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・日常回 シャンバラでの甘い生活 2/2

「それにグラフさん、今大変なんでしょ……? 自分がもう1人いて、故郷に居場所がなくなってしまっただなんて、そんなの可哀想よ……」

「まあ見た限り、だいぶいっぱいいっぱいみたいだったな」


 グラフはシェラハに懐いていた。

 女王アストライアとのあの関係からするに、グラフにはそっちの気があるようなので、旦那として微妙なところでもあるが……。


「だったらあたしが行って励ますわ! 行かせてくれるわよね、ユリウス!」

「あっち行ったりこっち行ったり飛び回ってる俺が、行くななんて言えるわけないだろ。……寂しいけど行ってきたらいい」


「ええそうよっ、あなたがいない間、あたしたちすっごく寂しかったんだから! 今度はユリウスが思い知るといいわ!」

「ああ、ちょうど思い知っているところだ。……シェラハ、グラフを支えてやってくれ」


 明日は我が身だ。

 俺たちのようなツワイク魔術を学んだ者たちは、いつ時の迷子になってもおかしくない。ただ――


「一言だけ余計なことを言わせてくれ。あっちの女王には気を付けろよ……」

「えっ……? それって、グラフさんが自慢していた素敵な女王陛下のことかしら?」


「素敵、素敵な……。まあ、美しくはあるが……。あれは見た目に反してとんでもない女好きだから、気を付けろよ」

「意味がわからないわ。女王様なら女好きではなくて男好きでしょ?」


「いや……とにかく気を付けろ。話のわかる立派な女王様だが、厄介なので気を付けろ……」


 本当にリーンハイムに行かせて大丈夫だろうか……。

 信じて送り出した最愛の嫁が――いや、シェラハに限ってそれはないか。まるで理解出来ていないみたいだしな……。


「そうだった、言い忘れてた。今回の件が終わったらグラフをうちに置く。本人の希望だ」

「それ本当っ!? 偉いじゃないっ、ユリウスッ、あたしあなたを見直したわ!」


「あ、ああ……。実は反対されたらどうしようかと、心配していたんだが……」

「いいに決まってるじゃない。ふふっ、これからはもっと楽しくなりそうね!」


 俺の嫁はもしかしたら天使なのかもしれない。

 文句一つ言わず、俺たちが勝手に決めたわがままを許してくれた。



 ・



「ユリウス、やるね……。嫁さん3人目、ゲットだぜー……?」

「何言ってんだ? グラフは俺に忠誠を誓っただけだ、そういうのじゃない」


「ううん。そう思ってるのは、ユリウスだけだよ……。ぁっ、姉さん……」


 マリウスの工房あらため転移門にて、俺たちはシェラハの見送りにやってきていた。

 打ち合わせが終わったのか、邸宅からシェラハたち先遣隊が現れると、メープルが姉の胸に飛び込んだ。


「ごめんなさい、行ってくるわ。あたしの分までユリウスをお願いね」

「うん……。一緒に、行こうかと、マジで悩んだけど……。ユリウス放置は、危険……」


「すぐにまた会えるわ。先に行ってるわね」

「うん」


 そこには戦闘員の他にも大勢のエルフが集められていた。

 マリウスいわく1度に50名を運べる巨大転移門も、軍隊を性急にリーンハイムに運ぶとなると全く容量が足りていない。


 市長邸の中は今や人と物資でいっぱいで、広々としたエントランスは足の踏み場もなかった。

 皮肉なことにこの事件をきっかけに、新しい雇用と事業が生まれようとしていた。


「もう行くみたい。えっと、ユ、ユリウス……」

「なんだ? んなっ……!?」

「お、おぉぉぉ……」


 人前だというのにシェラハは旦那の唇を唇に押し付けて、続けて最愛の妹の頬にも接吻した。

 今やシェラハは先遣隊の指揮官だ。注目と歓声が上がっていた。


「さすがマク湖のエロ神たちだ……」

「外でこれなんだから、家じゃもっとお熱いんだろな」

「やっぱり若い子同士っていいわね……」


 誰がエロ神だ……。言ったヤツ出てこい……。

 かくしてシェラハと先遣隊は転移門に消え、天へと飛翔する青白い柱となってリーンハイムへと旅立った。


 シェラハ、女王には気を付けろよ。マジで気を付けろ……。

 女を寝取った男を寝取り返せば総取りというあの発想が本気ならば、女王は――お前を狙う。だからお前はその純真さで、戦い抜け。


「姉さん、行っちゃったね……。寂しいね、ユリウス……」

「ああ、寂しいな」


「じゃあ、寂しいから、人気のないとこで、一緒に、水浴びする……?」

「えっ、一緒に、水浴び……?」


「姉さんいないし、羽伸ばそ……? 堕落しちゃお? あ、ニャンニャンパラダイス、行く……?」

「それはマジで羽目外しすぎだろ……。バカ言ってないで晩飯買いに行くぞ」


 ニャンニャンパラダイスはさておき、メープルと2人だけの水浴び、水浴びか……。

 つい応じかけてしまった俺は、メープルに背中を向けて、乾きかけの白いトーガをはためかせてバザー・オアシスへと歩き出した。


 シェラハがいなくなって俺たちは寂しい。

 おまけにシェラハという歯止めがなくなった今、非常に誘惑にもろくなっている。


「ね……。今夜、どうしよっか……」

「ど、どどどっ、どうもしねーよっ!」


「……献立の話、だったのに」

「うぐっ?!!」


「むふ……♪」


 その日の俺たちは何から何まで意識しまくりだった。


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