の結果は、違った……」

「お前ら、そこまで調べ上げていたのか……」


 2人の諜報力に驚くまもなく、下り階段の先に新しい扉が現れた。


 うなずき合って内部に突入すると、今度はサハギン軍団だ。ソードマン、アーチャー、マジシャン合計13体を、俺たちは前後から一網打尽にした。


 やはり妙だ。樹の迷宮だというのに、水の迷宮で現れるような水棲系が現れている。

 それは俺たちの仮説を裏付けて、前へ前へと進ませた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公かっこよ… と思いたかった。こいつ覗きの変態クソやろーじゃねぇかww
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