・5年目 ビーム(極大)が出る魔法のカクテル
ファルクにはオーブと水槽を使った工業的な錬金設備はない。
あるのは巨大な醸造樽と、地元産のワイン用ブドウにランスタ産の小麦が詰まった木箱、それと俺を取り囲む屈強な酔っぱらいどもだけだった。
「ユーリアスッ!! ユーリアスッ!! ユーリアスッ!! あもういっちょっ、ユーリアスッ!!」
彼らはファルク王国第一軍、口からビーム発射隊だ。ギャグのようだがマジでそういう名称らしい。理解しかねるセンスだ。
つまり彼らはこの戦争最大の武勲者たちであり、モンスターカクテルの過剰摂取により完全な泥酔状態に陥ったクソ迷惑な酔っぱらいでもあった。
「アホですか、アンタらは……」
「愛してるぜぇ、ユリアースッ!! お前の酒があれば俺たちは無敵だぜぇ!!」
ファルク王が音頭を取ると、酔っぱらいたちが歌い出す! 踊り出す! 千鳥足でフラついて物を壊す!
俺はそんなクソ迷惑の権化たちに囲まれながら、巨大な醸造ダルの前の足場に立って超高濃度モンスターカクテル(ビーム味)を作っていた。
「へへへ、今から一杯やるののが楽しみですねぇ、王!」
「あたぼうよっ! この匂い立つ強烈な酒気とブドウ酒の芳香! これを飲まずに帰れるわけがねぇだろ、お前らっ!」
『ここは有事のために飲まずに備蓄しておいた方がいいのではないですか?』なんて正論が通じるわけがないので、俺は黙った。
彼らは精鋭の中の精鋭だ。正規軍選り抜きの酒豪どもに限界などなかった。
「うおぉぉぉーっ!! ユーリアスッ、ユーリアスッ!!」
「俺、何しにファルクに来たんだっけ……。ああ、家族と砂漠が恋しい……」
錬金術の魔力でブドウと小麦、魔物の爪を強引に混ぜ合わせて、臨界に達したそれを超濃縮モンスターカクテルに仕上げた。酔っぱらいどもは大興奮だ。千鳥足の男がブドウの箱に頭から突っ込んだのを見た。
「もう飲めるのか!? 飲めるよなっ、飲ませてくれよユリアスッ!」
「いや、でもこれ、薄めないと絶対ヤバい……」
「最高じゃねぇか!!」
「いや、これの魔力でファルク王の頭が吹っ飛んだら、それ俺のせいになるんですけど……」
「知らねぇよんなこと! よっしゃてめぇら、樽持ってこい樽っ! 外でおっぱじめようぜ!!」
「人の話聞けよ、このバカ王っっ?!!」
「ガハハハハッッ、バカ王かっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか、ユリアスッ!!」
「親愛の言葉じゃねーよっ?! あっ、またそうやって勝手に……!?」
精鋭たちは自ら王のための足場となり、大樽を持ったファルク王は巨大な醸造樽から濃縮モンスターカクテルを強奪した。そして彼らは軍隊らしい無駄な連携力と機敏さで、酒蔵を飛び出して行く。
「飲むにしてもちょっとにして下さいっ、一気飲みとか絶対ダメですよっ!!」
俺は彼らを追って酒蔵の外に出た。すると――
「うっめぇぇぇぇぇぇーーーーっっ!!」
ファルク王が、ブナの大木の幹よりもぶっとい最強最悪のビームを天へと吐き出していた……!
「人の話聞けよぉーっっ?!!」
ファルク王はたっぷり2秒間ほどかけて純粋破壊エネルギーを吐き終えると、空の大ジョッキを天に掲げる。それからこう言った。
「ガーッハッハッハッ、細けぇこたぁいいのよっ!!」
「いつか死ぬぞ、アンタ……」
「上等よっ! 友の酒で死ねるなら最高の人生ってもんよっ!!」
「ファルク王……」
「へへへ、俺ぁユリアスのことを大事な友達、いやせがれ同然に思ってるぜ!」
「俺を友達だと思ってくれてるなら人の話聞けよっ、このアル中王っっ!!」
「ガハハハハッ、さあ飲もうぜ、ユリアス!!」
「んな危険物誰が飲むかアホーッッ!!」
超濃縮モンスターカクテルの試作に成功した。
あくまで酒豪という意味で選り抜きの精鋭たちはファルク王に倣い、次々に超濃縮カクテルを中ジョッキで胃袋に流し込み――
『うっめぇぇぇぇぇぇーーーーっっ!!』
ファルク王国の曇り混じりの空から、雲という雲をビームで消し飛ばしていった……。
もうやだ、この国……。
・
そこにある醸造樽全てに超濃縮モンスターカクテルを仕込むと、やっと自由の身だ。
俺はいびきを立てる酔っぱらいどもだらけの酒蔵を出た。
「よう、大変だったみてぇだな」
「ああ、師匠……。そっちの方はどうですか……?」
外では師匠が待ってくれていた。ファルク王たちにゲンナリさせられていた俺は、師匠の変わらない姿についらしくもなく微笑んでしまった。
「成功だ。頭の中に、金属板と袋入りの水薬が埋め込まれていた」
「……想像するだけでおぞましい」
「普通そこまでするか? って感じだよな」
手術は成功。これでより多くの情報を捕虜から引き出せる。その捕虜が、アダマスのように何かに秀でていればそこから向こうの技術も手に入る。……悪くない結果だった。
「で、あのビームの出る酒の方はどうだ?」
「どうに確保出来ました。侵略により、モンスター素材が山ほど手に入りましたから」
「そうか、お疲れさん。しかしまさかあのビームが出る酒が一国救うたぁな! はははっ、この目で蹂躙を見たかったぜ」
「俺は遠慮したいです」
「よし、お前は報告に戻れ。後のことは俺に任せろ」
「え、いいんですか?」
つい嬉しくて俺は笑っていた。家族のところに帰れると思うだけで、口元が緩んでいた。そんな俺の姿を師匠はやさしく笑って、それにごまかすように乱暴に肩を叩いてきた。
そこまではよかった。
「あっここにいたのね! パパッ、うちお弁当を作ってきたの!」
しかし不意にサンディの声が響いて、バスケットを抱えた彼女が俺たちの前に飛び込んで来た。俺と師匠は小さな天才の姿に思考回路まで固まり、すぐには言葉を返せなくなっていた。
「もう、無視しないで! おじさま、今日もお髭が素敵ね!」
「お、おう……」
「サンディ、なぜここにお前がいる……」
「あのねっ、ママたちと一緒にお弁当作ったの! 差し入れよ、パパ!」
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勇者パーティの汚れ役を担当していた盗賊の物語です。
ジャンルとしては勧善懲悪、ダークヒーロー系です。
戦闘ではなく、盗みの技でスマートに目的を達成してゆくお話です。
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