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・5年目 母は超絶に強し - 母、強すぎ -

 雨が上がったのは翌日の午前だった。シャンバラ史上例のないこの長い雨は、砂岩の建物を浸食し、オアシスを増水させ、砂漠を踏破不能の泥沼に変えた。


 あの時カマカマコンビが機転を利かせて、キャンプに物資を運んでおいて正解だった。

 その日は復旧活動のために、貴重な大地の結晶を消費して万能建築素材コンクルを作り続けた。


 よって実際に迷宮探索に動けたのは、翌日の昼前のことだった。その頃には砂漠の水も抜け、オアシスの水位も正常まで落ち着いていた。


 俺たちは砂漠の一角を訪れ、その地下に眠る草の迷宮の攻略を開始した。

 迷宮の入り口は淡い色合いの若草で覆われており、内部もまた壁から床、天井まで全てが何かしらの草か苔で覆われていた。


「お、おおぉぉ……」

「わぁぁぁ……っ」

「楽しそうっ、わがまま言ってみてよかったぁーっ!」


 子供たちは未知なる世界に魅了されていた。臆病なウルドまで不思議の世界に夢中になり、現れた植物系モンスターの姿に震え上がった。

 半亜人、半植物のウッドオークに歩く食虫植物、うねる触手の塊みたいな連中たちだった。


「ぇ……っ?」

「にゃ、にゃんじゃそりゃぁぁーっっ?!」

「あ、あれ……もしかして、もう終わり……?」


 全部シェラハがぶちのめした。触手は長剣の乱舞にみじん切りにされ、真空波を伴う音速の斬撃が中距離から巨大食虫植物をバラバラにした。ウッドオークは張り手で吹き飛ばされただけで生命力を失った。


「ふふふっ、ごめんなさいね、ユリウス。ちょっと張り切り過ぎちゃったみたい」


 子供たちは母親のあまりの強さにドン引きした。

 知らなかったようだからあえて言おう。シェラハという女性は美しくてやさしいだけではなく、とんでもなく強いのだ。


「いいさ、後ろから見ているだけというのも悪くない」

「ママって……えっ、強すぎない……?」

「凄い……シェラハお母さん、かっこいい……」


「そ、そうかしら……♪」

「ワシもシェラハみたいに、強くてやさしい女になりたいのじゃ!」

「カッコイイッ、メチャメチャカッコいいよっ、ママッ!」


 そんなわけで、しばらくはシェラハや子供たちに華を譲ってやった。

 どうやらこのダンジョンは1フロア1エネミーグループのようだ。構造は一本道で、階段部屋と階段部屋の間に敵や宝箱の現れるフロアを挟む仕組みだった。


「ドリャーッッ!!」

「ファイアッ!」

「え、えいっ!」


 スクルズはマリウスがカスタマイズした魔法銃を構えて、奇声と一緒に高威力のマジックアローを放った。サンディは師匠譲りの攻撃魔法を放ち、ウルドは一番後ろからチクチクとコンポジットボウで狙撃した。


 父親の出番は今のところ荷物持ちだけだった。


「かわいいっ!!」

「猫さんの……えっと、置物……?」

「わはははーっ、なんじゃこりゃっ、金ぴかの洗濯板を持ってるのじゃ!」


 モンスターのドロップは普通だったが、宝箱の中は妙な物ばかりだった。

 今明けた宝箱には、片手を上げた猫の陶器人形が入っていた。ガラクタだ。


「捨て――」

「お願いユリウス、あたしもこれ欲しい……」

「後生じゃぁぁーっ、父ぃぃーっ!!」


「その後生は今日で4回目だろ……。わかったわかった、上に運んでおく」


 手が余って暇だったので、転移魔法を駆使して迷宮の入り口にお宝を運む役を担った。


「この猫さん、どこに飾ろっかっ!?」

「割れちゃうと困るし、家の中、かな……?」

「次はでっかいぬいぐるみがいいのじゃ! 迷宮さん、頼むぅーっ!!」


 そんな調子で俺たちはどんどん下って、どんどんガラクタをかき集めていった。スクルズのわがままを迷宮が真に受けたのか、胸の下の辺りまでもあるヒヨコのぬいぐるみが出て来た。


