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・4年目 推定12歳の娘たち

 子供たちが産まれて4年が経った。人間で言うところの12歳の肉体となった娘たちは、これまで以上にハッキリとした自己主張をするようになり、俺たちの言うことを素直には聞かなくなっていった。


「ウェルサンディちゃんっ、この前のお魚のお返しに来たミャ!」

「わぁっ、立派なお花! ありがとう、ネコヒトさん!」


「ぜんぜん良いミャ!」

「またお裾分け、期待してるニャ!」

「いいよーっ、暇つぶしで釣った魚でお花が貰えるなら、こっちこそ大歓迎だし!」


 彼女たちは母親に負けず劣らず愛らしく、そして誰からも愛された。

 へそ曲がりで教育によろしくない俺やメープルのことはさておき、周囲が尊敬に値する人格者ばかりだったからだろう。


「ねぇねぇ、パパッ、アルヴィンスおじさまって素敵よね!」

「な……何を言っているお前は!? あんなのはただのだらしない不良オヤジだ! ああいうのは見習っちゃダメだぞ!」


「でもやるときはやるわ。そこが渋くて素敵!」

「サ、サンディ……頼む、考え直せ……。お前はその、お、男の趣味がちょっと……アルヴィンス師匠はさすがにないだろっ!?」


「何言ってるのよ、パパが一番アルヴィンス様を尊敬してるじゃない。うち知ってるのよ」


 大きくなれば手が焼けなくなるというのは、必ずしも正しくないのかもしれない……。

 サンディは親の意に反して、まだ産まれて4年だというのにおっさん好きに成長していった……。


「サンディは下手物趣味なのじゃ……」

「や、やさしいけど……ね……」

「そうよ、アルヴィンスおじさまはやさしいの。ふふっ、よっぽどパパの娘がかわいいのね!」


 サンディの親離れの早さに俺は恐怖した……。

 彼氏を連れて帰ってくる日も、そう遠くないのではないかと……。



 ・



 気を取り直して現在の話をしよう。

 あれからざっと半年が過ぎ去り、捜索隊の献身もあって白の棺を2つ発掘することになった。


 何せ世界各地をしらみ潰しに探さなけれならないので、この捜索事業は簡単ではない。見落としがあればそこがタンタルス側の侵略経路になってしまうため、見落としだけは絶対に許されなかった。


 発掘された棺はそれぞれ、オドとランスタ王国に転移門として配備された。

 これにより同盟関係がさらに盤石なものとなり、軍事的に見ても俺たちを侵略できる者は、今のこの世界にはいなくなった。


「嬉しい……。これでお兄ちゃんといつでも会えるんですね……」

「お、おう……」


 オド王は大喜びだった。オド王国王宮の庭園を訪ねると、その必要があるのかと問いかけるきっかけさえ与えられずに、ぴったりと彼に寄り添われた。

 4年経っても彼はほどんと体躯が成長していなかった。


「俺もいつでも暇ってわけじゃないが、遊びに来てくれると嬉しい」

「ホントですかっ!? ご、ご迷惑ではありませんか……?」


「もう他人じゃない。俺たちは盟友だ」

「そう思っていただけるなんて光栄です! ユリウスお兄ちゃんがきてくれてから、オド王国は息を吹き返しました。ありがとうございます!」


「こちらこそ。去年の援軍には助かったよ。あそこは厄介ごとの多い土地でな、また助けてくれると嬉しい」

「はい、お兄ちゃん……♪」


 距離を取ろうとしてもオド王はぴったりと寄り添ってくる。

 そのことについて誰も文句を言わない。既にそういうものだと誰もに納得されてしまっていた。


 ところがそんな折り、大地が揺れた。


「オド王様ッ、私きちゃいました!」

「あ、ガラテア……」


 ガラテア姫だった。転移門がオドとランスタをご近所に変えて、オド王とガラテア姫を結びつけた。オド王は大きすぎるお姫様に控えめに微笑んで、対するガラテア姫は豪快に笑っていた。


