・美人エルフに囲まれながらポーション作ろう 2/2
「よし、後は仕上げるだけだ。錬金術師どもの見よう見まねだが、どうにか上手くやってみせる」
「がんばって、ユリウス!」
「心配いらない……。あの工場で、ユリウスが1番、上手だった……。テクニシャンだね、おにーさん……」
「大事なときに人を攪乱すんな……」
「てへ……」
ゆっくりと釜を攪拌した。
混ぜれば混ぜるほどに、甘酸っぱい香りが広がって、まるでお菓子でも作っているかのような気分になった。
「ぅっ……」
シェラハゾが釜に夢中で目を向けている隙を突いて、流し目を彼女に向けると、今朝の沐浴が脳裏に蘇った。
「フフフ……お盛んですな……」
「お前は黙ってろ……っ」
頭を振り払って、脳裏に浮かび上がってくる情景を打ち消した。
これは試金石だ。この第一歩は俺たちの未来を決める。
幸先の良いスタートを切るためにも、集中が必要だ。いや、しかし……。
「これ、なんか予定よりかなり濃いな……。なんか、手応えが重くなってきたぞ……?」
「今から水足す……?」
甘い匂いがどんどんと濃くなっている。
だというのに水かさは減らず、輝くエメラルド色の水溶液は粘度を増していった。
「ごめん、マジでミスったかも……。これ、濃いわ、なんかネチャネチャしてきた……」
「やっぱり水足す……?」
「料理じゃないんだからそうもいかないっての!」
「だ、大丈夫なのよね……?」
こういうのは工場では見たことがない。
何か手順を間違えたのだろうか。濃い。恐ろしく濃い。
「わからん! だが安心しろ、俺はスーパーエリートだっ!」
「今それ、関係ない……」
俺がツワイクで担当していたのは、魔物素材を魔力を流し込んだ水に溶かし、エッセンスと呼ばれたベース素材を作るところまでだ。
ここから先はド素人も同然で、釜の中の液体は今や、練り飴同然の手応えに変わっている。
「だけどこれ、とっても美味しそうだわ……!」
「飴ちゃんみたい……ハァハァ」
そこまできてやっと、仕上がりの手応えが来た。
本来はここでポーション瓶を投入することで、容器に詰める作業を省略出来る。
だがこのままの粘度の薬が完成するとなると、逆さにしたって中身が出ないだろう。
「下がれ、完成するぞ!」
「キャッ?!」
「おわぁー……」
釜が輝き、光と破裂音と共に蒸気が空高く上がると、ついにシャンバラ産ポーション第1号が完成していた。
「飴ちゃん……?」
「飴だな」
「飴だわ……」
釜の底に、艶やかに輝く真円のあめ玉がギッシリと積み重なっていた。
いったい俺はどこで何を間違えたのだろう。
これではポーション瓶に詰めることもできない。
「わーい、飴ちゃんだーっ!」
「凄いわユリウス! 飴がこんなにいっぱいっ、夢みたいだわっ!」
ただ姉妹の方は、落胆する俺とは正反対に興奮しまくっていた。
「お前ら、本来の目的忘れてるだろ? ん、なんだこれ、この飴、ぷにぷにしてるぞ……?」
試しに1つ拾い上げてみると、弾力がある。
その不思議な物体に目を近付けて観察しながら、どうしたものかと弄んでいると、そこにメープルの顔が近寄ってきた。
「はむっ……」
「あっ、こらっ、安全かどうか確かめてもいないのに食うなっ、今すぐ吐け!」
「ぉぉぉぉ……これ、美味しい……。口の中で、つるつる滑って、グニグニして……甘酸っぱぁい……」
「ゴクリ……そ、そんなに美味しいの……?」
シェラハゾが誘惑に震える手で、釜から金柑の実ほどの球体を拾い上げた。
綺麗なエメラルド色に澄んだそれは、極めて甘い匂いを放っていて、押しつぶすと弾力で彼女の指を押し返す。
「うんっ、姉さんも食べてみなよっ!」
「止めなさい。食べて平気かまだよくわかんないんだから、止め……あ、ああああ……?!」
「ん、んん……っ、お、おぉ、美味しいわ! 甘いっ、甘いわっ、こんな甘いお菓子、あたし初めてっ、うふふふっ♪」
「ユリウス、天才……。今日から、あがめるしかない……。ウーラー、ウララー……」
長耳の褐色娘たちは感動で瞳を輝かせて、モゴモゴと口を動かしていた。
「そんなに美味かったのか?」
「当然よっ、ユリウスも食べてみなさいよっ!」
「食べないと、一生の損……あーんっ……♪ して?」
「バカ抜かせ……。んなことしたら、お前らの経過を見るやつがいなくなるだろ……。試すにしても後にするよ」
「じゃあ、もう1つだけいい……?」
「そ、そうね……何かあったらユリウスが看てくれるなら、いいわよね……ゴクリ……」
「ダメに決まってるだろ……。それ以上は止めとけ……」
こいつら完全に正気を失っている。
それほどまでに人を狂わせる魅惑の甘さなのだろうか。
錬金釜の中にギッシリと詰まった謎のやわらい飴ちゃんは、朝日に照らされてテカテカと透けていた。
色はともかく、確かにちょっと美味そうだった……。
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