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・砂漠の奥地でユリウスは見た 朝日に輝くオアシスの彼方に沐浴に踊る原住民《エルフ》の姿を

 山のないシャンバラの日没は遅く、夜明けは驚くほどに早い。

 明け方の冷え込みに目を覚ました俺は、消えていた暖炉に薪を投げ入れて、炎の魔法で着火した。


 暖炉の炎と分厚い絨毯が冷えた身体を温めると、俺は再び眠りに落ちていた。


 その次に目覚めた頃には、明るく温かな朝日が窓から差し込んでいて、ずっと火に当たっていたせいか、喉がとても乾いていた。


「そういや昨日、あんだけ飲まされたんだったか……」


 脱水症状の原因は暖炉だけではなく、昨日のビール7杯が主要因だろう。

 絨毯から立ち上がり、暖炉の炎をさっと消して、どこかに水瓶はないかと家探しをした。


 見つかった。そんな気はしていたが空っぽだった。

 たかが水のことで2階の姉妹を起こすのもどうかと思い、玄関から外へと出る。


 日差しが暖かく気持ちいい。

 いざ外に出てみると、家の方がずっと寒いくらいだった。


「いいところだな……」


 外に出ると真正面がオアシスだ。

 せせらぎを知らない静かな水面は朝日に白く輝いて、さらに近付いてみると、その透明度の高さが俺を二重に驚かせた。


 水底は泥ではなく白く細かな砂で、ちらほらと小さな魚影が確認できた。


「これ、飲めるよな?」


 膝を突いてすくってみると、湖水は少しぬるかった。

 変な匂いもない。だが人の糞尿が混じっていたらどうしようかと、清らかな湖水と見つめ合った。


「ここは都市長を頼るか。……ん?」


 ところが左手の方角から何かの水音がした。水鳥か何かだろうか。

 湖に膝を突いたまま、何げなしに左に振り返る。


「んな……っ?!」


 それは水鳥ではなかった。

 エルフの長い耳であり、小麦色の肌であり、ひょうたんのようにくびれた女の裸体だった。


 一糸まとわぬシェラハゾが水辺に立っていて、それがまだ沐浴するには少し冷たいオアシスへと、腰まで身を沈めるのを俺は見てしまった。


「ふふ……」


 小麦色の肌が白く輝く水面の上で踊っている。

 冷たい湖水で大きな胸を撫でて、身体にまとわりついた砂埃や汗を流している。


 水中にしゃがみ込んで、跳ねるように飛び上がって、シェラハゾはまるでオアシスの妖精のように笑っていた。


「アイツ、なんか……綺麗だな……」


 しかし人間の目というのは不思議だ。

 集中すると距離感というものが失われ、意識している情景以外が何も見えなくなる。


 褐色の長い耳を持った女が胸を揺らしながら、気持ちよさそうにため息を吐く。

 俺はそれから目が離せない。


 女性をここまで美しいと感じたのは、生まれて初めてのことだった。


「ツワイクは過ごしやすかったけど、帰ってこれてよかったわ……。ふふふっ……」


 人前では少しお堅い彼女が微笑みを浮かべて、ありのままの素顔を露わにしているせいだ。

 オアシスで裸になって、水を浴びて、笑って、素顔を浮かべるその全てが究極の無防備だった。


 砂漠エルフ(デザートウォーカー)はなんて美しい種族なのだろうか。

 俺は身動き一つ出来なくなったまま、彼女が沐浴を済ませてその場を立ち去るまで、ずっと彼女を見ていた。


 朝日に照らされた小麦色の肌は健康的でなまめかしく、水に濡れたブロンドは普段の彼女と雰囲気が違ってとても印象的だった。



 ・



「うっ……」


 激しく心臓が高鳴っている。偶然とはいえ、とんでもないものを見てしまった。

 俺は胸を抱えながら乱れる呼吸を整えて、平静を取り返していった。


「俺、何やってんだ……。こんなところ誰かに見られたら、言い訳出来ないだろ……。だけど、あれ……綺麗だった――フギャァッッ?!」

「よっ、ロリコン……」


 シェラハゾも水を浴びながらそうしていたので、湖水を飲んで気持ちを落ち着かせてから、後ろを振り返ると――ななんと、そこにメープルが立っていた。


「いつからいたよお前っっ!?」

「だいぶ前……? 水、飲もうとしたところから……?」


「いいいい、一部始終じゃねーかっ!!」


 危うくオアシスにひっくり返るところだったが、どうにか踏みとどまった。

 ヤバい、ヤバいぞ、一番ヤバいやつに現場を押さえられたんじゃねーか、これは!?


「気持ちわかる……」

「へ……?」


「私が男だったら、あのボデーは、しんぼうたまらん……しんぼうたまらんぜよ、姉さん……」

「なんで微妙に親父臭い言い方なんだよ……」


「姉さんは、世界で一番綺麗……ユリウスも、そう思う……?」

「その問いには返答しかねる」


「ふ……」


 6つ下の少女に鼻で笑われた。

 彼女に魅力を感じていなかったら、凝視の途中で我に返っていただろう。


「このこと、姉さんに教えてあげたら、喜ぶかな……」

「止めろ……! いや、止めてくれ、止めて下さいお願いします、メープルさん……。それだけはどうか……」


「姉さん、喜ぶと思う……」

「仮にそうだとしてもっ、それじゃ今日からのポーション作りが気まずくなるだろがっ!」


 不思議そうに少女は首をかしげる。

 俺がこんなにうろたえる理由がわからない。そんな顔だった。


「それが面白い……」

「俺は面白くねーよっ!? 頼むから黙っていてくれよっ?!」


「でも、綺麗だったでしょ……?」

「ああ綺麗だったよっ! 認めるからどうか勘弁してくれ!」


 クソ、主導権を奪われてしまった。

 今後このカードを出されたら、俺はそのたびに降伏する他にない……。


「姉さん、いつもこの時間に沐浴する。張っていれば、また見れるよ……」

「え……。マジで……?」


「マジで……。ユリウスが、姉さんに見惚れると……私は誇らしい……ハァハァ」

「お前、やっぱ変……」


 絶句する俺をそのままにして、メープルは家に帰って行った。

 姉は美しく、妹は愛らしいがちょっと変だ。

 俺はシェラハゾがいた水辺に振り返って、記憶の中の情景をそこに重ねた。


「また明日、この時間に起きれば……」


 スケベ心に打ち勝った頃には、もう辺りに誰もいなかった。


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明日も2話更新いたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] そうですね!輝いて見えます!
[良い点] このシーンてどっかでみたような
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