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・5年目 推定15歳の娘たち

 子供たちが生まれてより5年が経った。人間で言うところの15歳の身体に成長した娘たちは、父親の目から見ても華やかな女性に成長していた。


 子供たちはもっぱらバザーオアシスでネコヒト族たちと遊んだり、都市長のラクダを借りて歓楽街の甘味処に行ったり、冒険者ギルドの訓練に自ら加わったりと、毎日親の気を揉ませてくれた。


 シャンバラのナンバー2の娘で、ナンバー1の孫でもあるあの子たちに色目を使う男はいないと思いたいが、何せ肉体的にはそういうお年頃だ……。心配だ……。とても、心配、心配だった……。


「はぁぁぁ……うわ、白髪!? 嘘だろ……」


 髪に銀色のものが混じることも増えた。

 ストレスだろうか。サンディに転移魔法の才能があると知ったあの日から、どうも気苦労が絶えない……。


 何もかもが考えすぎなのはわかってはいる。しかし思考というのは本人の意思に反して勝手に動くもので、俺はまた深いため息を釜に向けて吐いていた。


「ゆくぞーっ、サンディ! おりゃぁーっ!」

「あっちょっとっ、変なところに投げないでよ、スクルズ!」


 その日は仕事をしながら横目でオアシスを眺めてばかりいた。今は子供たちがオアシスでボール遊びをしていて、元気を通り越して騒がしいその声を聞いているだけで心が安らぐ。


 マリウスと過ごした純真な少年時代を思い出したり、自分が肌寒いツワイクを捨ててシャンバラで美姫と娘に囲まれて暮らしている現実に、今更になって小さく驚いたりもした。

 幻の国シャンバラで俺は今平穏に暮らしている。


 生活や仕事の方はというと、毎日が試作の繰り返した。キー素材の枯渇、高騰の可能性を考えれば、選択肢は大いに越したことはない。緑あふれる未来のために、さらなる総当たりが不可欠だった。


「わっわっ、そんなの取れないよっ、サンディちゃん……っ」

「早くこっちに投げ返すのじゃ! ワシが仇を取ってやるぞ!」

「仇とかいらないからスクルズは真っ直ぐ投げてよっ!」


「それが出来たら苦労はないのじゃ!」

「い、いくよ……えーいっ!」


 平和だ……。砂漠の強烈な日射しを物ともせずに金と銀と青の髪が水辺を駆け回っている。


「お仕事中お邪魔します、ユリウス様。これ新しい注文票です。近くまで寄ったので、僕が……」


 そこに商会の少年(風)エルフがやって来た。彼は娘をガン見する不審な父親に爽やかな笑顔をくれて、パタパタと小走りになって注文票を見せてくれた。最近、ちょっと変わった注文が増えた。


「ああ、ありがとう。……俺は娘に見とれてなんかいないぞ」

「ふふふっ、お母さんたちに似てとても綺麗ですよね、みんな」


「出るところも出てきた。はぁっ、もう気が気じゃない……」

「僕もユリウス様の息子になれたらな……。あ、それじゃ、僕もう行きますねっ!」


「お疲れ、おかげで予定が立てやすくなったよ」

「へへへ、がんばって下さいね、やさしいパパさん」


 少年エルフを見送って、俺はテーブルに置かれた注文票を拾い上げた。

 以前、迷いの砂漠を発掘するために数々のダウジングアイテムを作った。そのうちの失敗作の数々が、注文票に加わるのが当たり前になっていた。


 特に鉄や水を探るやつが好評で、意外なところだとネコを探るやつの注文もやたらと多かった。いったいあんな物を何の目的で使うのか、俺にはよくわからない。


「パパッ、お仕事なんて止めて一緒に泳がない!?」


 注文票をテーブルに戻して、空きビンを重石にすると目の前にサンディが突然現れた。


「サンディ……そういう使い方はしないと約束しただろう」

「ごめん、だってこっちのが楽なんだもん」


 母親譲りの美しいブロンドに褐色の肌、メープルが好みそうな大胆な水着からはオアシスの湖水が滴となって床に滴り落ちている。

 美しく成長した俺の娘は、転移魔法を日用使いしていた。


「冷や冷やするから止めてくれ……」

「なんか最近のパパおじさんくさい……」


「うっ……!? お、おじさん……だと?」


「あ、悪い意味じゃないよっ! うち、むしろおじさんの方が好きだし!」

「サンディ……」


「なーに、パパ?」

「頼む、普通の男の子を好きになってくれ……」


「子供はなんかやだ」

「お前だってまだ子供だろう……」


 特に心配なのはサンディだ。俺を越える転移魔法の天才になることが見えている。その上、おじさん好きだ……。サンディはおじさんが大好きだった……。


「ねーねーっ、パパッ、一緒に遊ぼうよーっ!」

「仕事中だ……」


「でもでも、いっつも夕方はオアシスでのんびりしてるじゃん! ちょっとだけ先に遊ぼうよーっ!」

「そんなことをしたら、気持ちが中だるみしてかえってその後の仕事が辛い」


「えーーっ、パパまじめすぎー……。お仕事なんてさー、サボっちゃえばいいのに……」

「はぁ……っ」


 転移魔法を覚えてサンディは少し変わった。その気持ちも理由はよくわかる。転移魔法は収得者に究極の自由をもたらす。この力があれば時間と距離を超越出来るからだ。

 ある者は怠惰となり、またある者は傲慢にも思い上がった。前者が師匠で、後者が俺だ。


「あっ、ママ!!」

「お、やっと帰って来たな。待て、転移は使うな、要らん説教をされるぞ」


「うふふー、わかってるわかってる」

「ならなんで俺の前に飛んで来た……」


「パパだからいいかなって。あ、ママたち水浴びするみたい! パパも来る!?」

「行けるわけがないだろ……」


「夫婦なのにー?」

「夫婦だからだよ……」


「えーっ、なにそれー?」

「ママたちは綺麗過ぎてパパの目には毒なんだ」


「ベタ惚れね!」

「旦那が妻にベタ惚れで何が悪い」


 俺の返しにサンディはヒマワリのような笑顔を浮かべて喜んだ。


「最高よ、パパ! ママーッ、お帰りなさーいっ!!」


 かわいいサンディを後ろ姿を見送って、オアシスに褐色と白い肌が入り交じるのを遠目に見た。

 すぐに華やかな声が上がって、もう親も子供も関係なしの大騒ぎになった。


 俺はそんなみんなの幸せを眺めながら、内心混ざりたい本心を押さえ込んで、その日も地味で単調な試行錯誤を続けていった。


いつも投稿時刻が不安定ですみません。

これからもじっくりと続けていきますので応援して下さい。


もしかしたらタイトルを変えることになるかもしれないので、行方不明になる前にブクマ等、してくれると嬉しいです。



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