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・3年目 迷いの砂漠そのもの

 あれからの日々は、砂と水を混ぜるだけで頑強な建材となる魔法のアイテム・コンクルの緊急生産が主な仕事になった。

 都市長たちが編成した国境警備隊のために、国境に拠点を急ぎ作らなければならなくなったからだ。


「お父さん、お疲れさま……やっと終わったね……」

「お疲れ。ウルドのおかげでだいぶ楽が出来たよ」


 ちょうど今、どうにか納品分が完成した。

 メープルとシェラハは元政府関係者として都市長のサポートに奔走することになり、グラフもリーンハイムからの援軍を率いて国境警備に加わっている。


 なので最近は母親たちの帰りが遅く、その影響で子供たちが自立を始めていた。

 今はサンディとスクルズが厨房に入っている。俺たちのために夕飯を作ってくれるそうだった。


「さて、ウルドは居間で休んでいるといい。俺はもう一仕事してから戻るよ」

「何をするの……?」


 ウルドは生意気さのない綺麗なメープルだ。

 その素直な表情が愛らしくて、そっと頭を撫でると嬉しそうに目を細めていた。


「実験だ」

「それ、私も手伝いたい……」


「たぶん失敗するぞ……?」

「手伝う……。パパを助けるって、メープルママと約束したから……」


「なんていい子なんだ……。なぜメープルからこんなにいい子が産まれたのか、本気でわからん……」


 反面教師というやつだろうか?

 必要な材料を作業テーブルに集めながら、ときおり愛しい我が子に目を送った。

 これを誰かの嫁にやるなんて考えられない……。


「何を試すの……?」

「試作品を作る。迷宮や白の棺を探索するアイテムを作れるなら、迷いの砂漠そのものである『何か』だって、発掘することが可能だと思う」


「ええっと……なんだか、難しい話だね……。迷いの砂漠って、『物』なの……?」

「ああ、どこかに実在しているはずだ。白の棺がそうだったように、迷いの砂漠を発掘さえすれば後はマリウスがどうにかしてくれる」


 ウルドにはまだ難しい話だったが、やさしいマリウスお姉さんを頼るのは賛成だったようだ。マリウスは子供たちみんなに信頼されていた。


「パパッ、お昼ご飯よっ!」

「ワシらが焼いた特製のパンなのじゃ!」

「わーっ、美味しそう……!」


 そこにエプロンを着込んだサンディとスクルズが飛んで来た。

 それぞれのトレイの上にはパンが乗っていて、作業テーブルの上に甘く香ばしい匂いと共にそれが置かれた。


「パン? こんなの誰に教わったんだ……?」

「マリウスじゃ! あいつはやさしくて美人で好きじゃ!」

「ほらパパッ、食べてみて!」


 平たくて丸くてちょっと不格好なパンを軽くちぎって、口へと運んでみた。


「甘……っ」

「わっわっ、これ美味しい! 2人ともすごいすごいっ!!」


 これ、砂糖の加減を間違えていないか……?

