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・5年目 ガハハ!

 少し話が前後するかもしれないが、白の棺の回収数はあれから0のままだ。

 白の棺が見つからないということは、それだけ侵略の出入り口が順調に減っているということでもあるので、一概に悪い結果ばかりとも言えない。


 全ての棺を破壊すれば侵略を防げる。だが全ての棺を破壊できていなければ、残る棺からやつらが現れる。だから俺たちは白の棺を回収し、それで世界を繋げる。この方針に現在も変更はなかった。


「よう、混ざらねぇのかよ、パパさんよ」

「知らなかったんですか、ああいうのは女性だから許されるんです。男がやったら見苦しい」


「はははっ、正論だな。遠くから眺めるのも乙なもんだ」

「人の嫁と子供を変な目で見ないで下さい」


 しかし師匠が転移魔法を日用使いする事は珍しい。ならばこれは重大な話なのだろう。


「悪ぃが仕事だ、今すぐファルクに飛ぶぞ」

「……状況は?」


「それを確かめに行く。あちら行きの転移門がストップしちまった……こりゃ、あっちで何か起きてるぜ」

「わかりました。少しウルドに会ってきます」


「急げよ」


 普段封印している転移魔法を使って、俺はキャッキャウフフのエルフの水浴びに乱入した。


「ウルド、俺は急いで出かけなければならなくなった、すまないが残りの仕事を代わってくれ」

「え、うん……いいけど。でもなんで急に?」

「その様子、また何かあったのね……」


 さっきまで笑顔いっぱいだったのに、シェラハは不安そうに岸までやって来た俺の手を取った。


「ファルクの転移門が止まった。シェラハたちは都市長のところに念のための合流を」

「止まったって……。なんか、ヤバいね、それ……」


 メープルも同じように手を取って別れを惜しんでくれた。だが今は時間がない。


「師匠と一緒に様子を見てくる。悪いがもう行く」

「気を付けてね、ユリウス……」

「死んだら呪うから……よろしく……」

「おおっ、死んだ方を生きてる方が呪うとか斬新なのじゃ!」


「必ず戻るよ」

「それ、フラグ……」


 無愛想な別れを済ませて、俺は師匠の待つ工房へと戻った。


「じゃ、いくか」

「ええ、準備は出来ています」


 最近全く使っていなかった聖剣を腰に吊した。


「戦いになるかもしれん。覚悟決めとけよ、バカ弟子」

「わかってますよ、そんなこと」


 俺たちは世界の裏側に潜り込み、ファルク王国へと歩き出した。

 もしかしたら……いや、もしかしなくともこれは戦いになる。明確な予感が俺たちを駆り立てていた。



 ・



 ところが、だ……。

 ところが現地にいざ到着してみると――既に全てが終わっていた……。


「ガハハハハハッ、遅かったじゃねぇか、ユリアス!!」

「ユリウスです」

「なんだよ、お前らで全部片付けちまったのかよ……」


「おおっ、酒樽の友よ! モンスターカクテルをご馳走してやりてぇところだが……品切れだ。全ビームをぶち込んでやったぜ、ガハハ!!」


 俺たちは転移門に現れた敵軍を撃退できるよう、事前に万全の体制を整えておいた。

 敵はやはりタンタルスの軍勢だったようだ。転移門を囲むように作られた要塞から、次々とあの口から出るビームと魔法銃がぶち込まれたのか、ボコボコに大地がえぐれ取れるほどの酷い有様となっていた。


 ファルク王国軍(酔っぱらい)恐るべし……。

 口からビームを放つ常識皆無の軍隊に、使役されたモンスターたちもタンタルスも、きっと生きた心地がしなかっただろう。


「おうそうそう、タルタルスも捕まえといたぜ、ガハハ!」

「はっ、コイツが非常識な王様で助かったぜ……」

「おかげで状況の理解が追いつかないですけどね……」


「なんとかかんとか! ってやつも壊したから増援はもうこねぇはずだ」


 ええっと……。訓練通りにモンスターのいる次元とこちらを繋げる装置を破壊してくれた、ってことだろうか……。

 となると残る問題はタンタルスの捕虜か。


「派手にやったもんだなぁ……あれ、壊れてるんじゃねぇか?」

「たぶん、壊れてますね」


 転移装置はドームごとぶっ潰れていた……。

 白の棺さえ破損していなければ大丈夫だと思うが、どちらにしろこの様子ではしばらく使えそうもない。マリウスの海外出張確定だった。


「マジか……?」

「マジも何も、少なくとも1ヶ月は復旧出来ないでしょう」


「ま……待ってくれ、ユリアス! このまま帰るなんて考えてねぇよな?! 俺たちゃ飲み仲間だよなぁ!?」

「酒、作ってやってからにしてやってくれ。どっちにしろ、この国じゃビームの出るカクテル=国防だ、バカ弟子」


 そりゃなんてデタラメな国だろう……。


「わかりました、そうしましょう。ですが先に、タンタルス族の方を処理してからですね」

「おうっ、せっかく捕まえたのにぶち殺すのか!?」


「違いますよ。ぶち殺せないから問題なんです」

「ああっ?」


 懸念はリーンハイムのときのように、やつらが異常進化して不死の怪物となる可能性だ。彼らの身体の中には、生物の異常進化をもたらす薬品が埋め込まれている。


 こちらに降ったアダマスが言うには、それは外科手術を行うことで取り出せるそうだ。

 それに、タンタルスの裏切り者は多いに越したことはない。


「へぇ、そりゃまた悪趣味なバカ野郎どもだ! だが実際に戦ってわかったぜ、やつらはこの世界の敵だ! もうエルフもヒューマンも関係ねぇ、次かちこんで来たら、ド頭叩き割ってやらぁっ!!」

「いや、話聞いてました? 追いつめると不死身の怪物になるって話をしたはずなんですけど……」


「ガハハハッ、そういう話は酔ってない時に言ってくれよ!」

「いやいつだって酔っぱらってるじゃないですか、アンタッ!?」


「おうっ、今日はたらふく飲もうぜ!」

「ははは、相変わらずフリーダムな王さんだぜ」


 ファルク王はいつだって大ざっぱで人の話を聞かない……。

 とにかくタンタルスの捕虜の手術が成功するまで、俺は錬金術でモンスターカクテルを造って待っていなければならないらしかった……。


明日より新作

【勇者パーティの汚れ役、正義厨にリストラされる。俺が抜けたら世間知らずのボンボンしか残らんけど、もう知らん。……と思った矢先に騙し討ちにされたので『盗賊』として反撃してやる】を公開します


戦いではなく、盗むことでスマートに目的を果たすお話です。どうか応援して下さい。

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