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・1年目 渡る世間は変人ばかり

「お兄ちゃん……っっ」


 ともかく部屋に帰って着替えよう。そう決めて玄関へと歩き出すと、そこにもう1人の役者がやってきた。

 ファルク、ランスタとくれば、オドだ。


「久しぶりだ、オド王。あれから少し見ないうちに背が伸びたか?」

「お兄ちゃんっ、お兄ちゃんっ、僕、会いたかった……っ」


「待て、今はずぶ濡れ、わっ?!」


 それはあの気弱な少年王だ。華奢な少年がこちらの胸に飛びついてきて、しばらくの間、何を言っても離れてくれなかった。


 せめて一言だけでも助け船を出してくれてもいいのに、なぜかガラテア姫たちは見て見ぬ振りをしている……。

 いやメープルに限ってはむしろ逆で、ニヤニヤと俺の困り果てる姿を遠くから嬉しそうに眺めていた。


「オド王、まさか君まで俺に無理難題を言ったりしないよな?」

「え……何かお願いしてもいいのですか……?」


「もちろん。じゃないと流れからして不公平だからな」

「なら僕……ユリウスお兄ちゃんの家に泊めて欲しいです……。僕ね、ずっと、お兄ちゃんに会いたかった……」


「そうか、ならそうするといい。というより最初からそのつもりだった。歓迎するよ」


 久しぶりに会ってみるとやはりほっとけないというか、ついつい彼を甘やかしてしまう。

 孤児院育ちの俺からすれば、慕ってくれる弟分に弱いって部分もあるのだろう。


 その日はオド王とガラテア姫を交えて、楽しい一晩を過ごした。

 2人は似た境遇もあったのかすぐに仲良くなっていったようで、それが彼の成長を感じさせられて俺も嬉しかった。



 ・



 こうして翌朝、俺はいつものようにベッドから身を起こした。

 この感覚は知っている。起きるとメープルが隣で猫みたいに眠っていることなんて、ここではそう珍しいことではなかった。


「へ、オド、王……?」


 ところが俺の隣で眠っているのは、あのうら若い少年王だった。


「ぁ……おはようございます、ユリウスお兄ちゃん……」

「お、おはおう……。あ、あれ……?」


「どうかされましたか?」

「いや、どうもこうも……あれ……?」


 なぜここに彼がいる?

 なぜ俺は彼と一緒に眠っていた?

 昨晩の俺はどこで何をしていたんだったか……。


「ユリウス、陛下を知らないかしら?」

「陛下ってオド王か? それならここにいる」


「あっ……!? ご、ごめんなさい……あたし、あたし何も見なかったことにするわっ、ごめんなさい!」

「待て! 待て待て待てっ、誤解だ! なんか誤解してるぞ、シェラハ!?」


「ふ、深くは聞かないわ……。へ、平気よ、わたし、ぜんぜん、平気よっ」

「あの……僕何かご迷惑をおかけしましたか……?」


 と言いながら、なぜ君は俺の胸にピッタリと頬を寄せるのだろうか……?


