・フェーズ1-2ファルク王国 - プールサイドにて -
この国は全てにおいて豊かだ。経済力ではシャンバラが上であろうとも、この国には砂漠エルフが羨む恵まれた水と大地がある。
そう、特に水だ。当初の予定では城下のそれなりの宿に泊まる予定だったのだが、あの後にファルク王の計らいでリゾートホテルとやらに俺たちは案内された。
そこで俺たちは見た。贅沢この上ない水の使い方。人工的に造り出された小さなオアシス。野外プールというやつを……。
高級リゾートホテルのプールサイドにて、俺たちは水着と呼ばれるピッタリとした肌着をまとって、小さなラウンドテーブルを囲んでいた。
「しかしあの王、ああ見えてとんだ食わせ物だったな……」
グラフは淡い青空のようなその髪にピッタリの、水色のビキニとやらをまとっている。
すらりと細い彼女には、それがまるであつらえたようによく似合っていて、膨らんだお腹をことさらに目立たせていた。
「だな……。王をうならせる酒なんて、世の中に存在するかも疑わしいぞ。だがあれは断り文句というより、あの王の素だろうな……」
「そうね……。探せばあることはあると思うけれど、商会の力で希少なお酒を手配したところで、もう飲んだことがあると言われかねないわね……」
視線を白い方から褐色の姉の方に移した。
否応なくシェラハの豊かな肢体をついついたっぷりと凝視してしまうと、彼女は白い水着姿を恥ずかしそうによじらせた。
俺が見とれて、シェラハが恥じらいながらそれに気をよくする。メープルに彫像にされてしまうくらいに、俺たちの関係性はそこへと要約されているのだろうか。
その点ばかりは素直には認めがたいが、俺からすればシェラハは凝視せずにはいられない最高の女性だった。
「ユリウスは……何か、思いついた?」
「いや、何も」
「フ……。ユリウスは、ずっと、姉さんたちに見とれてただけでしょ……」
「ぅ……っ。いやちゃんと考えてはいたぞっ! それに――それに自分の嫁さんに見とれて、それの何が悪い……」
「おぉ……ド正論。そゆうの、悪い気しない……」
メープルはワンピースと呼ばれる桃色の水着をまとっていた。
そのお腹もぽっこりと膨らんでいて、その、非常にその――犯罪の匂いを香らせていた……。
「ふんっ……。このむっつりスケベ……」
「いや、お前らにそれを言われるのは釈然としないわ」
「あ、それも正論……?」
「そんなわけないでしょ! もう……っ」
その後も俺たちは冷たいドリンクを片手に、答えのない難問に声をうならせた。
それでも答えは出ない。最初から答えのない哲学の問答にすら感じられた。
「ああもうっ、このままでは知恵熱を起こしそうだ! ちょっとそこのプールで頭を冷やしてくる!」
「あ、それ私も付き合う……。わーい、きゃっほい……」
まるで川遊びに夢中になる子供たちみたいに、メープルとグラフは青く澄んだプールへと飛び込んでいった。
その笑顔は天真爛漫そのもので、『お前ら本当は遊びたかっただけだろ……』とついツッコミたくなるほどに楽しそうな姿だった。
「2人は先に泳ぎたかったのね。……ユリウスも行く?」
首を横に振ってその誘いを断った。シェラハは先に飛び込んだ2人がよっぽど気になるのか、ソワソワとしきりに視線を送っている。
「ごめんなさい、アタシも行ってくるわ!」
やがてついに我慢が出来なくなったようで、胸を揺らしながらイスから飛び跳ねるように立ち上がると、彼女もまた子供みたいな声を上げて白亜のプールに飛び込んで行った。
オアシスでの沐浴が大好きなシェラハが、清らかな水の誘惑に勝てるはずがなかった。
「……ん?」
しかし妙だな。てっきりエルフの水浴びに人々の目が集まると思っていたのに、この高級リゾートに集まった富豪たちはどうしてか俺ばかりを見ていた。
いったい何が悪いのかわからない。場違いな世界に招かれたことは理解しているが、それでも俺なりに上品に振る舞っているつもりだった。
なのになぜ、外の世界では珍しい白い肌のエルフ以上に、俺ばかりが注目を浴びているのだろう……。
視線を視線で返してやると、富豪たちは注目をやっと止めた。
不可解だが堂々としていればいいだろう。
俺は水の中で無邪気に舞い踊るエルフの美姫たちをぼんやりと眺めながら、ファルク王が出してきた難問をどうしたものかとゆったりと考え続けた。
「ユリウスッ、早くキミもこいよっ! キミがこないとボクたちが遊んでいるみたいじゃないか!」
「無理。人前で水着の女の子に囲まれて、キャッキャウフフする勇気なんて、ユリウスにはない……」
やたらに俺ばかり注目された意味が、その言葉で今わかったような気がする。
端から見れば俺は、美しいエルフの美姫をはべらせたVIPの中のVIPに見えたのかもしれない。しかもどのエルフもお腹を膨らませているとあっては、さぞ関係を詮索したくてたまらなかったことだろう。
「俺はもう少しここで考えておくよ。お前らこそはしゃぎ過ぎて滑ったりするなよ」
「ふふふっ、ありがとう、気をつけるわ」
「本当に気を付けろよ? 転んでからじゃ遅いぞ?」
「なんか、そういうの、お父さんみたい……」
はしゃぎ回る彼女をたちを眺めていたら、なんだか無性に心配になってきた。万一足を滑らせたりして、お腹をどこかにぶつけたりしたら大変だ。
少し前の俺はこんなやつではなかったはずなのに、こういうのは男の本能なのだろうか。
俺はその後もエルフの美姫たちに二重の意味で目を奪われながらも、ああでもないこうでもないと、長々と考えあぐねて過ごした。
次話も2500字くらいのボリュームになります。
超天才錬金術師コミカライズ版がスタートしました。
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