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・愚神の英知 - 魔法のレシピ -

 その後も俺とメープルはレシピを読みあさっていった。

 筋力を強化する薬。回復力を高める薬。氷属性の爆弾。いくつかのレシピが候補に上がったが、それらは選択肢から外れることになった。


 理想は戦局を塗り替える奇跡のマジックアイテムだ。

 それゆえに決め手に欠けていたり、そもそも特殊な材料が必要なものは候補から除外した。


「お前、珍しく真面目だな」

「何言ってるの……? ふざけてる場合じゃ、ないでしょ……」


「普段やりたい放題のお前にそう言われると、なんかムカついてくるわ……」

「あ、見て……。これ、足の臭いを消す、香水だって……」


「それな。こっちの奥様方には需要がありそうだな」


 シャンバラはカラカラの世界だ。汗も靴下もすぐ乾く。

 早くあっちで元の生活に再開するためにも、今はがんばらなければならない。


「はぁ……なんか、脱ぎたくなってきた……」

「待てこらっ、脱ぐな、あっ、こらっ!!」


 上を脱ごうとするメープルを、俺は揉みくちゃになってどうにか止めた。

 厨房でメープルがすっぽんぽんになってる現場を、もしグラフが目撃したらひんしゅくどころじゃ済まない。


「あ、姉さんお帰り……」

「はぁ……またか。城で脱ぐなと約束しただろ……」


 と思ったのだが、既にグラフの前で現行犯を働いていたようだ。

 シャンバラで過ごす俺たちにとって、こちらの気候はどうにも慣れなかった。


「それよりユリウス、これ見てちょうだい!」

「こっちもだ!」


 2人は革張りの大きな本を両手に抱えていた。

 それを厨房のテーブルにドスンと乗せると、どちらも年寄り臭く腰を叩く。


 お互いに同じ仕草をしていることに気付くと、フフフとやけに仲良く笑い合っていた。


「仕草が移るのは、仲良しの証……。大変だよ、ユリウス……これ、寝取られだ……」

「バカ言ってねーでほら、姉貴の運んできた本に目を通せ」


 新しい本を3人に配って、俺はその中でも特に大きく仰々しい本を手に取った。

 ずいぶんと手が込んでいる。皮の上に白いシルクが張ってあって、ところどころ破けて中の皮が露出している。


「えっ、その本はなんだ……?」

「何って、お前が運んできたんだろ。変な本だな」


「そんなわけあるか! そんな目立つ本があったら誰だって覚えてる!」

「あたしも見覚えないわ……。変ね、どこからまぎれ込んだのかしら……」


 しかし次に驚くべきはその中身だった。

 こんだけでかいのに、めくってもめくってもどのページも白紙だった。


「手の込んだ冗談だな。これを作ったやつは、よっぽどの暇人か芸術家気取りに違いないぞ」

「おお、なるほど。参考になるかも……」


「何を思い付いたか知らんが、お前は余計なことすんな……」

「あてっ……へへ♪」


 念のため目次を確認してみると、デザインの入った手の込んだ目次がそこにあった。

 ただし問題はそこから先だ。


 空っぽの目次ににじみ出すように文字が浮かび上がり、俺たちに目を擦らせた。

 不可解だが、それは疲れ目や手品の類ではなかった。


『13p 愚者の英知』


 指定のページを開いてみると、今度はビッシリと黒いインクがそこに敷き詰められていた。


「こわ……」

「な、なんなんだこの本はっ、まさか呪いの本じゃないだろなっっ!?」

「その理屈だと、運んできたお前が呪われてることになるだろ」


 愚者の英知とはまた気取った名前だ。

 ギッチリと詰められた文字の羅列からは、執筆者の変質性を感じさせられる。


「うっ……止めろ、全く冗談になっていないぞっ!」


 白紙のページがこれだけ余っているのに、なぜ敷き詰める必要があるのだと思いながらも読み進めてゆくと、それは錬金術師か何かが書いた、日記帳のようだった。


「グラフ、月光草の根はあるか?」

「え? それなら、女王陛下が大切にしている花の1つだけど……」


「貰ってきてくれ」

「まさかそれ、レシピ帳なのか……?」

「よく読めるね、ユリウス……。くせ字、酷すぎて、脳が理解を拒むレベルなのに……」


「まあそんなところだ。材料があるなら作ってみるとしよう」


 日記の内容を要約すると、この『愚者の英知』を作るためにこんなに苦労しましたよと記されている。

 そこから材料を読み取ることは出来た。


「だけどユリウス、この愚者の英知ってどんな効果を持っているの?」

「知らん」

「わけのわからない物のために、キミは女王陛下の花園を荒らせと言うのかっ!?」


 運命を信じるわけではないが、本の著者がこれだけの情熱をかけて何を作り出そうとしたのか気になった。


 それにこの本は存在が恣意的だ。

 俺たちがレシピに飢えているところに、まるでどこからか運び込まれてきたかのように都合よく現れた。


 偶然なら偶然でよし。誰かの酔狂なら酔狂でよし。

 筆者のこの変質的な情熱に付き合ってみる価値はある。


「頼みにくいならあたしが行くわ」

「それはダメだ、それならボクも行くっ!」

「悪いが急いで頼む。こっちは他の本に目を通しておくよ」


 そう誘導すると、シェラハとグラフはまた厨房を飛び出していった。

 その後ろ姿をメープルが見送って、おかしそうに微笑んでいた。


「何が面白いんだ……?」

「えっと……ドロドロの、人間関係……?」


「ああ、自分が2人もいると大変だな。俺なら全てを捨てて逃げ出したくなる」

「そう? 私はユリウスが2人に増えたら、もっと幸せだよ……?」


「そうか」

「うん……だから、別に、増えてもいいよ……?」


 俺はその一言に少しだけ救われた。

 きっとグラフは女王がシェラハにデレデレするのが気に入らないのだろう。


 シェラハを女王に取られたくないという心境もありそうだ。

 確かにドロドロの心境が見えなくもなかった。


「増えたら、エロ本みたいなこと、できるし……」

「何を想像してるか知らないが、んなことしねーよっ、しねーからなっ!?」


「ごめん……今私、挟撃されてみたい、年頃だから……」

「だから、しねーって言ってるだろ……」


 ツッコミに疲れた俺はメープルのおでこをコツンと叩いて、月光草が届くまでのレシピ探しに戻っていった。


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