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・いともたやすく考案されるえげつない戦略

 リーンハイムに向かったシェラハや、残った師匠たちからの調査報告が届いた。

 向こうからこちらに戻るには、あちらのどこかに眠っている棺を発掘し、2台目の転移門を完成させなければならない。


 そこで伝令役として、アルヴィンス師匠がこき使われることになった。


「師匠がそうやって勤勉に働いているところを見ると、なんか気味が悪いですよ」

「ああ? お師匠様のがんばりを見習えやバカ弟子。……つーか、ツワイクでいけすかねぇ連中の尻拭いばっかしてた頃よか、テメェだってずっといいだろ?」


「否定はできませんね」

「おっ、今戻ったぜ」


 都市長の書斎に爺さんが戻ってくると、師匠は重要な報告があるのか姿勢を正した。


「おかりなさい、アルヴィンスさん。では先に報告を聞きましょう」

「詳しい内容は書類にしてあるが、口頭でざっくり説明するぜ。今あっちではな――」


 師匠の話は多岐に及んだので、ざっくりと要約する。

 彼らはまず特異点、すなわちあの白い棺を探した。


 調査は難航したがついに彼らはそれを見つけたらしい。

 当初は俺たちが転送された城の地下に眠っていると踏んでいたが、どうしても見つからないので、師匠が世界の裏側から歪みを観測することにした。


 その結果見つかったのか、城下町の郊外に眠る古い地下建造物だった。

 シャンバラでもそうだったように、魔物の軍勢は棺の存在していた場所から発生している。


 ならばと棺の周囲に陣地を作り、迎撃する段取りになった。


「――ま、そんな感じでな、上手くは行っている。テメェの嫁さんが谷間を作って頼み込めば、あの女王様は大抵の頼みごとを聞いてくれるしな」

「あの女王にシェラハを近付けるのは不安だ……」

「フフ……大丈夫ですよ。シェラハは偉大なる始祖と極めて似た容姿を持った娘。アストライアも恐れ多くて手を出せないでしょう」


 そう願わずにはいられない。


「脱線はそこまでな。予定通り迎撃はするんだが、結局向こうからこちらへの接続を絶たなければ、根本的な解決にはならねぇ。ってのがマリウスの見解だ」

「ええ、そうでしょうね。そしてこの報告が真実ならば、シャンバラにある棺も危険物であることを意味しますか」


「そうそう。だからよ、バカ弟子。テメェは向こう側からの接続を断つアイテムを作れ」


 ムチャクチャを言ってくる元上司に俺は疲れた顔をさらにしかめさせた。


「んな都合のいいアイテムがあるわけないでしょう……」

「じゃあどうするんだよ?」


 そう聞き返されても困る。俺たちはそれっきり黙り込んで、別の策を絞り出そうとした。

 だがどうにもこうにも出てこない。


「あ、お構いなく……」

「だからお構うわ。こんな大事なときに何してるんだ、お前?」


 借りてきた猫みたいにおとなしくしていたので触れなかったが、姉の報告が聞けると期待してメープルが同席していた。

 いや現在は同席していたメープルが、俺の膝の上に乗って、同じ席に無理やり座ろうとしていた。


「ハハハハ、そっちの嫁さんは予想が付かなくて面白ぇな。マク湖の彫像の件は大爆笑だったぜ」

「やったね、ユリウス……。大爆笑だって……」

「喜ぶな……。師匠、これ以上コイツが暴走したらどうしてくれるんですか……」


「面白ぇからいいじゃねぇか」

「よくねーよっ!」


 つい丁寧語が外れるほどに、超よくなかった……。


「あ、いいこと、思いついた……」

「ほう、聞きましょう」

「お前の思いつきは、いつだってろくなことじゃないだろ……」


 まさか師匠とつるんでいるあのおっさんが、美人化薬の被害者だとは思ってもいなかった。

 女性にしては確かに胸がないし、背が高いので変だと思ったと、この前恨めしそうに睨まれてしまった……。


「あのね、向こうがくるの、待つんじゃなくて……こっちから接続して、迎撃すればいい……」

「お前って……なんでやることなすこと過激なんだ……?」

「いや、だけどそれが出来るならそれにこしたことはないだろ?」

「ええ、敵もよもや先制攻撃が飛んでくるとは思っていないはずです」


 俺たちは考えて、最終的にその案を採用することにした。

 そこで書斎へとマリウスを呼んだ。


「ああ、そのログならこちらの棺に残っていた。俺が行けば接続は可能だろう。だが、どうやって攻める? 一方通行だぞ」

「ならば兵ではなく、毒物――いや、川の水を大量に流し込むというのはどうだ?」


 大量の毒を流し込むには準備が足りない。ならばそこにある物を利用すればいい。

 リーンハイムは湿潤な土地なので、水が豊かだろう。


「えげつな……」

「いいんじゃねぇか? グライオフェンちゃんの世界を侵略した悪党どもだろ? 溺れ死んじまえばいいだろ」

「同感だ。町を蹂躙したとも聞いている。俺も向こうに転移するからその手で行こう」


 こうして水を流し込む方針となって、俺の方は向こう側の転移装置の改造のために、素材の精錬に入ることになった。

 予備パーツのために素材のゆとりはあったが、2台だととても足りない。


 シャンバラが再び一丸となって、急ピッチで迷宮からのレインボージェムの確保に動き出した。

 この作戦はシンプルだが確実だ。こちらから敵を水攻めにしてやろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] もしも相手が豊かな土地、ぶっちゃけると水を求めているなら、水攻めでうぃんうぃんのハッピーエンドになる可能性も?
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