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・フェーズ1-3オド王国 - 魔剣誕生 -

 材料は【ミスリルインゴット】と、それを光らせるためのキーアイテム【星の砂】に、成分を安定させるための触媒である【妖精の鱗粉】だ。


 さらにそこへとアレンジとして【闇の石】を加える。これは黒の絵の具に使われるもので、産出地である闇の迷宮そのものが少ないこともあってそれなりに高価だ。


 さて材料も揃ったので調合に入ろう。俺は釜へとかき混ぜ棒を下ろして、基礎素材で満ちた水溶液に魔力をかけていった。


「ねね、ユリウス……大事な話がある……」

「大事な話?」


「これ見て……こんなことも、あろうかと、用意した……」


 また何かとんでもないことをやらかすつもりではないかと、俺はメープルに警戒の目を向けた。ところが現れたのは1枚のメモ書きだ。そこに絵が描かれていた。


「うわ……」

「うわ、とは失礼な。グラちんと、一緒に、一生懸命、考えたやつなのに……」


「まさかの合作かよ……」


 それは太刀の絵だった。黒い刀身には赤と紫の模様が浮き上がり、仕様通りに黒いオーラを放っている。しかしその細くアーチがかかったツバは著しく武器としての信頼性に欠け、握りの部分には銀の装飾が施されている。


