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・Elf heaven 1/2

 シェラハは諦めなかった。『もはやこんなものは威力偵察ですらない』と釘を指したのも既に昨日のことで、いつしか俺たちは本気でこの迷宮の果てを目指していた。

 身重だというのに諦めない彼女をどうしても止められず、むしろ俺もこれだけ思わせぶりな物を見せられては、好奇心の方が勝るようになっていった。


 本当にこの果てにシェラハの両親が見つけた新天地があるならば、自分だってそこに行ってみたい。彼女の両親はきっと俺に良い顔をしないだろうが、彼らの飽くなき冒険心を賞賛したい。部分的にだが緑が蘇った今のシャンバラを彼らに見せたい。


 彼らは砂漠に閉じこめられた砂漠エルフ(デザート・ウォーカー)を救いたいその一心で、この闇の迷宮の果てを目指し、ついには理想郷を見つけ出した。彼らもまた、今となっては分かたれた部族の1つと言ってもいい。少なくとも、シェラハと義父シャムシエルにとっては、再び1つに束ねなければならない存在だった。


「ユリウスッ、あれを見て! あれって、入り口にあった物と同じ穴よっ!」

「不用意に飛び出すなと、何回言えばわかる……」


「ふふふっ、反面教師になったでしょ! ほら、早くきてっ、やっぱりそうよっ、これがきっと出口よ!」


 こうして1度の睡眠と6回の食事によるところの探索2日目の夜、俺たちはついに『向こう側』への出口を見つけ出した。


 シェラハの父母たちはこの迷宮の攻略にさぞ苦労したことだろう。

 フロアを重ねるごとにモンスターが強くなるのは迷宮の常識だが、この地下81層目まで降りてくるとゴブリン1匹ですらオークのような生命力と筋力を持つようになる。


 これでは1フロアを攻略するだけでも相応の人的被害があったはずだ。


「ふぅ……やっと着いたか。最初は偵察のはずだったのにな……」

「私は最初からこのつもりだったわ、あのお父様の手紙を見てからずっと!」


「そういうファザコンっぷりを見るたびに、親に会うのが怖くなる」

「お父様もお母様はやさしい方だから大丈夫よ。ああ、早く会いたい……」


 だがその気になれば迷宮の壁すら吹き飛ばせる脳筋妊婦と、間合いなど意味をなさない転移魔法使いの敵ではない。

 フロアボスはプチメギドジェムによる瞬殺の連続で、そのイカサマまがいの攻撃力によって、俺たちはたった2日でここまでやってこれた。


 とはいえさすがに無傷とは言えず、シェラハの金色のバリアリングにはひび割れが走っている。このバリアリングがなかったら、エリクサーがあろうとも俺たちは撤退を余儀なくされていただろう。


 俺とシェラハは迷宮の出口の前に立った。

 闇の中に青白い光が渦巻いていて、どの迷宮にも共通していることだが向こう側が見えない。


 ところで急にシェラハが静かになったので、ふと隣に目を向けてみれば、先ほどまでの笑顔がそこから消えていた。

 当然だろう。この先に彼女が望む真実があるとは限らない。シェラハは臆病風に吹かれていた。


「……ここまできて帰るなんて言うなよ? 覚悟はいいな?」

「う、うん……。いいに決まってるわ……」


「お父さんとお母さんに会えるといいな」

「そうね……。でも、急になんだか、会えない気がしてきたの……。だって、もう10年以上が経ってるのよ……」


「さっきまでの強気はどこに行った。そう弱気になるもんじゃない」

「でも……こんなにモンスターが強いのよ? お母様は無事にたどり着けたのかしら……。それにこの向こう側も、本当にお父様たちがいる世界に繋がっているのかしら……」


 その細い肩を叩くのを止めて、俺はその美しいブロンドの髪の方を撫でた。こういうのは子供扱いなのかもしれないが、今の彼女には肩を叩くよりもずっと効果的だった。


「ごめんなさい……。最近のあたし、どうかしてたわ……」

「ああ、どうかしてたな」


「ちょっと、何よその言い方……」

「その身体でこんな深さまで迷宮を下ったやつなんて、シェラハが史上初だ。お腹の子はさぞ強い子になるだろうな」


 子供の話をすると、弱気になっていたその姿が見るからに明るくなった。


「ふふ……虫も殺せないお嬢様だったあたしが、こんなたくましい戦士になったと知ったら、お父様もお母様もきっと驚くわ! さあ、行きましょ、ユリウス!」

「実は俺も緊張しているんだ。『初めましてお義父さんお義母さん』って言わなきゃならないんだからな……」


 俺たちは離れないように手を繋いで、闇の迷宮の出口へと一歩一歩進んでいった。

 俺たちは父と母が消えたもう1つの世界へと、最後の一歩を踏み出してあちら側の大地を踏んだ。


分割の都合上、今回が短く、次々回更新分が長くなります。


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