・5年目 ゲフェン王国観光記 - 東洋人の街 -
東に広がる内海を船なしで越えて、俺たちはついに東方にたどり着いた。
ここはシャンバラから陸路でたどり着ける土地ではあったが、内海を迂回しなければならないこともあって、大陸中央部で暮らす者には全く縁のない場所だった。
「お待ちしておりました、ユリウス様、ウェルサンディ様。遠路はるばる、ようこそゲフェンへ」
「待たせたな、早速だがそちらの首尾を聞こう」
もちろん領事館なんてものもない。あるのは商館と呼ぶには殺風景な大倉庫だけだ。ゲフェンはシャンバラとの貿易関係こそあったが、強く結びつくにはあまりに遠すぎた。
「上々だな」
「時間だけは十分にございましたので、やれることは全て」
そのため、大倉庫が集合場所になった。捜索隊を担っていたエルフたちは、俺がやってくると次々と集まって来て、誇らしげに胸を張ってくれた。
「それにしてもよくやってくれた。俺の無謀な思い付きに、こんな東方の果てまで付き合ってくれたみんなには、感謝しかない。ありがとう」
「はいっ、長い苦労がついに報われました!!」
捜索隊の面々はこちらの倉庫で働く商会の者と連携し、ゲフェン王家とのルートを確保してくれていた。今すぐゲフェン王へのアポを取ってくれることになり、俺とサンディは彼らが手配してくれた宿に落ち着いた。
「何もかもが素敵! ゲフェンは緑の国なのねっ!」
「木が多いと落ち着くのは、ツワイク育ちの俺も同じだよ。しかし、何もかもが不思議な土地だな……」
外交官である俺たちは、相手に舐められないために高級旅館の離れの間に泊まることになった。
建物の広さはほどほどだったが、黒檀がふんだんに使われた調度品や、よく作り込まれた木造の彫り物など、設計者の創意工夫がふんだんにちりばめられていた。
「ねぇパパ、遊びに行きましょ! だってみんなのために、お土産を買わなきゃいけないもの!」
「到着初日だぞ、気が早くないか……?」
「理由なんてなんでもいいのっ、さ、行きましょ!」
「わかった」
外交官の勲章を懐に隠すと、俺とサンディはゲフェンの城下町に出た。
するとまたもやサンディは人々の注目を集めた。自慢の娘だが、自慢過ぎて将来がますます心配になった……。
「サンディ、世の中は善人ばかりじゃない。シャンバラのみんなはやさしいが、ヒューマンはお前が思っているより悪辣――」
「もう、その話は昨日も聞いたわ。似た話なら一昨日もよ!」
「心配なんだ……」
「立場が逆よ、今回はうちがパパのお目付役! パパこそ、ママを心配させるようなことしちゃダメよ」
「それは……わかっている……」
「わかってないわ。ママたちはパパが大好きなのっ、だから危ないことしちゃダメッ、わかった!?」
「……わかった」
こうやってハッキリと物を言う性質は、グライオフェンに似たのだろうか……。
なぜか俺は娘に説教されながら通りを進んで、サンディが喜びそうな商店街へと誘った。
「わぁっ、飴屋さんだって!」
「飴か、お土産にもぴったりだな」
「お土産? ああそうねっ、忘れてたわっ、ふふふっ」
店の軒先には色とりどりの飴玉が展示されていた。
気まぐれなサンディと並んで店に入ると、そこはエルフにとっての天国だった。木造のケースのそれぞれに、赤や青、よく済んだ琥珀色に輝く飴などが敷き詰められていた。
「パパ……大変……」
「どうした、どれが欲しい?」
「うちっ、ここの飴が全部欲しいっ!!」
「外交官の娘でも、さすがにそのわがままは通らないだろう」
「じゃあ、買えるだけ買っていい!?」
「あ、ああ……。帰りに自分が困らない範囲でな……?」
「ママたちと分けたらこんなのあっという間よっ、お願いパパも一緒に持ってっ!」
「いつから俺たちは飴の買い付けに来たんだ……。だが、一理ある」
大口の買い物をしたいと店主に話を通すと、試供品をたくさん分けてくれた。特に青く澄んだ飴が不思議な味だった。口の中で転がすと、少しシュワシュワとした。レシピは教えてもらえなかった。
店の者に荷物を持ってもらって宿に戻り、再び外へと出るともう日没前だった。
サンディは東方の町並みに夢中だ。もう少しだけ散歩することになり、俺たちはそこで出会った新しいお土産を買った。
「さあ帰ろう、せっかくの高級なタダ飯を食いっぱぐれるぞ」
「大変っ、そのことバッチリ忘れてた! えへへっ、パパにくっついて来て本当によかったっ!」
サンディは両手に風車を抱えて笑っていた。
それは厚手の紙で作られた不思議な風車だ。まるでバラの花のように見えるその風車は、息を吹きかけるとクルリと回り出す。
そんな回る花の姿を、サンディは子供みたいな表情で夢中で眺めていた。
「お土産、もっと買って帰ろうねっ!」
「いや、これ以上は無理だろ……」
「ダメよっ。パパとうちが感じた驚きを、みんなにももっと知って欲しいの!」
俺たちは宿に帰り、物珍しいゲフェン料理に舌鼓を打って、明日から始まる重要な外交任務に備えた。




