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・2年目 幸福と平穏、それと湿った唇 2/2

 シェラハたち遅いな……。

 そう思いかけた頃、半開きにしてあった工房の入り口から腐れ縁のアイツが現れた。マリウスだ。


「なんだ、何か注文か? ん、それは……」

「フッ、今日はこれを見せびらかしに来た」


 マリウスの片手にはショートソードほどの長さの魔法銃があった。

 確かこれは見せて貰ったことがあるやつだ。


「改良が済んだのか?」

「君がそれを言うのか? 改良に終わりはない。そうだろ?」


「否定は出来ないな」

「それより見てくれ、アダマスと一緒にここまで改良したんだ」


 そう言ってマリウスは長い銃身をこちらに突きつけた。そして引き金を引いた。

 銃にはなんの反応もない。まさか裏切ったのかと疑った俺がバカみたいだった。


「脅かすな……」

「はっ、俺が君を殺すとでも思ったか? ふっ、なかなかいい顔だったよ」


「一瞬、本気で娘たちの顔が浮かんだぞ……」

「あの子たちは君に全く似ず、かわいらしいからね」


 マリウスは何か意図があるのか魔法銃を俺に握らせた。

 コイツが欠陥品を持って来るはずがない。何かがあるのだろう。


「この銃を使うには魔力が必要だ」

「そう言われてもよくわからない。魔力があるなら普通に詠唱すればいい」


「はぁっ……本気で言ってるみたいだから腹が立つな……。ユリウス、それは天才の理屈だよ」

「いや、どういうことだ?」


「誰もが君みたいに魔法を器用に使いこなせるわけじゃない。これは攻撃魔法が苦手な者に、攻撃魔法の適正を持たせるための武器だ」


 マリウスが外に俺を手招くので、俺は銃を肩にかけて彼女を追った。

 彼の話はよくわかった。これがあれば戦えない者が戦えるようになる。そういうことだろう。


「空に向けて引き金を引いてみろ」

「こうか?」


 魔力を銃に流し込んで引き金を引いた。

 すると轟音と共に光の柱が天高く立ち上り、俺は反動に倒れかけた。


「バ、バカッ、やり過ぎだっ!!」

「引き金を引けと言ったのはお前だろ!」


 今のはマジックブラストだろう。

 俺は虚脱感に膝を突き、煙を上げる銃身を見つめた。これは大発明だ。


「そうだがここまでやれとは言っていない!」

「ここまで威力が出るとは思わなかったんだ」


 マリウスは俺から魔法銃を引ったくると、想定外のこの威力に難しい顔でブツブツと独り言を始めた。


「魔法の素養が高過ぎると、魔法銃が持たないのかもしれないな……。このままだと、連発性能に難があるか……」

「凄いのじゃ!」


 ところがちょうどそこに、そこにスクルズが青い髪を揺らして帰って来た。

 どうも魔法銃に興奮しているようでマリウスにくっついて、ヤツではなく銃ばかりを見つめていた。


「これ、わらわも撃ってみたい!」

「危ないからダメだよ。そうだろ、ユリウス?」


「父、お願い! これ欲しい!」

「子供が持つものじゃない……。おいユリウス、なんとか言え!」

「……そうだな、1回だけ撃たせてやったらいい。スクルズ、くれぐれも言うがママたちには内緒だぞ?」


「君はバカ親かっ!」

「わーい、父大好き!」


 スクルズは新型魔法銃を受け取ると、空にめがけて構えた。

 そこにマリウスが引き金を引くのだと教えてやると、威力はずっと低かったがマジックブラストが轟音と共に天高く発射されていた。


「キャーッ、見たか見たか、父っ、マリウスッ?! ビームが、ビームが出たのじゃ!」


 スクルズは無邪気にはしゃいでいた。

 だが俺たちの感想はそれとは逆だ。この新型魔法銃は危険だ。

 子供にすら人を殺す手段を与えてしまう。


「見て見て、あそこのヤシの実! バーンッ!」


 1回だけという話だったのに、スクルズは魔法銃を使ってまたマジックブラストを放った。

 驚いたのは彼女の意思で、適切な破壊力に調整されていたことだろう。

 純粋魔力がヤシの実の上部だけを破壊して、オアシスの砂地にヤシの実がドスンと落ちていた。


「ユリウス、この子凄いぞ! 俺の魔法銃を使いこなしてくれている!」

「ああ、意外な才能だな」


 スクルズの得意は回復魔法だ。攻撃魔法が苦手で、今までマジックアローすら撃てなかった。

 マリウスとアダマスの研究は大成功をおさめたことになる。


「スクルズ!!」

「ぎゃっ、母?! ち、違うのじゃ、こ、これは……パパが! パパが撃ってみろって言ったから、しょうがなかったのじゃ!」


 ところがそこにグラフがウルドを連れて帰って来た。

 そして鮮やかに娘は父に冤罪をおっかぶせた。


「いてっ!?」

「すぐにバレる嘘を吐くな。グラフ、スクルズに銃を持たせたことは謝る。もう2度とさせないから許してくれ」

「俺も軽率だったよ。すまない、グライオフェン」

「何を言ってるんだ? ボクはこのくらいの頃から弓を持っていた。それよりさっきのを見たか、素晴らしい命中精度だ! スクルズ、今度はあっちのヤシの実を撃ってみてくれ!」


 忘れていた。グラフは元武官だった。

 弓の才能が今一つだった自分の娘に、魔法銃使いの才能を見出して笑っていた。


「父、なんか許されたのじゃ!」

「みたいだな……」


「父!」

「なんだ?」


「嘘吐いてごめんなのじゃ……」

「気にするな。孤児院時代のユリウスはもっと嘘吐きだったぞ」

「おい、娘の前で親の過去を掘り返すな」


 スクルズには回復魔法と魔法銃の才能、ウェルサンディには攻撃魔法の才能、そして一番おとなしいウルドには弓の才能があった。


「おとうさん、ただいま……」

「お帰り」


「おとうさん、まだアレ、やってる……? お父さんのアレ、見たい……」

「どうせ今日も失敗作ばかりだぞ」


「いいの……。お父さんのお仕事、見るの好きなの……」

「そうか。なら特等席にご招待だ」


 ウルドを抱き上げて工房に引き返すと、ぞろぞろと残りの連中が付いて来た。

 みんなの前で試行錯誤して、みんなの前で凡作としか言いようのない失敗作を完成させた。


 シャンバラの再生はまだまだ遠い。

 それでも諦めずに、いつかこの目で緑にあふれたシャンバラを見るために、俺は失敗を繰り返していった。


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