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・ドンパチが始まるぜ 2/2

 世界の裏側を流れる濁流に乗って、無事リーンハイムへの転移を完了させた。

 コンクルで塗り固められた転移門を出ると、そこはもう砂漠の国でなかった。


「メープルッ!」

「姉さんっ! やっと会えたっ、姉さんっ姉さんっ!」


 メープルがシェラハの胸に飛び込んでゆくのを見守って、俺は辺りをグルリと見回した。

 シェラハの美しいブロンドと健康的な小麦色の肌をまた見れたのは嬉しかったが、どちらかというとこの場所の物々しさの方に目がいった。


「よくきた、ユリウス。シェラハゾさんが君のことをずっと待ってたぞ」

「グラフも思ったより元気そうでよかった。しかし、凄いな……」


 ドーム状の転移門を取り囲むように、白いコンクル製の陣地が構築されていた。

 それはまるでコロシアムのど真ん中に迷い込んでしまったかのようで、陣地の上では白い肌をしたエルフたちが守りを固めていた。


 500名はいるだろうか。あの数に高所から弓を撃たれては、半無尽蔵の軍勢だろうとそうそう抜けるものではない。


「どうだ、恐れいったか」

「マリウス様ぁ……人使い荒いですよぉ……」


 そこにマリウスとその助手がやってきた。

 転移門には水路が接続されており、今は急場しのぎの水門で水の流れがせき止められている。


「お前らその顔、寝てないだろ……」


 助手とマリウスの顔に大きなクマができていた。

 見れば防壁を背にして、労働者風のエルフたちが何人も熟睡している。


「もう寝たいです……寝かせて下さい、マリウス様……」

「ダメだ、技師ならばちゃんと結果を見とどけろ。どうだ、ユリウス! なんとか言えっ!」


「お前を引き抜いてよかったよ。こんな凄い仕事、お前じゃなかったらできないな」

「ふっ……わかればいい……」


「お、おいっ……」


 倒れそうなマリウスを抱き支えると、ヤツはすぐに俺の助けを突っぱねた。


「触るな、離れろ……っ」

「友達相手にその態度はないだろ。いやけどお前、もしかして太ったか?」


「失礼なやつだな! むしろ痩せたよっ!」


 どうも変だ。確かにマリウスは連日の激務に痩せたように見える。

 だがさっき抱き支えた感触は、とてもやわらかかった。


「えぇぇ……。なんで、気付かないですか……?」

「そういうやつなんだよ、コイツは……ッ」


 ところがそうしていると、ざわざわと陣地に設けられた大門の方が騒がしくなってきた。

 誰かきたのだろうかと堅牢な大門を眺めていると、なんと現れたやつは技師たちにデスマーチ強いた張本人だった。


「ずるいのじゃ、ユリウスッ! どうしてそちはわらわ好みの美人ばかり囲っておるのじゃっ!? 理不尽じゃろこんなのっ!!」

「うっ……」

「いや、顔を合わせるなり何を言い出すんですか……」


 マリウスがどこか嫌そうに後ずさった。

 マリウスは美形だからな。

 美しい者に目がないこの女王に、ちょっかいをかけられていても不思議ではない。


「女王陛下、その……ユリウス一行の到着により、先制攻撃の準備が整いました。ご指示を……うっ、すみませんが、それ以上こっちに近付かないで下さいっ!」

「えらい反応だな。何をされたんだ、お前?」


「うるさいっ、聞くな!」

「美人じゃなくてよかったですぅ……」


 女王は長い耳をつり上げながら、ご満悦でマリウスを見つめていたがすぐに我へと返った。

 たらたらしていたら日が暮れてしまう。


「シャムシエルの許可は下りたか?」

「ああ、爺さん――じゃなくて、シャムシエル都市長は先制攻撃に賛成した。水攻めを仕掛けよう」


「久方ぶりに会えるかと期待しておったが、こなかったか。まあいずれ会えるかの。では、者共、これよりタイダルウェーブ作戦を――むっっ?!」

「どうした、敵か!?」


「そちが古の女王の妹じゃなっ!? たまらぬ、たまらぬぞ、そのベビーフェイスッ! フ、フォォォォーッッ!!」

「おお、あれが噂の、エロ女王……? わぉ……」


 グラフとグライオフェンが頭を抱えてしまった。

 アストライアは作戦そっちのけで、シェラハと仲睦まじくしているメープルとの間に空気も読まずに飛び込んで、両方を胸に抱き込んだ。


「あの、陛下……? うちのメープルのことは、後で必ず紹介しますから、今は作戦の方を――」

「姉さん、この人、聞こえてないと思うよ……。あ、ども、妹のメープルです」

「陛下っ、士気が下がるのでそれくらいにして下さい!」


 こちらの世界のグラフが不機嫌そうに女王を引っ張りはがすと、さあ始めるぞと熟睡中の技師たちが叩き起こされて、次元を越える水攻め、オペレーション・タイダルウェーブとやらが始まった。


 転移門が開いた状態を保つために、陣地のエルフ全てが魔力をドームへと放ち始めると、青白い柱が天へと上った。

 続けて水門が開かれると、轟々と激しい水音を立てて、それを転移門が無尽蔵に飲み込んでいった。


 川が枯れるか、エルフたちの魔力が尽きるまでこれは続く。いざ作戦が始まってみると、それは根比べもいいところの持久戦だった。


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