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・4年目 地底からの招待状 2/2

「みんなー、おやつよーっ!」


 しばらくがんばると、シェラハのやさしい声が今から響いて来た。グラフは美しいシェラハも甘いドーナッツも大好きなので、まるで子供みたいに浮かれた笑顔を浮かべた。

 ……実際にそうとは本人に指摘なんて出来ないが。


「先に行っててくれ」

「ああっ、この時のためにがんばっていたんだ! 行かせてもらう!」


 かわいいママグラフを見送って、錬金釜の中の物を完成させるとメモに簡単な記載をした。後で1つ1つ砂漠にまいて実験の正否を確かめよう。



 ・



「ただいまっ、ぎゃっ、ドーナッツと母がセットでおるのじゃ!?」

「おかえり。僕が帰ってちゃ悪いか?」


「何を言うっ、嬉しいのじゃ! 母っ、今日は休みかっ!? おやつが終わったら一緒に泳ぎたい!」

「わかった、君がそうしたいならそうしよう」


 甘ったるいドーナッツを茶菓子にお茶をしていると、そこに末っ子のスクルズが帰って来た。彼女は何かと不在がちなかわいい母に抱き付いて、ドーナッツを手に取りながら母親に甘えていた。

 まあ、成長が早いとはいえまだ4歳だしな……。


「スクルズのお茶を入れてくるわ」

「ああ、なら手伝う」


「あら、ユリウスが手伝ってくれるなんて珍しいわね」

「まあちょっとな」


 そう返すとシェラハ察したようだ。

 何も言わずに俺と厨房に入って、てきぱきとお茶の準備を進めた。


「それでなあに、何かあったの?」

「ちょっと問題がある。白紙の書、あるだろ。あれがついさっき反応してな」


「本当? あの書が反応するなんてずいぶん久し振りね。なんのレシピが現れたの?」

「それがな……迷宮の場所と深層にあるお宝の存在を俺たちに伝えて来た」


「ふふっ、だったら一緒に行く? たまには2人だけで、あたしが前衛でユリウスが後衛を――」

「その時は俺も前衛に立つ。じゃなくてだな、その迷宮は入場者を指名する種類のようだ」


「また私?」

「子供たちだ」


 シェラハの手が止まった。もう茶葉をポットに入れた後なのが幸いか。

 彼女はしばらく固まり、穏やかな笑顔でこちらに振り返った。


「捨てましょうか」

「いや、捨てるのは忍びない。一応、リーンハイムやガラテア姫を救ってもらった恩もある……」


「なら、鎖と鍵で封印するとか?」

「かえって子供たちの好奇心を刺激する」


「なら捨てるべきよ」

「落ち着いてくれシェラハ。シェラハがそういうことを言うとらしくなくて恐い」


「だって……まだ4歳よ!? なんであの子たちを指名するのよっ! もしあの子たちが見たら、行きたがるに決まってるじゃない! ぁ……っ」


 大声を上げたらバレるぞと、唇の前に指を立てて伝えた。


「目立たない本棚の奥に保管場所を変えるというのは?」

「でも、そんな対応で大丈夫かしら……」


「そうだが、あの書は窮地になると俺たちを助けてくれる。遠ざけるのは賢くない」

「わかったわ……。実際にその迷宮が存在するか、こちらで調べておくわ」


「俺が転移すればすぐにわかる」

「いいの、ユリウスに頼りっきりはよくないわ」


「そうか?」

「そうよ。グラフもユリウスもそうやって自分を時間を失ってゆくのよ。もう少し人に仕事を押しつければいいのよ」


 一理ある。いや、積極的にそうするべきなのだろう……。せめて子供たちが大人になるまで、ゆとりのある生活をしてかまってやった方がいいか……。


「それよりユリウス、あたし思ったのだけど……。そろそろ2人目――」

「3人の時点でこれだけ手が焼けてるんだから、それはもう少し先でもいいだろ……」


「そうかしら……」

「そうだよ。その点はエルフはいいな。育ち切ってから次に入っても遅れがない。ヒューマンからすれば羨ましい」


「ふふ……まあいいわ。あなたにその気があるのなら、あたしはそれだけで嬉しいもの」


 その後は新しいドーナッツとお茶を持って居間に戻った。

 スクルズは実母に飽きたようで、配膳が済むと今度はシェラハに飛びついて来た。


「ぐふふ……シェラハ母の方がやーらかいのじゃ……むふふふふ……」

「ちょ、ちょっと、ど、どこ触ってるのよ、もうっ……悪い子!」

「スクルズッ、それは僕のだっ!」

「お前もお前で何を言っているんだ……」


 ドーナッツはもう飽きたので残りをスクルズの皿にこっそり移した。

 わがまま娘というのは、困ったことにそこがかわいいから厄介だ。


「ただいまーっ! わぁぁっ、ママのドーナッツ久しぶり!」

「やった……っ、嬉しい……」


 そこにサンディとウルドが戻って来ると、シェラハはやさしい笑顔で迎えて厨房にまた戻っていった。

 サンディとスクルズが揃うとそれはもうかしましく、耳がちょっとキンキンするほどだった。


 俺たちは間違っているかもしれないが、目の前の日常を守りたいのならば他にない。

 喩え後の世の人々に恨まれようとも、全ての棺を回収し、同盟国を増やし、世界を1つに繋がなくてはならない。


 必要ならば、あの地に眠る災厄に手を出すことも選択肢に入れなくてはならない。


「ふふっ、どうしたのパパ? 娘がかわいくて見取れちゃった? あっ、さっきね、アルヴィンス様がかっこよかったのよ!」


 白紙の書よ、迷宮のお宝情報なんてどうでもいい。

 娘のおじさん趣味を直す薬をどうやったら作れるか、頼むから教えてくれ……。



 ・



 追記。後日調べてみると、本当に地図の場所に新しい迷宮が生まれていた。

 だが条件が釣り合わない。メープルとも合意の上に、事実を闇に葬ることに決定した。


ストック尽きました。もしかしたら次回更新遅れるかもしれません。

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[一言] 白痴の神ってか夢見る乙女ってか なんかの浸食受けて無いか?
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