表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

197/308

・2年目 全てを焼き払う炎 2/2

「……アリ、ネルティウス将軍は?」

「最前線だ。撤退の指揮は俺が執ることになった」


「そうか……」

「高潔な男だった。さて、戻って来たということは説得は済んだんだな?」


「ああ、撤退させてくれ」

「任せろ」


 アリとネルティウス将軍の副官による指揮で、すぐに撤退の伝令が本陣から飛び出していった。

 仲間を捨てて逃げるのかと抗議する者もいたが、そこは強引に押し通した。


「あの時も、お前の提案に従っていたらよかった」

「あの時? それはあの天幕での一件のことか? そんなの今さらだろ」


「そうだな……。では後を頼むぞ、ユリウス」

「ああ、任せた」


 最前線を残して、カーロス軍が撤退を始めた。

 アリが馬にまたがり、本陣を捨てて去ってゆくと戦場に混乱が生まれた。なぜ最前線を残して撤退するのか? 自分たちは捨てられたのか? 怒りや悲しみが戦場にこだました。


 ……気が重いがそろそろ始めよう。無人の天幕から戦場に飛んだ。

 するとそこには、師匠とネルティウス将軍の姿があった。


「地獄へのお迎えが来たようだ。楽しかったよ、アルヴィンス殿」

「おう、俺もだ。最期まで付き合えなくてすまねぇな……」


「貴殿のおかげで理想的な戦況が作り出せた。軍人としてこれほど嬉しいことはない。……アルヴィンス殿、地獄で待っているよ」

「おう、また地獄でな。それじゃ、後始末は任せたぜ、バカ弟子。……それと俺の後を追って来れば、シャンバラの援軍と合流出来るぜ」


 師匠は俺の肩を叩いて、将軍に向けて酒を飲むような仕草をしてから亜空間に姿を消した。

 あれだけ奮闘しておいて、最後の転移分の魔力を残しているところがさすがだった。


「さあユリウス殿、今こそ好機。多くの兵と民を救うために、さあ、我々ごと敵を焼き払ってくれ」

「すまない……。本当にすまない。どうか許してくれ……」


 ここから先は見るに堪えない話だ。

 俺はネルティウス将軍とその精鋭たちに守られる中、メギドジェムを起動した。そしてそれを彼に手渡した。


「そんな顔するな、また地獄で会える。さらばだ」

「すまない」


 世界の裏側に潜り、その場から全速力で待避した。

 師匠の痕跡を追い、後ろを振り返らずに仲間の元に走った。


 俺は悔いた。甘かったのだと悔いた。



 ・



「ユリウス、無事だったのね!」

「よかった、心配したぞ!」


 師匠の痕跡が途絶えた座標で元の世界に戻ると、目の前にシェラハとグラフがいた。

 2人の姿を見ると悪夢から覚めたような救われる心地がした。だが、それは違った。


 後方より立て続けにメギドジェムによる爆発が起こり、俺は2人を守るために飛び付いて、押し倒した。


「あ、あれは、君の……な、なんてことを……っ。君は前線ごと敵を……っ」

「焼き払った」


 2人にしがみついたまま、俺は目を固く閉じた。

 最悪の汚れ仕事だ。必要だったからとはいえ、俺は戦場の英雄たちを焼き払ってしまった。


「ユリウス、あなた大丈夫……?」

「あまり大丈夫とは言えない……。当然だ、誰が好きであんなことをするわけがあるか……」

「ユリウス……」


 2人は多くは語らなかった。2人は左右から罪人である俺をやさしく包み込んでくれた。


 きっと困惑しているだろうに、無条件で慰めてくれた。そうしていると気力が蘇ってきて、俺はどうにか立ち上がった。


「気に病むことはねぇ、俺がテメェに命じたんだ。テメェは命令に従っただけだ。戦犯は俺だ」

「師匠はそこで休んでいて下さい。援軍として、残党を狩ってきます」


「それで気が済むならそうしな。ネルティウスのやつ、なんか言ってたか?」

「地獄でまた会える。そう言われた」


「ははは、そりゃ死ぬのが楽しみだな!」


 師匠は強い。だてに組織のトップに君臨していた人間じゃない。

 だが俺はちょっとダメそうだ。戦って贖罪をしたい。


「ユリウス、待って! 1人で行っちゃダメよ、あたしたちも一緒に行くわ」

「今の君は危うい。ボクたちと行動を共にするべきだ」

「そうかもな。ありがとう……」


「ふっ、家族にそんな言葉は不要――んむっ?!!」

「ユ、ユリウスッ?! ……キャッッ?!」


 きっとメープルのせいだ。メープルが花園で俺にあんなことをするから影響された。


 俺は淡く美しい青髪のライトエルフのグライオフェンと、金と褐色のダークエルフのシェラハに、ちょっとどころじゃないくらい情熱的な口付けをした。


「愛してる。さあ、戦おう!」


 俺たちは溶鉱炉のように赤く燃える戦場に向かい、残党を狩り、やがて歪みを発見して『白の棺』を探し出すと、棺ごと強制転移することで、向こう側からの接続を完全に断った。


 白の棺の回収はやはり急務だ。

 これがこの世界にある限り戦いは終わらない。


 俺は甘かった。俺のやり方は間違っていた。

 シャンバラの再生ばかりにかまけて、現実の脅威から目を背けていた。


 俺は、甘かった……。

日付をまたいでしまってすみません。

投稿がストックがカツカツです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