 さらに柄の部分にはアメジストのような宝石がくっついていた。


「あ、あたしは関わってないわよっ、念のため!」

「どうだっ、カッコイイだろうっ!」


 かつてリーンハイムでは白百合のグライオフェンと呼ばれ、人々の尊敬と憧れを集めていた女性は、まるで少年のようにメープルとの合作を自慢した。


「うわ……」

「だから、うわ……とはなんだよっ、キミにだけは言われたくないぞ!」

「カッコイイのに……」


 これを腰に吊して人前に出る勇気はないな……。

 だがまあ、この上なく男の子が好きそうなデザインではある。……対象年齢がかなり低めなような、そんな気もしなくもないが。


「わかった、この路線で作ってみよう。けどアメジストなんて持ってないぞ……」

「こんなこともあろうかと、ほい……」


「なんでそんなもん持ってるんだよ……」

「アメジストじゃないよ。ただの、鋭利な、黒曜石……。ユリウスのベッドに、いつか、仕込もうかなって……」


「お前は俺を殺す気か……」


 黒曜石は宝石と呼ぶよりもガラスに近い。硬質だが脆く、割れると肉を裂くほどに鋭く尖る。


「冗談に聞こえないところが怖いな……」

「ダメよ、メープル。いくらエリクサーがあっても、ベッドが汚れたら宿の人に迷惑でしょ?」


「ごめん、姉さん……。使うのは、帰ってからにする……」


 俺の嫁は性癖がハード過ぎる……。

 危険物が1つ釜の中に消えてくれたことを喜びつつ、俺は太刀1本分のミスリルを投入して、なぜかフルカラーで描かれたラフを眺めながら初めての武器制作に入った。



 ・



 完成した。深紫の蒸気が立ち上り、それが晴れると釜に引っかかるように長く細い太刀が姿を現していた。

 おおむねデザイン通りだった。


「見ろっ、ボクたちのデザイン通りだ! カッコイイ!!」

「いいものですね……。グラちんが持つと、よく似合う」


「そ、そうか? フフフッ、ならば少し試し斬りといこう! ユリウス、そこのパンをこっちに投げろ!」

「見た目はともかく、切れ味は気になるわね。だってユリウスが作った物だもの……」


 シェラハもそう言うので、俺は室内の奥へと下がって太刀を構えたグラフへと、硬い長パンを軽く投げた。

 ところがそれがとんでもない切れ味だった。パンは刃を受けたというのに軌道すら変えずに、ただ真っ二つになって床へと落ちていた。


「ぇ……な、なんだこの剣っ!?」

「凄いわ……。見た目は痛々しいのに、これなら鉄でも斬れちゃうんじゃないかしら……」

「なぁ、これ、危険過ぎないか……?」


「そ、そういうこと言うなよっ!? 持ってるのが、怖くなってくるだろ……っ」


 既にこの時点で立派な魔剣だった。ミスリルは優れた金属である反面、それゆえに加工が難しいのが難点だ。そこが錬金術を用いた成形と上手く噛み合ったのだろうか。


「ユリウスが、悪い……」

「俺のせいかよっ!?」


「でも気に入った……。これ、戦場で振ったら、仲間ごと真っ二つ、だね……」

「持ってるボクの前でこれ以上怖いこと言わないでくれ……っっ」


 速やかに持ち主から剣を奪わなければならない。そう人に思わせずにはいられない凶悪な一振りだ。


「もうこのまま納品すればいいか……。だって、近くに置いておくだけで怖いし……」

「ダメ……闇のオーラは、大事……」


「そうかぁ?」

「そうね……。危険な剣であることをアピールするためにも、オーラは必要かもしれないわね……」


 本末転倒な気がしないでもないが、まあ一理ある。

 俺たちは危険な刃を注視したまま、次の錬金釜に基礎素材を投入し、続いてそこへと順番にキー素材を混ぜ込んでいった。


 ガラスのようにキラキラと輝く【星の砂】と、触媒である【妖精の鱗粉】を加えると、釜の中がまばゆい七色に輝き出す。

 そこにアレンジレシピの【闇の石】を混ぜ込んで、どうやら溶けにくいそれに魔力をかけて強引に混ぜ合わせてやると、輝きはドス黒い闇のオーラに変わった。


「ヤバ、禍々しい……」

「あたしたち、もしかして後世の人たちに迷惑がかかるようなこと、してないわよね……?」

「さあな。さてそろそろその魔剣を釜に――うわっ、ちょっと待てグラフッ、今すぐこいとは言ってないだろっ?!」


 世界で1番危険な魔剣を持ったエルフが、ゆらりとこちらに迫ってきたので俺たちは緊急避難した。

 ちょっと手が滑るだけで相手を両断できる刀だ。あのメープルでさえ尻尾巻いて逃げ出していた。


「ふぅ……溶けると一安心だな。ボクはもう作らせたことを後悔しているよ……」


 最凶の太刀が釜へと消えた。

 魔法を使える俺が言うのも妙な話だが、長い太刀が底なしの釜に消えてゆくのはまるで魔法のようだった。


「このまま、捨てる……?」

「それも考えたんだが、シャンバラの未来には代えられないだろ……」

「そうね……でももし出来たら、次は鞘もお願いできるかしら……」


「そうするべきだな。暖炉の薪でいいか、入れてくれ」

「おっけー……。刃が鞘になって、薪が剣になったりして……」

「これ以上、怖いことを言わないでくれ……」


 そこから先はイメージとの戦いだった。

 男の子が喜びそうな物を作るには、制作者もまた幼心に返る必要がある。


 俺は集中に集中を重ねて、かつてないほどにじっくりと混ぜ合わせると、ついになんちゃって妖刀ならぬ、本物の妖刀を完成させたのだった。



 ・



「ヤバい……。ヤバいのはわかってるけど、ぶっちゃけ、これっ、カッコイイ……!」

「ああっ、不思議と恐怖心が薄まったぞ! カッコイイッ、カッコイイぞ、これこそが最強にカッコイイ太刀だ!」


 動かすと残像、常に黒いオーラが立ちこめていて、振るとブォンと音が響き妖しく輝く。

 完璧だ。元のままでも十分過ぎるほどに魔剣なのに、極めて痛々しい最強の剣が生まれた。今回は鞘が付いているところも安心感があっていい。


 あまりによく斬れ過ぎるところが難点だが、これならばあの女官もオド王も喜んでくれるだろう。


「あ……しまった! 手が滑ってつい……」


 だがグラフが操る闇の妖刀がバターのようにレンガ製の壁を斬るのを目撃すると、俺たちは言葉を失い、長い思考停止に陥った。


 これは鉄の門すらぶった斬れる立派な攻城兵器なのではないか? 全てを斬れるということは、全てを斬ってしまうということだ。


「うわ、ヤバ……過去最凶だ……」

「やっぱりあたしたち、作っちゃいけない物を作ってしまったんじゃないかしら……」


 だがこんな魔剣、単騎で戦場に突っ込むような一騎当千の狂戦士でもない限り、誰にも使いこなせないだろう……。

 むしろどちらかというと、戦場よりもサーカス向きと言ってもいい。


 俺たちはこの魔剣の実用性について、それ以上考えることを止めた……。


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[一言] 石切り場で大活躍しそうな剣だな(目反らし
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