・2年目 全てを焼き払う炎 2/2
「……アリ、ネルティウス将軍は?」
「最前線だ。撤退の指揮は俺が執ることになった」
「そうか……」
「高潔な男だった。さて、戻って来たということは説得は済んだんだな?」
「ああ、撤退させてくれ」
「任せろ」
アリとネルティウス将軍の副官による指揮で、すぐに撤退の伝令が本陣から飛び出していった。
仲間を捨てて逃げるのかと抗議する者もいたが、そこは強引に押し通した。
「あの時も、お前の提案に従っていたらよかった」
「あの時? それはあの天幕での一件のことか? そんなの今さらだろ」
「そうだな……。では後を頼むぞ、ユリウス」
「ああ、任せた」
最前線を残して、カーロス軍が撤退を始めた。
アリが馬にまたがり、本陣を捨てて去ってゆくと戦場に混乱が生まれた。なぜ最前線を残して撤退するのか? 自分たちは捨てられたのか? 怒りや悲しみが戦場にこだました。
……気が重いがそろそろ始めよう。無人の天幕から戦場に飛んだ。
するとそこには、師匠とネルティウス将軍の姿があった。
「地獄へのお迎えが来たようだ。楽しかったよ、アルヴィンス殿」
「おう、俺もだ。最期まで付き合えなくてすまねぇな……」
「貴殿のおかげで理想的な戦況が作り出せた。軍人としてこれほど嬉しいことはない。……アルヴィンス殿、地獄で待っているよ」
「おう、また地獄でな。それじゃ、後始末は任せたぜ、バカ弟子。……それと俺の後を追って来れば、シャンバラの援軍と合流出来るぜ」
師匠は俺の肩を叩いて、将軍に向けて酒を飲むような仕草をしてから亜空間に姿を消した。
あれだけ奮闘しておいて、最後の転移分の魔力を残しているところがさすがだった。
「さあユリウス殿、今こそ好機。多くの兵と民を救うために、さあ、我々ごと敵を焼き払ってくれ」
「すまない……。本当にすまない。どうか許してくれ……」
ここから先は見るに堪えない話だ。
俺はネルティウス将軍とその精鋭たちに守られる中、メギドジェムを起動した。そしてそれを彼に手渡した。
「そんな顔するな、また地獄で会える。さらばだ」
「すまない」
世界の裏側に潜り、その場から全速力で待避した。
師匠の痕跡を追い、後ろを振り返らずに仲間の元に走った。
俺は悔いた。甘かったのだと悔いた。
・
「ユリウス、無事だったのね!」
「よかった、心配したぞ!」
師匠の痕跡が途絶えた座標で元の世界に戻ると、目の前にシェラハとグラフがいた。
2人の姿を見ると悪夢から覚めたような救われる心地がした。だが、それは違った。
後方より立て続けにメギドジェムによる爆発が起こり、俺は2人を守るために飛び付いて、押し倒した。
「あ、あれは、君の……な、なんてことを……っ。君は前線ごと敵を……っ」
「焼き払った」
2人にしがみついたまま、俺は目を固く閉じた。
最悪の汚れ仕事だ。必要だったからとはいえ、俺は戦場の英雄たちを焼き払ってしまった。
「ユリウス、あなた大丈夫……?」
「あまり大丈夫とは言えない……。当然だ、誰が好きであんなことをするわけがあるか……」
「ユリウス……」
2人は多くは語らなかった。2人は左右から罪人である俺をやさしく包み込んでくれた。
きっと困惑しているだろうに、無条件で慰めてくれた。そうしていると気力が蘇ってきて、俺はどうにか立ち上がった。
「気に病むことはねぇ、俺がテメェに命じたんだ。テメェは命令に従っただけだ。戦犯は俺だ」
「師匠はそこで休んでいて下さい。援軍として、残党を狩ってきます」
「それで気が済むならそうしな。ネルティウスのやつ、なんか言ってたか?」
「地獄でまた会える。そう言われた」
「ははは、そりゃ死ぬのが楽しみだな!」
師匠は強い。だてに組織のトップに君臨していた人間じゃない。
だが俺はちょっとダメそうだ。戦って贖罪をしたい。
「ユリウス、待って! 1人で行っちゃダメよ、あたしたちも一緒に行くわ」
「今の君は危うい。ボクたちと行動を共にするべきだ」
「そうかもな。ありがとう……」
「ふっ、家族にそんな言葉は不要――んむっ?!!」
「ユ、ユリウスッ?! ……キャッッ?!」
きっとメープルのせいだ。メープルが花園で俺にあんなことをするから影響された。
俺は淡く美しい青髪のライトエルフのグライオフェンと、金と褐色のダークエルフのシェラハに、ちょっとどころじゃないくらい情熱的な口付けをした。
「愛してる。さあ、戦おう!」
俺たちは溶鉱炉のように赤く燃える戦場に向かい、残党を狩り、やがて歪みを発見して『白の棺』を探し出すと、棺ごと強制転移することで、向こう側からの接続を完全に断った。
白の棺の回収はやはり急務だ。
これがこの世界にある限り戦いは終わらない。
俺は甘かった。俺のやり方は間違っていた。
シャンバラの再生ばかりにかまけて、現実の脅威から目を背けていた。
俺は、甘かった……。
日付をまたいでしまってすみません。
投稿がストックがカツカツです。