 確かに美味い。美味いが、信じられないくらいに甘いパンだった……。


「何を言う、羨ましいのはワシらじゃ、のぅサンディ!」

「そうだよっ、うちも錬金術の才能が欲しかったもん! ウルドばっかずるい!」

「えへへ……いいでしょ……」


「むきゃーっ、ウルドはずるいのじゃーっ!!」


 褒め過ぎると堕落するので頻繁に口にはしたくないが、この子たちは大人が羨むほどの才能をそれぞれ持っている。その良いところを1つ1つ褒めてやりたいのを我慢した。


「ところでパパ、何を作ってるの……?」

「これ? お母さんが家に帰って来れるようになるアイテム――の試作だ」

「本当かっ!? 完成したら母たち帰ってくるのか!?」


「成功すればね。食べながら手伝ってくれる? 俺たちでお母さんを取り戻そう」


 こんな状況で、シャンバラの危機だというのに白紙の書は何も答えをくれない。

 今日までかき集めてきたレシピ本にも、当然迷いの砂漠を復活させる物など記載されていない。


 なので他のレシピを参考にしながら、自分の力でどうにかするしかなかった。

 甘い――あまりに甘いパンを摘まみながら、子供たちの魔力をわけてもらって、俺は試作品を作っていった。



 ・



 材料を変えつつ、合計64本8種類のダウジングアイテムを作成した。

 外見はダウジングロッド、ペンデュラム、方位磁針、小さな水晶玉、それらの色違いだ。成功するとは限らないので、暫定で試作1号から8号とした。


「ふぅ、ふぅ……つ、疲れた……」


 8種類を完成させるとウルドが床にへたり込んでしまった。素養がある分、負荷が大きかったようだ。


「みんなお疲れさま。これで目当ての物が見つかればいいのだけど……」

「じゃあ、ネコヒトさんたち呼ぶね!」


「へ、ネコヒト……?」

「笛を吹くと来るのじゃ!」


 サンディがおもむろにホイッスルを取り出した。それから工房の外にウルドと一緒に飛び出していって、やかましいと言っても差し支えのない音量で鋭く吹き上げた。すると――


「な、なんだと……」


 バザーオアシスの方角から砂塵が上がった。

 それは少しずつこちらに近付いてきて、やがてネコヒト族たちの群れとなった。


「お待たせにゃ、ウェルサンディ!」

「ちょうど僕たち暇してにゃ!」

「遊んで遊んで!」


 バカな……手懐けているだと……?

 それに都合良くも、かなり暇なご様子に見える……。


 そうか、ネコヒト族は小柄で非力なのもあって戦闘には向かないので、割とこの非常事態でも暇なやつがちらほらといるんだな……。


「父、ネコヒトさんたちに説明するのじゃ!」

「あ、ああ……」


 うちの娘とどういう友達なんだ? と訊きたい本心の方が大きかった……。

 しかしそれは後回しにして、俺はこの頼れるやつらにことの次第を伝えた。


「――というわけで要約するとだ、この中に『迷いの砂漠』を生み出している何かをダウジング出来る物が混じっているかもしれない。どうかこれを持ってシャンバラを巡ってくれないか……?」

「ミャ……???」


 ネコヒトたちの半数が首をかしげ、もう半数は退屈そうに顔を洗っていた。

 迷いの砂漠を白の棺と同じ『遺物』と定義するのは、まあ抽象的でイメージしにくい話だろう……。


「とにかくこれを持って砂漠を巡ってくれ! そして反応があったらその場所を教えてくれ!」

「何を探すにゃ?」


「それはさっき言っただろう……。見つけ出したいのは『迷いの砂漠そのもの』だ」

「……みゃぁ???」


 シャンバラの民にとって迷いの砂漠は空気と同じ普遍的な物なのだろう。

 だがきっと存在していると俺は信じている。迷いの砂漠は、白の棺と同じ古代遺物だ。ならば見つけるアイテムを作るのが俺の仕事で、見つけた後はマリウスの仕事だ。


「よくわかんないけど、わかったみゃ!」

「うち、ネコヒトさんたちに付いてくね!」

「お皿はウルドに任せたのじゃ! 出陣じゃ、にゃんこーどもーっ!」


 娘たちはローブをまとい、ネコヒトと一緒に嵐のように工房の前から立ち去っていった。

 ……とにかく反応があれば戻ってきてくれるだろう。それで成功か失敗かがわかる。


「お父さん、お皿洗ってくるけど……無理しちゃダメだよ……? 私、お母さんと約束したんだからね……?」

「ああ、少しゆっくりさせてもらうよ」


 俺は娘とネコヒトたちからの報告を待ちながら、新しいダウジングアイテムを試作していった。

 それは今日まで俺がやってきたことと同じだ。成功するまで繰り返す。ただそれだけのことだった。


ネット小説大賞に1次落ちしてした本作ですが、今日発表された「新人発掘コンテスト」の最終18作品に残りました。


ありがとうございます。どうかこれからも応援して下さい。

更新が不定期になっていましたが、これからは安定供給できるようがんばります!

書籍化できるよう祈ってくれると嬉しいです!


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