 なんだか迷宮にからかわれているような気がした……。


「あれはルインタートルか、懐かしいな」

「うっ……あたし、あれはトラウマよ……っ」

「お母さんが怖がるほど、強いの……?」


「あれは攻撃すると自爆するんだ。シェラハ、みんなを下がらせてくれ、始末してくる」

「へっ……? マ、ママ……?」


 草の迷宮は土の迷宮に性質が近いので、近い系統のルインタートルがいる可能性もなくはない。俺が腰の剣を抜くと、シェラハは青ざめて子供たちを上のフロアに押していった。


 俺の方は転移して、敵を一カ所に引きつけると、ルインタートルの宝石部分を聖剣で叩き割った。


「あ、お帰りお父さ――ヒァッッ?!!」

「ギャーーッッ、死ぬーっ、怖いのじゃぁぁーっっ!!」

「な、何っ、なんなのっ、じ、自爆って……っ、こんな破壊力いくらなんでもおかしくないっ!?」


 上の階に転移すると、爆音と共に地面が揺れた。ここの迷宮は構造がシンプルなのできっと大丈夫だろう。


「粉塵が収まるまで少し休もう。迷宮についてきたこと、後悔したか?」

「お願いユリウスッ、あれを急に爆破するのは止めてっ!!」


 シェラハ、お前は俺と一緒に子供たちを怖がらせなければならない立場だろう……。


「まったくもー、とんでもない父なのじゃ……!」

「わ、私も、トラウマになった、かも……」

「う、うちは平気だもんっ! うちだって、パパと同じことっ、出来るんだからっ!」

「なら次はサンディに頼むか」


「ひうっ、パ、パパァッ?!」

「慣れるとあの強烈なスリルが病み付きになる」


 この子たちは天才だ。天才ゆえに慢心して危険に飛び込むことになる。だから今のうちに怖がらせておきたかった。世界は恐ろしいやつでいっぱいなのだと。


「父も母も、家で知ってる顔と全然違うのじゃ……。修羅じゃ、修羅と羅刹がおるのじゃ……」

「わ、私たち……こんなに凄い人の、子供だったんだね……」

「なんなのよーっ! モンスターが自爆するなんてっ、そんなのわけわかんないわよーっ!」


 休憩しよう。圧縮食料を取り出して、例のポットを使って大気中の水分を水に変えた。

 どちらも闇の迷宮をシェラハと共に下ったときに使ったものだ。


「凄すぎるよ……私、お父さんの跡取りに本当になれるのかな……」


 そこから先の迷宮はボスタイプがちらほらと現れるようになったが、危険な個体は俺とシェラハが瞬殺していったので特に問題は発生しなかった。



 ・



「あっ、綺麗な宝箱!」

「もしかしてあの中に……」

「開けていいかっ、父っ、母っ!?」


 時間の感覚が狂うほどの長期戦の果てに、俺たちは地下110階に到着した。

 部屋には宝箱が1つだけで、その表面はビーズを散りばめたかのようにゴテゴテと飾りたてられていた。


「ダメだ、危ないから俺が――」

「もう我慢できんっっ、ドヤーッッ!!」


 ここまで1度も宝箱に罠なんてかかっていなかったのだから、罠がないことは分かり切っていた。

 俺とシェラハは親の言うことを聞かないわがまま娘に寄って、みんな一緒に箱の中を確かめた。


「わ、凄く甘い匂いがするよ……?」

「美味しそうね。それにいっぱいあるわよ、ユリウス?」

「後生じゃ父ぃーっ、1つ食べていいかっ!?」

「お前らな……。ダメに決まってるだろ」


 確かにアンブロシアだ。それはルビーのように輝く不思議の果実で、図鑑通りに強く甘い香りを放っていた。


もしよろしければ、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】をいただけると嬉しいです。

書籍の発売に向けて、少しでも認知度を上げてゆきたいです。

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