・王位継承権11位の新王は少しおかしい 2/2
「はい、では同盟しましょう」
「早っ?! いやちゃんと考えてから答えてくれ! ツワイクの未来がかかってるんだぞ!?」
「断る理由はありません、どうかツワイクと同盟して下さい」
断られた場合も想定して、説得のプランを考えていた俺がまるで馬鹿ではないか……。
常に侵略の危機に迫られていたツワイクが、シャンバラの盟友になれば元国民として安心できることではあるが。
「シャンバラの長は聡明な方ですね。この国が再起不能になるまで追い込んでもよかったのに、生き残りのチャンスをくれるなんて、とてもおやさしい方だと思います」
「それは人間の視点だな。エルフとヒューマンの対立が深まれば、将来的にはどちらにも損しかない。あの爺さんは俺たちと違って、1000年先まで考えているんだ」
「だったらヒューマンなんて滅ぼして、エルフだけの世界を作っちゃえばいいのに。それをしないなんて、やっぱり博愛的な方です」
「冗談なのか素なのかわからない冗談は止めてくれ、怖い……」
俺は書簡を届け、同盟締結の返事をもらった。
迷宮を軸としたツワイクの輸出品はシャンバラと著しく競合するため、貿易だけ考えればツワイクを経済的に潰すのも1つの答えだった。だがシャムシエル都市長という男はそういうやつじゃない。彼はいつだって未来を見ていた。
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謁見は終わり、プライベートが始まった。外交官としてここにきた以上、真っ直ぐ帰れるとは思っていたかったものの、新王に気に入られて王の宮に招待されるとは想定外だった。
「ユリウス師匠、お会い出来てよかった。あのアリ兄さんが言った通りの方でしたよ」
「それ、悪評じゃないのか?」
「いえ、とても褒めていました。べた褒めです。シャンバラの繁栄はユリウス・カサエルが没するまでのこと。ユリウスが死ぬまで、シャンバラは敵に回すな。そう言っていました」
「あ、アイツが、そんなことを言ったのか……? 信じられん……」
「反対に言えば、貴方が亡くなればもう1度ツワイクの時代がくるということですね。そう考えれば、たかだか数十年くらいシャンバラが台頭しても別にかまいません」
「怖い話はもう止めてくれ。しかしアリについては驚いた、まさか、自分から王族の地位を捨てて国を出ていくなんて」
「わかります。アリ兄さん、変わりすぎです。きっとあのお嫁さんの影響なのでしょう」
「いやそれにしたって……。アイツ、やっぱりどこかで頭でも打ったんじゃないか……?」
「酷いですね、ユリウス先生は。それではユリウス先生、お互いに仕事の話も終わりましたし、宮廷画家に描かせたエルフ画をご覧に入れましょう。同志ならきっと! 気に入るはずですよ!」
エルフ画って、なんだ……?
「勝手に同志にするな……」
「何言ってるのです! あっ、そうでした、お子さんが産まれたらどれだけ可愛いかお手紙を送って下さい!」
「手紙じゃわからないだろ……」
「わかります、そこは妄想力でカバー可能です! さあ、私のエルフ画コレクションにようこそ! 見て下さいこの優美なライン!」
絵画か何かなのかと思い、少しのスケベ心と共に王のプライベートギャラリーへと入ると、そこには耳だけがキャンバスいっぱいに描かれた珍妙な画があった。
どれを見ても耳。どこまで行っても耳、耳、耳! コイツ、エルフの耳しか見てねぇ……。
「どうです、美しいでしょう? これなんて、画家に描かせるの苦労したんですよっ」
「画家が可哀想だからもう止めてやれ……」
ツワイクの新王は、ただただ濃かった……。
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「あ……」
「む……」
蛇足だが、別れを伝え、王の宮を離れてもなぜかくっついてくるクリスト王と一緒に王宮の回廊を歩いていると、どこかで見た人影が隣を通りすがった。
「これはこれはユリウス様、ご機嫌麗しゅう。陛下、あまりユリウス様を困らせてはいけませんぞ。彼はシャンバラの国賓なのですからな」
「お、お前……まさか、ヘンリー工場長……?」
それはツワイクポーション工場の工場長だった。失脚したはずの彼が、なぜか立派なトーガをまとって王宮にいた……。
「どうかしましたかな、ユリウス様?」
「なぜ工場長がここに……。噂では、トイレの掃除夫まで、落ちぶれたって聞いたんだが……」
「ほっほっほっ、私はね、ユリウスくん……。男爵家に産まれながら、コネと世渡り1つでここまで成り上がってきたのだよ? 時勢を嗅ぎ分けるセンスだけは、まだまだ若造どもには負けんっ! ……ということで、今後ともよしなにお願いしますぞ、ユリウス様」
「そうなのです。嗅覚だけは凄いので、内務大臣を任せることにしました」
ヘンリー工場長が内務大臣って、どんな冗談だ……。
「大丈夫か、この国……」
栄枯盛衰。工場長は落ちぶれたり成り上がったり、とかく忙しいおっさんだった……。
俺はその後、もう帰りたいと言ったはずなのに、エルフ尽くしの接待に頭がおかしくなりかけたところで、這々の体でシャンバラへと帰国したのだった。




