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・楽園から魔力あふれる沃野へ 1/2

 あまりの弱さに拍子抜けした。あのアダマスたちのように異常な自己再生能力と強大な魔力を持っていると思いきや、短距離転移からの背中への斬撃程度で、追っ手のタンタルスは赤い血しぶきを飛ばして草地に倒れ伏せた。


「ひ、人殺し!!」

「エルフを家畜にしておいてよく言う」


「撃て、撃てっ、あの耳の短いエルフを撃てっ――ギャッッ?!!」

「しかし、なんだ? コイツも弱いな……」


 兵士だというのに、彼らは服の下に鎖かたびらさえ身に付けていない。武装らしい武装と言えば引き金の付いた妙な筒だけだ。やつらは恐怖に駆られた顔でその道具を俺に向けると、機械式のマジックアローを雨あられと放ってきた。


 再び転移でやつらの背後に飛ぶと、俺の居た草地だった場所には破壊による砂煙が立ち上り、それがちょうどいい目くらましになっていた。


「やったか!?」

「ざまあみやがれっ、殺人鬼め!」


 敵の数は10数名ほどだ。後ろから立て続けにやつらの背中を斬り付けて、人数を数えやすくなるまで敵を減らした。あまりに弱すぎて、あっという間にもう残り6名だ。


「その筒、面白いな。それがあれば魔法の素養がなくとも、マジックアローを連発できるのか」

「な、なんなんだ、コイツ?! 人が消えるなんて、そんなのあり得ない……!!」

「ば、化け物……ッッ、ヒ、ヒィィッッ!!」


 やつらは逃げたエルフを追おうなんて、もはや考えてすらいないようだ。俺に魔法の筒を向けながら、ジリジリと後退している。背後からの奇襲に怯えてしきりに後ろを見るので、次は側面からの攻撃を仕掛けてもいい。


 加えてやつらは気付いていないようだが、マジックアローが着弾するたびに辺りに魔力が拡散するので、こっちは撃たれれば撃たれるほどに魔法の発動が快適になっていった。


「ギャッッ!!」

「た、助けてっ、こんな危険な仕事なんてっ聞いてないっ!」

「こんなやつどうやって倒せっていうんだ! て、撤退――」


 あまりに一方的なので同情しかけた。だが、こいつらは自分たちの利益のためだけに、シャンバラやリーンハイムを征服しようとした連中だ。殺傷力のある武器を持って攻撃してきた以上、民間人とも言えない。……全て片付けた。


「また新手か……」


 しばらく身を伏せて待機すると、さっきの連中よりもずっと大きな筒を身に付けた連中が現れた。

 一方で俺の背中の後ろでは、エルフたちが自由を求めて丘を駆け上っている。


 彼らの一部は増援に気付いたのか悲鳴を上げて、その中には動揺のあまり転んでしまったり、息が続かなくて膝を突く者もいた。魔力プラントでの生活がよっぽど過酷だったのか、だいぶ弱っているようだった。


「ぜ、全滅している……」

「隊長、妙です。こいつら、背中ばかりを鋭利な刃物か何かで斬られています」

「各員、円陣を組んで周囲を警戒しろ! 魔力プラントのエルフに、こんな芸当は不可能だ!」


 そいつらはさっきの連中と異なり、頑丈な兜と全身鎧をまとっている。黒焦げの聖剣であれを斬るのは難しいだろう。


「撃て、手当たり次第に撃て!! 敵はどこかに潜伏しているはずだ!!」


 隊長の判断に従って、やつらの筒の1つ1つが土砂降りのようなマジックアローを辺りに放った。

 背中ばかりを狙われた傷痕から、潜伏を得意とする敵を想定したところまでは正しい。


 だがそんなことをされたら、丘の上のエルフたちに流れ弾が飛んでいってしまう。

 よって仲間を撃たれるわけにはいかなかった俺は、やつらの円陣の内側へと潜り込んで、そこでプチ・メギドジェムを起動させた。


「その筒もいただこう」


 起爆まで少しあったので、こちらに気付いて振り返った勘のいいやつから、その破壊力抜群の筒を盗んでやった。

 それから世界の裏側で一息ついてから、その肩掛けベルト付きの筒を抱えてみた。持てなくもないが、怖ろしく重い。どうやらこの連中は、アダマスほどではないが多少の肉体強化を受けているのかもしれない。


 大きい筒と小さい筒を抱えて世界の裏を歩き、丘の上の座標まで進むと元の世界に戻った。

 メギドジェムは魔力無き世界でも無事に発動し、溶鉱炉のような爆心地を作って追っ手の全てを消し飛ばしていた。


「そこら中で何か鳴っているな……。少し派手にやり過ぎたか……?」


 彼方に見える全ての都市やさっきの魔力プラントから、まるで敵襲を告げる鐘楼のように騒がしい警告音が鳴り響いている。しかしここまで時間と距離を稼げばもう俺たちの勝ちも同然だ。

 闇の迷宮に群がる長蛇は、次々と迷宮内部へと飲み込まれていっている。俺は敵襲を警戒しながら辺りを注視して、それと同時に辺りの魔力や、裏側の世界での歪みを観察した。


「ユリウスッ、よかった、無事だったのね! えっ、そ、それって何……!?」

「やつらの武器だ。せっかくなのでいただいてきた。これはなかなか凄いぞ。これは魔法が使えない者でも、機械の力でマジックアローを連発できる装置のようだ」


「あたしにはそんな凄い物には見えないけれど……。あ、だけど、これ持って帰ったらマリウスさんが喜びそう」

「だろうな。あいつならこれを複製してくれるかもしれない」


「ううん……。それはいくらなんでも、彼女を買いかぶり過ぎじゃないかしら……」

「いや、アイツは転移装置を復活させた男だ」


「……そ、そう」

「悪いが代わりに持って行ってくれ。俺はこれからこの闇の迷宮と、ここの眠っている棺を爆破する」


「わかったわ。……あ、でも、少しだけ待って」

「なんだ?」


「あ、あのね……」


 シェラハが少し迷った様子でこちらを見た。シェラハは色黒なので、ライトボールの明かりすら不安定な地下では表情が上手くうかがえない。

 そこで俺はどうにか顔を読み取ろうとシェラハに一歩近寄った。するとなぜか彼女の方までこちらに飛び込んできて、それから不意打ちも不意打ちのキスを頬へとお見舞いしてくれた。


「死んだら許さないわ。絶対に無事に戻ってきてね……。そ、それじゃ、行くわ!」

「あ、ああ……」


 そんなに恥ずかしいなら始めからやらなければいいのに、シェラハは逃げるように闇の迷宮の暗黒へと去っていった。

 これから自分が迷宮ごと爆死しかねないミッションに入るというのに、危うく俺まで色ボケしかけるほどにシェラハは可憐だった。



遅くなってすみません。

あと3話ほどで第三部完結の予定です。

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