・美人エルフに囲まれながらポーション作ろう 1/2
都市長と朝食を共にして工房に戻ってくると、既に錬金釜の手配が済んでいた。
杖はメープルの物を貸してもらうことになり、俺たちは早速作業へと着手した。
「どうしたの?」
「べ、別に、なんでもないぞ……」
工房内部では搬入作業などもあるそうなので、今回はオアシスを目の前にした軒先が作業場だ。
ちなみにシェラハゾとはとてもじゃないが、正気の状態で目を合わせられなかった。
ポーションの材料の方は以下の通りだ。
・ゴブリン系の爪、牙、魔石(昨日入手した魔物素材)
・くみたてのオアシスの水
・朝市で姉妹が手配してくれたベースハーブ、アロエ、ナツメヤシの実
「あのね、姉さん……ユリウスね……」
「そのことは言わないでくれって言っただろ……っ!?」
「えー、平気なのに……」
「お前は平気基準がズレている……っ!」
「二人してなんの話をしてるのよ……」
メープルの口の軽さに俺は戦慄した。
ただでさえ意識しまくりでこっちは挙動不審になりかけてるのに『無防備な水浴びの全てを見てました』だなんて言えるか!
「なんでもない。……あのことは絶対に言うなよ、メープルッ!?」
「ん、今はわかったけど……。将来的には、保証しかねる……」
クラッと頭が揺れて、俺は錬金釜に突き刺した杖にしがみついた。
「怪しいわ。なんであたしから目をそらすのよ?」
「直視できないからだ。それよりも仕事をするぞ、そろそろ魔物素材を投入してくれ」
工場ではオーブだったものが杖に、水槽が大釜になっただけのことだ。
魔力をかけて沸騰させたオアシスの水に、姉妹の手で1つずつ素材が投入されてゆく。
「姉さん姉さん、これ、面白い……っ!」
「落ち着きなさい、メープル。……ユリウスはこっち見なさいよ」
「それは無理だ……」
溶けないはずの爪や牙が細かな泡を立てながら消えてゆく。
二人はその不思議な光景に目を丸めてのぞき込んでいた。なぜか人の左右を取り囲みながら。
「ねぇねぇ、次は……次はどうする……?」
「わからない。工場の設備とは勝手が違うからな。だが、想像以上にこれは――やりやすい」
「手応えありってことかしら?」
「そんなところだな」
工場では量が量だったので、この工程に1時間弱がかかった。
だが今回は大釜1杯分程度で、直接杖を介して魔力をかけている。これが拍子抜けするほど楽だった。
ところがシェラハゾが釜のふちに手を預けて、俺の顔をのぞき込んできたので、こっちはそっぽを向くしかなくなった。
「あたし貴方に何かしたっ!? こっち見なさいよっ!」
「ユリウス……顔、赤いね……」
「赤くないし、なんでもないっ! くっ、それよりもう次に行けそうだ、手伝ってくれっ!」
このまま10分ほど待ってくれと言うつもりだったのに、既にポーション工場で言うところのエッセンスが完成していた。
ここから先は工場のように分業にする必要がない。ここから先は、俺にとって未知の領域だった。
「ごまかした……」
「ベースハーブ、アロエ、ナツメヤシの順に入れてくれ。ナツメヤシは口当たりを改善するための添加物だ」
「おーけー、わくわくしてきた……」
「あっちの工場では、この薬草とリンゴを入れてたわよね?」
「そこはシャンバラ仕様だ。添加物を加えないと口当たりが悪い」
キラキラと輝く無色透明の水溶液に、きつい匂いのするベースハーブが投入されると、まるで絵の具を溶かしたかのように液体を若草色に変えた。
続いてそこにアロエの束が投入されると、宝石のようなエメラルド色に変わり、最後にナツメヤシを添加するとキツい匂いが消えて、甘酸っぱい香りが広がった。
「おぉぉ……これ、なんか、美味しそ……。ジュルリ……」
「なんて甘い匂いなのかしら……。それに間近で見ると、錬金術って不思議よね……」
姉妹はまた俺の左右という謎の定位置に戻って、甘酸っぱい匂いに鼻をスンスンと鳴らした。
少し妙だ。あの工場ではこういった、強烈な香りという現象はなかった。
釜と杖で作ると、何かが違うのだろうか。とてもいい匂いだった。
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