「ユリウス様もしばらくぶりです! あなたのおかげでガラテアはこんなに元気です!」

「わぁっ、凄い力こぶ……! ガラテアはカッコイイですね……!」


「そう言ってくれるのはオド王様くらいです。あっ、そうだ、よければこれからユリウス様と一緒に試合をしませんかっ?」

「あっ、それいいですね!」

「ちょ、ちょっと待て、試合!? なぜそうなる……!?」


 ガラテア姫はそう言って巨大なメイスを俺に向けて身構えた。

 オド王まで一緒になってあの魔剣に手を伸ばし、そして――


「お二人には叶わないかもしれないですけど、僕なりにがんばり――フッ、フフフフフッ、ついにこの魔剣を使うときが来たようだ……。ユリウス兄さん、さぁ……僕の愛を受け取って……」


 気弱な王はオーラ立ちこめる最強の斬鉄剣を抜いて愉悦に笑った。俺たちが作った魔剣をここまで気に入ってくれるなんて嬉しい反面、やはり大失敗だったのではないかと今凄く後悔している……。


「はい、では2人で力を合わせて、ユリウス様を倒しましょう!」

「はっ、なぜそうなる!? ちょっと待て、俺は複数人を相手にするのは苦手――ちょ、来るなよっ?! その魔剣だけはシャレになってないだろっ?!」

「問題ありません。ユリウス兄さんにかわせない剣なんてないんです……だから、本気で行きます!!」


 最強の体躯から繰り出される巨大メイス。全てを両断する最強の中二剣。どちらを食らっても即死だ。かするだけでも重傷確実。その日の俺はシャンバラ公式の使者として、バイオレンスな歓迎を受けることになった。


 勝敗? 怪我なんてさせたら六国同盟は即崩壊だ。酷い泥仕合になった。



 ・



 とまあ、あのときは大変だったが、とにかくこれで同盟国全てに転移門が配備されることになった。

 もし新たな棺が発見されたら、どこの勢力を抱き込むか、そろそろ結論を出しておかなければならないだろう。


 それとここ1年の変化といえばもう1つ。

 マリウスとアダマスの努力によりタンタルスの技術がさらに発展し、魔法の素養のない者がバッテリーを介して、魔法銃での魔法の発動が可能になった。


「聞いているかユリウス、これにはスクルズも手伝ってくれたんだぞ?」

「あ、ああ……」


「あの子はお前の子とは思えないほどに賢い! それにちょっと変わってるが素直ないい子だ!」

「まあ、そうかもな……」


 特にこれは魔法の才能が偏るヒューマンの国での恩恵が大きかった。


「なんで上の空なんだっ、子供が褒められているんだから喜ぶところだろっ」

「まあマリウス、それより仕事の話を先にしないか……?」


 マリウスはうちの子供たちに――特にグラフの子のスクルズを溺愛していた。スクルズもマリウスに懐いていて、ここで研究の手伝いをすることも多くなった。


「ムダだぜ。こうなるとこっちの話なんて聞かねぇよ」


 アダマスのやつはあれからさらに丸くなった。元は同族という真実を知り、敵対する理由がなくなったのもあるが、半分はマリウスへの尊敬ゆえだろう。


 エルフという種族の価値も変わった。誰もが魔法の素養を持つエルフは、ファルク、オド、ランスタ、ツワイクで引っ張りだこだった。


 ただしそれはいいことばかりではない。今は技術がブラックボックス化されているからいいが、いずれこの技術が民間にまで普及すれば、問題が起きることは見えていた。


 タンタルスの世界のように、魔法の素養の高い者が動力として搾取されるかもしれない。あるいはその逆に、魔法の素養のない者が無能扱いされ迫害されるかもしれない。


 だがそれでも俺たちは止まれない。この先にどんな世界が待っているとしても、俺たちは生き延びなくてはならなかった。


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