・王位継承権11位の新王は少しおかしい 1/2
新王クリスト・ツワイクとの謁見はまだ朝だというのにすぐに叶った。だがその新王は、俺を見るなりこう言った。
「おお、ユリウス大先生! よくぞお越し下さいました!」
「だ、大……え、なんだって……?」
「大先生!」
「……ちょ、ちょっと待ってくれ、いきなりなんの話なんだそれ!?」
新王はアリのやつに少しだけ顔立ちが似ていた。それは大柄で肩幅の大きい青年で、髪は黒く肌もやや浅黒かった。その立派な風格にこっちは若干威圧されていたというのに、いきなりでかいやつに大先生だなんて言われても、返事に困る……。
「これは異なことをおっしゃります。ユリウス・カサエルと言ったら、エルフ道を極めた男として、その界隈で貴方は最も著名な方ではないですか」
エルフ道って、なんだ……? そんな言葉、生まれて初めて聞いたぞ……。
「聞きましたよ、砂漠エルフ、森エルフ、そしてロリエルフ! 3人も妻にして、その全てと同時に子供を成したそうですね! これほどまでに芸術点の高い行いは、過去例がありません……なんて素晴らしい……!」
芸術点とかあるのか……。ますますエルフ道とやらの謎が深まったな……。
新王は著しく興奮しているようなので、まあ、同盟を締結させたいこちらとしては好意的な態度は都合がいいのだが……。これでは何を考えているのやら、まるで頭の中が読めない……。
「いや、まだ子供は産まれてないんだ。来月生まれる予定でな、どんな子が産まれるのか俺も楽しみだ」
「ええ、わかりますとも! エルフの女性から産まれる子は、必ずエルフとして産まれるというところもいいですね!」
「お、おう、ずいぶん詳しいな……」
「なんという英雄だ……。どうかこの私にも、エルフにモテモテになる方法をご教授下さい!」
「いや、なぜそんなアホなこんな謁見の間で――いや、なんでもない」
新王は情熱的な男だった。家臣の前だというのにずいずいと俺の前に出てきて、手を取って立ち上がらせた。
彼はよっぽどエルフという種族が好きなのだろう。どうやって都市長に籠絡されたのか、そんなもの聞かなくてもわかった……。
「ユリウス師匠に対抗して、私はエルフのお嫁さんを4人いただくことにしました!」
「はぁっ、4人っ?!!」
「はぁ、楽しみだな……ですが聞いて下さい、ユリウス大先生! 私、覚悟を決めたのはいいのですが、大好きなエルフに嫌われたくないのですっ!! どうかエルフさんたちと、仲良くする方法を私に教えて下さいませんかっ!?」
この王は、大丈夫なのか……?
本当にこの男に、祖国ツワイクを任せても大丈夫なのか……? 元国民として、不安になってきた……。
いや、第三者からみれば、俺もこの男と大差ないのだろうか……。
いや、いやいやいや、そうとは思いたくない……。
「そう言われても中身は人間と全く変わらないぞ」
「そんなことはありません! エルフは人間よりも心が美しいのです!」
「いや、だが俺の知ってるエルフは、人の尻を触ってばかりいるぞ」
「純粋さゆえでしょう」
おっさんが純粋でも得するやつはいないだろ……。
「……ん、そうだな、やたら甘い物が好きなやつらが多いから、最初は菓子で釣るといいんじゃないか?」
「なるほど……少し待って下さいっ、メモの用意をしますので!」
「いやメモされても困るっての!!」
「いえ大事なことですので!」
秘書官らしき者が、俺の言葉に合わせて金箔貼りのメモ帳に筆を滑らせた。
本当に、本当にこの王で大丈夫か……?
「それと、あいつらは自然がやたらと大好きだ。逆に言うと、狭くて石ばかりの環境じゃ不満かもしれないな」
「そ、そうだったのですか!? おいっ、今すぐ後宮の植林を急げ! 壁紙も爽やかな感じの緑に張り替えろと現場に伝えろ!」
俺が親切心で余計なことを言ったがために、現場に大きな負担がかかった瞬間だった……。
「そうじゃなくて、一緒にピクニックに行くとか、そういう触れ合いを試みたらどうだ……? あまり工事を急がせたら、現場の労働者たちが困ると、俺は思うが……」
「なるほど、山を買えということですか」
「言ってねーよっ!?」
「ははは、ユリウス大先生は面白い方ですね」
「はぁぁっ……。だが何よりも大事なのはな……どうあがいても、俺たちの方が先に死ぬってところだ。このことを忘れると、酷い目に遭うかもしれないぞ」
「酷い目? 具体的にどのような?」
「……そこは、ノーコメントだ。俺の場合は死にかけたとだけ伝えておく。というより、そろそろその書簡を読んでくれ……」
そうお願いすると、王は素直にも静かになって、一通り目を通してくれた。
「はい、では同盟しましょう」




