・失敗作の緑のぷにぷには百倍ポーション 2/2
「保存性には欠けそうですが、重体の患者をも一瞬で癒す桁外れの効果と、この携行性……実に素晴らしい……。もし可能ならば、量産をお願いできますか?」
「いや、もう一度作れるかは、やってみないとわからない。それと、材料があと1回分しかない。もう1度魔物素材を調達しないとだ」
魔物素材は魔力を持っているので、錬金術以外の魔法分野でも用いられる。
ポーションにばかり目が向けられるが、これも魔法科学には必須の戦略資源だ。
もしもこの調合を再び再現出来れば、将来的には魔物素材の消費が抑えられ、その分だけ錬金術以外の分野に素材を供給することが可能になる。
「では予定を早め、今すぐ冒険者ギルドを創設するといたしましょう!」
「今すぐって……。年寄りとは思えないフットワークだな……」
「貴方が私の夢を叶えてくれたからですよっ! よくやりましたね、シェラハゾ、メープル! 彼は素晴らしい人材です! よくぞこれだけの才覚を見破ったものです!」
「い、いえ……こんなに凄いとは、あたしたちも思ってもいませんでした……。本当に、世界経済をひっくりかせるかも……!」
「バンザイだニャァーッ!!」
再び俺は首を傾げて、静かで美しいオアシスの輝きを眺めた。
全ての出来事には因果があると師匠に教わったものだが、このぷにぷにとしたポーションは因果律レベルでおかしい。論理的にあり得なかった。
「煽てないでくれ、こんなのマグレだ。再現出来るかもわからんぞ」
「ふふっ……何よ、急に謙虚になっちゃって」
「俺はエリートだって、言ってたくせに……。ね~、姉さん……」
「ねーっ、おかしいわっ、ふふっ♪」
「ムフフ……」
そう言われても、こっちは状況にまだ納得がいっていない。
けれども左右から美しいエルフの華やかな笑顔に囲まれると、ワクワクするような明るい気持ちがこみ上げて来るから不思議だ。
もしかして俺って、本当に凄いのか……?
だったらツワイクでのあのブラック待遇はなんだったんだ。
結局、流され損だったってことではないか。
「もう1度同じレシピで作ってみよう。喜ぶのはその後だ」
「アタイがお手伝いするミャ!」
不思議だ。舞い上がるネコヒト族や都市長の姿を見ていると、こいつらのためにもっとがんばろうと、大義とはまた異なる自然な善意が胸に沸き起こるから、どうにも不思議だった。
・
その後、先ほどと同じ緑のぷにぷにの再生産に成功した。
最高級のポーションが約100粒も供給されたことにより、都市長たちは慌ただしく冒険者ギルドの創設に動き出した。
対する俺の方は素材切れで今はやることがない。
日差しが強くなってきたので、家に引き返して茶をすすっていた。
「ユリウス……わがまま、言っていい……?」
「いいぞ。あまりハイレベルな要求は飲めないが」
「安心して……縛らせろ、なんて言わない……」
「そうか、それは未来永劫、ぜってーOKしないから安心しろ」
「残念……。本気で残念……軽く、落ち込むレベル……」
「お前は本当にこじらせてるな……」
しかしコイツはあのネコヒト族の姉御を救った功労者でもある。
いち早くあのぷにぷに型のポーションを与えなければ、あのまま息絶えていた可能性だってあった。
「で、どうしたいんだ?」
「じゃあ、服脱いで、目をつぶって……?」
期待にメープルの目が輝いた。
普通なら抑圧することになる歪んだ性癖と、ここまで素直に共存しているやつを俺は他に知らない。
「誰が脱ぐかよっ、そっちの話じゃねーよっ!」
「ぁ……そうだった……。あのね、都市長、忙しそう……。だから……」
「ああ……いいぞ、こっちはいいからシェラハゾと一緒に手伝ってこい」
「いいの……っ?」
「俺の許可なんていらないだろ。補佐は嬉しいけど、お前らは好きに動けばいい」
「ありがとう、ユリウス! いつか絶対縛る……!」
「怖いから止めろよっ、そういう冗談!?」
銀色の髪の毛を揺らして、少女が首をかしげる。
ただそれだけで可憐なのだから、若いエルフというのは卑怯だった。
「……? 本気だよ……?」
「そうか」
「うん……。大好きなユリウスの、哀れで、惨めな、うめき声……聞きたい……」
「なんでそんなものが聞きたいんだよ……」
「悲鳴、聞くと、生きている実感……するから……?」
コイツ、都市長の養女だって言ってたっけ。
そうなると拾われる以前があったわけで、それはきっと幸せなものとは限らなかっただろう。
「……バカなこと言ってないで、早く手伝いに行ったらどうだ。無理して倒れるかもしれないぞ、あの爺さん」
「あ、そうだった……。ユリウス、ありがとう、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
妹が2階の姉を引っ張って出て行くのを見守ると、俺も思い付いたことがあって家を出た。
そうだ。材料切れで動けないのなら、材料をまた自分で取りに行けばいい。
俺はあのシャンバラ1号迷宮に遊びに行った。もとい、素材調達に行った。
「困るにゃぁっ、そういう独断行動はっ、シャムシエル都市長に怒られるにゃぁっっ!!」
「ついてくるな、ソロでやりたい」
「バカ抜かすにゃっ! 姉御を救ったくれた恩人をっ、1人で行かせられるわけがないんにゃぁっ!」
「怪我をされたら困る」
「アホーッ、それはこっちのセリフにゃっ!!」
ソロプレイは叶わなかったが、ネコヒト族の軽戦士と魔法使いのサポートのかいもあって、地下5階を守護していたジャイアントオーガを殲滅して、俺はその日の冒険を終えた。
メープルほどではないが、こいつらは小柄ゆえに機転が利いて使える。
亜空間転移の連発に最初こそ面食らっていたが、最後は見事な連携を果たしてくれた。
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