・フェーズ1-2ファルク王国 - 後日談 -
翌日、王宮にて――
「ガハハハハ、先日は世話になったな、ユリアス!」
「ユリウスです」
のっけから人の名前を間違える大雑把さがさすがだ。もういちいちツッコミを入れてもこっちが疲れてしまうので、俺は落ち着きある大人の対応をすることに決めていた。
「おめぇの作ってくれたあの酒、ワシの飲み仲間でも大好評よっ!! ワシは気に入ったぞ、お前の酒が!! どうだっ、俺の国で酒蔵を経営してみねぇかっっ!?」
「シャンバラを首になったら考えますね」
ちなみに今日は誰も王宮に付いてきてはくれなかった。
疲れるからな、このファルク王の相手は……。
「そうかそうか! うっっ……?!」
「へ、陛下っ、吐くときはあちらに! あちらにお願いします、陛下!」
国王は口からマジックブラストを吐いた!
謁見の間にぽっかりと生まれていた風穴を通して、マジックブラストは空の彼方へと消えていった!
「ふぅぅぅ……これだからモンスターカクテルは止められないぜ、ガハハ!!」
「恨みますぞ、錬金術師様……」
宰相から暗い目を向けられた。
今後、城の中でこれを吐かれると思うだけで、財政的にもここの住民的にも生きた心地がしないだろう。
「して、ユリアスよっっ!!」
「いやユリウスって言ってるでしょ、王様……」
「これはツワイクに味方するなど無理筋だっ、ワシはお前に付くぞ!! シャンバラではなく、希代の酒造家ユリアスに味方すると決めたっ!!」
「だから俺はユリウスだ!! って言ってるでしょっ!?」
「ワハハハハ、こまけぇこたぁいいのよ!!」
「なんでですか……。たった発音1つ覚え直すだけのことじゃないですか……」
いや落ち着け俺、これはメープルにからかわれるときの流れに似ている。
この手の連中にいちいちツッコミを入れていたら、会話は何一つ終わらない……。
「すぐにでっけー酒蔵作らせるからよっ、国出てくならしこたま酒作ってからにしてくれ!! そこでワシは――ワシは酒で泳ぐ!!」
「いやそれ死にますって!!」
口から魔力のビームが出る酒があれば、戦況を一変させることも不可能ではない。
モンスターカクテルを片手に横陣を組み、敵をまとめて薙ぎ払うことだって夢ではない。ついでに魔力だって回復する。
だがその絵づらはとてつもなくシュールで、人間としてもう全てがダメだ。国最強の兵たちがただの酔っ払いの集団になってしまうのだから……。
口からビームが出る酔っ払いたちが仮想敵になるなんて、他国からすれば夢どころか悪夢だろう……。
「せめて普通の蒸留酒じゃダメですかね……?」
「ダメに決まってるだろがっ!! 気の合う仲間たちと、口から一緒にビームを出せるから楽しいんじゃねーかよぉっ?!!」
「最悪ですね……」
「ええ、最悪ですよ……」
不敬もへったくれもなく、宰相さんと俺は互いにこの癖しかない王に困惑した。
「でもあの酒だと、大げさかもしれませんがいずれこの都が瓦礫と化すような……」
「む……うむ!! ならばこういうのはどうだっ!!? ビームは空に向けて吐かなければ厳罰に処す!! ガハハッ、これを施行すれば解決よ!!」
んなアホな法律があってたまるか……。
ファルク王はあれだけ宰相に抗議されたというのにまたグビッと一杯やって、頭上の風穴に向けて気分壮快なビームを放った。
「法律にまで語り継がれる、末代に渡る恥となりましょうな……。軍事的価値は認めますが……有事の際には、酒蔵が空になっていることでしょうな……」
こうして俺たちはファルク王国をシャンバラ包囲網から切り崩し、ツワイクへの交易路到達にリーチをかけた。
ファルク王国の空にはその後、連日ビームが行き交って、町中の天井を吹き飛ばしたという。
決して人に向けて口からビームを放つべからず。
空に向けてビームを放たなかったモンスターカクテル飲酒者は、禁酒30年の刑に処す。
アホみたいな法律のおかげで、被害は最低限で抑えられ、遙か遠い未来ではファルク王国を救う切り札にもなったとか、ならないとか。
「またこいよっ、ユリアス!!」
「ユリウスだって言ってるでしょう……」
余談となるが、ファルク王は俺の名前を一度も覚えてくれなかった……。
・
ファルク王国滞在、後日談――
これはユリウスが知らない話……。
かわいいエルフちゃんたちが3人も集まって、プールサイドでキャッキャウフフと遊び回っていたら、それにナンパ男が吸い寄せられてこないはずがなかった。
「うっ……ビームは止めて、ビームは……うっ、ううっ……」
ユリウスは熟睡。お酒を造らされまくって、飲んでもないのに泥酔状態で帰ってきた。
いたずらしたいけど、今は寝かせてあげた。
「そこのエルフちゃんたち、俺たちと遊ばないか? 俺、そこのカジノの息子なんだ」
「うひょぉぉーっ、お姉さんおっぱい大きいなぁっ、へ、へへへ……触ってもいいかなぁ……?」
私たちはユリウスに目を向けたけど、いびきかいて寝てる。
こういうのって、男の姿を見せれば帰ってくのに、タイミングが悪い……。
だから私はずいと前に出て、お腹を突き出した。
だってほら、姉さんの3番目の信奉者のグライオフェンちんが本気で怒ってしまうと、楽しいバカンス気分が台無しだから……。
ある意味で言えば、私たち家族はユリウスではなくて、シェラハ・ゾーナカーナ・テネスという美姫を中心にしたハーレムだったとも、言えちゃうかもしれない……。
「私たち、赤ちゃん、いるけど、いい……?」
「へっ……!?」
「姉さんも、グラちんも、お腹に赤ちゃん、いるけど、いい……?」
「なっ、んなっ……」
「マジだっ……マジでこの姉ちゃんたち腹が……っ」
ナンパ男たちは後ずさった。この時点で既に決着は付いている。
だけど、言いたいから言った。
「私たち、あの男に、孕まされたの……」
「げぇぇーっっ?!!」
ナンパ男たちは、ユリウスにドン引きしてた……。
エルフ種3人に同時に手を出して、小柄な私にまで手を出す鬼畜男を、まるでゴミを見るような目で見ながらも、そこに激しい羨望を混じらせていた。
「お、俺ら、急に寒くなってきたから帰るわ……」
「旦那がロリコンって、大変だなぁ、奥さんたち……」
「けどいいなぁ、何食ったらこんなにエルフちゃんにモテまくるんだろな……」
ユリウスの所業はナンパ男たちすら戦慄させた。私はそれが無性におかしくなって、つい抑えきれずに声を上げてわらってしまった。
ユリウスは知らない。ファルクの高級リゾートホテルで、節操無しのロリコン野郎扱いを受けてたなんて、思いもしない……。
私は水着の上から、小さく膨らんだお腹を撫でて、勝利の愉悦を浮かべるのだった……。
「のんきに寝ているな……」
「でも本当にあのお酒、大量生産してよかったかしら……」
「面白いから、私はいいと思う……。ここは、酔っぱらいの口から、ビームが出る国」
笑える。