「違うんだ、誤解なんだっ、待ってくれシェラハッッ!!」

「だって……だって……っ」


 ところがこの騒ぎを聞きつけてか、階段から無数の足音が鳴り響いて人がここに押しかけてきた。

 現れたのはグラフとメープルだ。特にメープルは何か主張があるのか片手を上げて、俺とシェラハの間に割って入った。


「私、犯人知ってるよ……。犯人は……私だ!」

「は……?」

「ど、どういうこと……?」


「昨晩、ユリウス、先に寝たでしょ……。だから、せっかくだから……。私が、寝床が足りないからユリウスのベッドで寝るように、オド王に言っただけ」

「それをボクは見て見ぬ振りをした」

「お、おまっ、お前らなんてことをっ……?! 余計なことすんなよっ、ビックリしただろ!!」

「なんだ、そういうことだったの……よ、よかった……」

「ご迷惑をかけてすみません……。ここでは、そういうものなのかと……」


 しかし王のために手配していたはずのベッドが届かないなんて、そんなことが起こり得るのだろうか。

 疑いの目でメープルを見ると、彼女はニタリとこちらに笑い返してきた。


「お前な……」

「お兄ちゃんと一緒に寝れて、よかったね……」


 絶対コイツ、確信犯だ……。

 2階から子供たちが降りてくる前に俺はベッドから抜け出して、弟分のオド王に手を貸して起床させた。


 こんな現場を娘たちに見られたら、親としてあまりに悲しすぎる……。


「パパー、おはよー!」

「母、おなかすいた!」

「またママ、いたずら、したの……?」


 おい……メープルお前、子供にまでたちの悪さを覚えられてしまっているじゃないか。


「えと……これは、慈善事業……?」

「どこがだ……」


 自分の子供にそう言われたら、さすがのメープルもばつが悪そうだった。

 ウルドはメープルに似て頭がいい。将来はとても賢い子に育つだろう。



 ・



 オド王とガラテア姫を交えて朝食を囲み腹を満たすと、午前の仕事はモンスターカクテルの増産に決まった。

 ファルク王の機嫌を取っておいて損はなく、一応有事の際の戦略兵器にもなる。


 いや一応ではなく、こんなシュールなものが本格的に運用できてしまうところが、俺を複雑な心境にさせた。


 確かに強い。とんでもない破壊力だ。だが酒を呑んでは口からビームを放つ集団に自分が倒されたら、死ぬに死に切れないというか、相当に納得のいかない死に方になるだろう。


「オド王、ここはいいから暑くなる前に水浴びでも……」


 オーブと水槽を使った酒の調合が一段落したので、付き添ってくれた彼に振り返る。すると彼は作業テーブルに腰掛けたまま眠ってしまっていた。


 今朝のメープルのイタズラには驚いたけれど、親兄弟を失った彼からすれば、兄と慕う存在と一緒に眠れたのはとても嬉しいことだったのかもしれない。

 確かにまあ、メープルの行動は慈善事業と取れなくもなかった。


「父、たいへんじゃ! へんなおきゃく! へんなおきゃくきた!」

「変なお客?」


 もう十分過ぎるほど濃ゆい連中が集まってるのに、これ以上はないだろう。

 伝えに来てくれたスクルズの前にひざまずいて、父親は我が子の愛らしさに目を奪われた。無垢だ。あまりにこの子は無垢だ。


 空のような美しい髪とその白い肌は、このあどけない容姿と組み合わさるとまさに天使そのものだ。


「おお、ここが大先生の工房ですか! 素晴らしい!」


 と思ったのが、なんと変なお客というのはあのツワイクの新王だった。

 彼は周囲にエルフの嫁さんたちをはべらせて、ツワイクではなんの変哲もないうちの錬金術工房を絶賛していた。


 確かに、コイツはぶっちぎりの変なやつだ……。


「そしてこれがあのモンスターカクテル、口からビームが出るというあれですね! ツワイクにもこれを売ってくれませんか!?」

「はぁぁぁ……っ」


 今となってはアリの方が尊敬できる。この新王は極力シャンバラの人々に紹介したくないエルフ狂いだ。ツワイクの恥だ……。


「ダメですか?」

「そこは普通に考えてくれ……。住宅の密集するツワイク王都で、こんな物がもし市場に流れたら王都ごと吹っ飛ぶぞ……」


「公共事業がはかどりそうですね!」

「そういう問題じゃねーよ……。ん……? そこの女性2人はどうした?」


「お気付きになられましたか、大先生!」

「だからなんの先生なんだよ!」


「エルフ道の大先生ユリウス先生! 実は今回、新しいお嫁さんを2人貰うことになりました! これで大先生の2倍の6人です!」


 あまりの無計画さに頭を抱えた……。

コミカライズ版、超天才錬金術師1巻がついに発売しました。書店で見かけたらどうかよろしくお願いします。

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