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・異界侵攻隊長アダマスに起きた悲劇

・異界侵攻隊アダマス


 あまりに世界と世界が遠く離れていると、()の力だけでは次元を越えることができない。

 そこで先人たちは最も原始的な解決方を選んだ。


 箱の力を頼ることが出来ないならば、世界と世界を繋ぐ天然の門、闇の迷宮を踏破すればよいのだと。

 我が名はアダマス。この闇の迷宮の先にあるとされる、白いエルフの国をこれより蹂躙する者。


 エルフはいいぞ、実にいい……。

 この長寿を誇る家畜は飼い方さえ間違えなけれは補充の必要がなく、加齢により劣化もしなければ、魔力の養殖場にすらなる。


 この作戦が成功すれば、俺は分け前としてエルフを数百匹分け与えられて、一生魔力にも金にも不自由しない生活を楽しめる。

 闇の迷宮を進み続けてこれで一ヶ月。もうじき向こうにたどり着けるはずだ。


 エルフ種たちが持つ豊かな魔力を、これから浴びるほど食らうことができると思うと、疲れようとも足取りは確かになっていった。


「ククク……これでよし。オークとゴブリンの軍勢にやつらは恐怖に泣き叫ぶに違いない」


 我々の兵士たちは無尽蔵だ。

 迷宮にて養殖したこいつらを、標的の世界に流し込めば大抵の場合はそれで片が付く。


 俺があちら側の世界にたどり着き、この中継器の終端を配置してやりさえすれば、後はあの箱からウジャウジャと現れて敵の国土を飲み潰す。


「待ってろよ、エルフども。今すぐお前たちの魔力を俺が食らい尽くしてやるぞ、ヒハハハハッ!!」


 俺は迷宮の中に中継器を配置しながら、魔力あふれる世界を夢見て進んだ。


「ん……妙な音がするな? もしや向こう側にたどり着いたのかっ!? やった、やったぞっ、これで俺は億万長者だ! ウオオオオオーーッッ……お?」


 走り出すと足下に水たまりが生まれていた。

 その水たまりはゆっくりと水かさを増してゆき、それと同時に轟々とした物音も、いや水音がこちらに近付いてくる……。


「ひっ……?! こ、これはっ、これは……まずい、まずいのではないか、これはっ?! な、なぜ、なぜ水が、ヤ、ヤベェ、ウ、ウオオォォォォーッッ?!!」


 翼を羽ばたかせて俺は逃げた。

 だが向こう側からの増水は止まらない。逃げても逃げても荒れ狂う濁流が俺を追い、じわじわと迫ってきていた。


「チクショウッ、チクショォォォーッッ、後少しっ、後少しで金持ちになれたのに!! あっあっあっ、アアアアアアアーッッ?!!!」


 俺は冷たい水に飲み込まれ、ちょっとやそっとでは死ねない半不死身の肉体を与えられたことを呪うはめになった。


 この調子では受信機すらまとめて押し流され、俺たちの世界に至った濁流は闇の迷宮の入り口を水没させるだろう……。


 死んでたまるか。魔力であふれる世界がすぐそこにあるというのに、こんなところで死んでたまるか!

 肺が冷水に満たされ呼吸困難になろうとも、俺は濁流に逆らって果てしなく遠い向こう側の世界へとはい上っていった。



 ・



一方リーンハイム側では――


 川の水が取水限界に達すると、一度転移門を閉じることになった。

 魔力供給を行っていたエルフたちは崩れ落ち、結局のところマリウスと助手も全てを見届ける前に寝落ちしていた。


「や、やれたかしら……?」

「ふぅ……もう、へとへと……この後、戦闘とかお断りだから……」

「うっ……。なんで、君は平然としてるんだ……」


 お人好しにも魔力供給に加わる連中がいたので、師匠と俺もそれを手伝ってやることになった。

 本来ならば戦力である俺たちは温存するべきなのだが、水をありったけ流し込めるにこしたことはない。


「コイツは昔からこうだ……。はぁっ、なんかくたびれちまったわ」


 技師たちが水門を閉じてゆくのを後目に、ドームの入り口を開いてみると中は水滴1つなかった。

 水が内部を濡らす前に、全てを敵の座標に送り込んだということだろう。


 それを見る限りでは、戦果の確認こそできないが大勝利だった。


「味気ないのぅ……。さぞ向こう側ではえげつないことになっておるはずじゃが、いまいち実感に乏しいの」

「そう言って、なんでひっつくんですか……」


 何か勝利の手がかりはないかとそのまま眺めていると、女王陛下に肩を抱かれたのですぐに逃げた。


「考えてもみよ……」

「その枕詞好きですね」


「そなたをわらわの物にすれば、平行世界の白百合だけでなく、金と銀の真珠まで付いてきおる! おまけにあの麗しい天才技師も我が物に……フ、フヒヒ……」


 真珠というのはうちの嫁たちのことだろうか。

 艶やかなあの髪は、確かに真珠のように美しい輝きを持っている。


「おいっ、何のほほんとしやがるっ! 何かくるぞっ、女王を連れて下がりやがれ、バカ弟子!!」


 師匠の警告に従って、俺は女王を連れて短距離転移した。

 師匠は怒るだろうが緊急事態だ。裏側からこちら側に戻っても、師匠は俺に文句を言わなかった。


 いや実際のところ、それどころではなかったとも言える。

 俺たちの目の前に、見たこともない不気味なやつがずぶ濡れの状態で現れて、まるで路地裏の酔っぱらいのようにひざまずいて口から大量の水を吐き出していた。


「何こいつ?」

「はっ、どう見たって水攻めを食らったアホだろ」

「なんじゃこの身体は、不気味なやつじゃの……」


 ソイツは青白い肌をしていて、全身のどこにも体毛がなく、まるで怪物みたいに脈打つ血管が肌に浮き上がっていた。おまけに背中にはコウモリの翼を持っている。

 これがオークとゴブリン軍団の大将と言われたら、そんな気もしてくるいかにもな風貌だった。


「アダマス!! コイツだっ、コイツがボクの世界のリーンハイムを襲ったやつだ!!」

「ゲハッ……な、なぜ、俺の名前が、知れて……ぅっ、呼吸、が……」


「気を付けろ、コイツは不死身なんだ! 不死身……のはずなんだけど、凄いな、水攻めって……。不死身の怪物にも効くのか……」

「捕縛せよ。厳重に魔封じの腕輪をかけて、指一本動かせなくなるまで縛り付けるのじゃ!」


 俺たちはアダマスという名の悪魔――便宜上の悪魔アダマスを捕縛した。

 生きて喋るやつを捕獲できたのは大きい。どんな手を使ってでも、女王はコイツから情報を引き出すだろう。


 かくしてリーンハイムを滅亡へと追いやりかけた危機は、呆気なくも川一本分の濁流で薙ぎ倒された。

 引き続き棺の監視と侵略への警戒は必要だったが、今回の嵐は落ち着いたようだった。


第二部がもう少しで完結します。

同時にプロットが尽きてしまうので、第三部のプロット構築に少しの休載期間を設ける予定です。


これからも更新を続けますので、どうか応援して下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不死身って死ねないから動けなくされたら無間地獄になるよね
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