・女王に捧げた剣 1/2
陳情を中断させることになってしまったが、リーンハイムの女王は寛大にもすぐに俺たちに会ってくれた。
グライオフェンが二人に増えた事実にもあまり動じず、堂々とした立派な王者の貫禄を放っていた。
とはいえ俺たちの報告は最初からぶっ飛んでいたので、いかに寛大な精神の持ち主であろうとも受け止めかねたようだ。
そこで美しきリーフシーカーの女王、アイオライア様はこう言った。
「それにしてもいい男よの……わらわは美女と幼い男が大好きだ」
「へ……? 幼いって、まさか俺を見て言ってるんですか?」
辺りを見回しても子供の姿はどこにもない。ここにいるのは俺たちだけだった。
「うむうむ。そちは何歳じゃ?」
「変な勘違いさせて悪いんですが、もう俺、21ですよ……?」
「おぉぉ、ちっちゃくてかわいいのぅ……。さ、ちこう寄れ♪ まずはそうじゃの、わらわの膝に乗るかっ♪」
なんか、グラフから聞いていた人と違う……。
グラフが言うには美しく聡明で何もかもが完璧な大魔法使いらしいのだが、どうも妖艶というか、露出が多いドレスをまとっているのもあいまって、別の意味で近付きがたい人だった。
「女王陛下、一応俺、デザートウォーカー側からの使者なんですが……?」
「うむ、噂は聞いておるぞ、シャンバラに奇跡を起こした錬金術師がいると。だが、わらわはそちのような食べ頃の幼き男が好きだ。幼き娘と同じくらいな……」
女王陛下は蛇のように唇を舐め上げた。
助けてくれと隣のグラフとグライオフェンに流し目を向けると、嫉妬に狂った眼差しが2つ返ってきた……。
「ユリウスッ、陛下を誘惑するな!!」
「そうだ、ヒューマンが汚らわしい目で陛下を見るな!!」
「なんでだよ、怒るならあっちに怒れよ……」
そんな俺たちのやり取りを女王は面白そうに見ていた。
特に付き合いの深い方のグラフと、俺の関係に興味があるようだった。
「すまぬ。わらわのかわいいグライオフェンが2人に増えて、ついついふざけてしもうたわ。クフフ……」
「いや、本気の目に見えましたけど……」
「ユリウスと申したか。かわいいのぅ……」
「それはもういいですから、本題を進めましょう」
「ふむ……」
俺たちをからかうのを止めて、女王は考え込み始めた。
グラフが2人ここに存在していること。それは状況証拠にはなるが、未来の存在を証明するものではない。
「お気持ちはお察しします。どんな命令を下すにしても、それらしい理由が必要でしょう」
「うん、そうなのじゃ♪ そこはそちと個室でゆっくりしたら、何か思い付くかもしれぬのぅ……♪」
「そろそろグラフがキレますよ」
「うむ、ではこうしよう。そちが本当に未来からきたというならば、これから起きることも知っているはずだ。何か言い当ててみせよ」
「えっ……? い、いえ陛下、そんなこといきなり言われても、そう都合よくポンポンと言い当てられるわけないですよっ!?」
まあそうだろうな。
それができたら未来人ではなく預言者だ。あるいは凄まじい記憶力の持ち主だろう。
そうしてグラフがしばらく困っていると、謁見の間にお仕着せを着た侍女がやってきた。
何やら水差しとバケツを持っている。会談中にマイペースに自分の仕事をする姿もあって目を引いた。
「一つだけ思い出した……」
「ほう?」
「あの子、あそこの花瓶をひっくり返す」
俺たちが注目すると、侍女は花の活けられた花瓶を本当に手から滑らせていた。
だが歴史を変えられるかどうかのいい実験台でもあったので、俺も預言に介入してみることにした。
「あっ……?! す、すみませんっ、助かりました……。ああよかった、私、またやっちゃっうところでした……」
いつものように高速転移して、花瓶と侍女の両方を受け止めると、全て俺の手柄になっていた。
どうやら小さな事実は変えられるようだ。




