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・転移装置完成 いざ森エルフの国へ! 3/3

「本当によろしいのですか?」

「それはこっちのセリフだな。行っていいのか?」


「……娘たちのことを考えると、行くなと叱り付けたくもなりますが、すみません、行って下さい」

「大丈夫だ。どこに飛ばされようと俺はシャンバラに戻る」


「ユリウスさん、そういった縁起でもない言い方は避けて下さい」

「だがどうなるかもわからんだろう。言うだけ言っておくよ。人助けが動機とはいえ、俺たちはヤバい技術に手を出してると思う」


「ええ、そうですね……。ですがそれでも、私は仲間を助けたいのです。お願いします、ユリウスさん……」


 都市長とも話がついた。

 シャンバラと娘のことだけを考えるならば、師匠だけを実験台にするべきだったが、都市長は同胞リーフシーカーの救援を取った。


 かくして俺は都市長を連れてあの殺風景な工房へと戻り、再び奇妙なその場所を確認した。

 工房は外から見ると、増設により白い半円状の形状になっている。


「工房? ここはもう工房ではないよ。そうだな、名付け直すならばここは【転移門】だ。この建物そのものが転送装置のカゴなのさ」


 戻ると内部に無数の砂袋が詰め込まれていた。

 長ったらしいマリウスの解説によると、合計で3000kg分あるそうだ。


 まず第一陣としてこれを向こうに飛ばし、その後に斥候であり諜報員である俺たちを飛ばすと説明された。

 それと建物の外には、スラム街から連れてきたと思しきエルフたちが集められていた。


「君たちは向こう側に砂袋が全て運ばれているかどうか。状態の確認をしてくれ。100人送ったら数人消えていたなんて悲劇は避けたい」

「テメェな、飛ぶ前にそういう怖ぇぇこと言うなよっ!?」


「最悪の可能性を言っただけだ。嫌なら降りればいい」

「はっ、白いエルフちゃんだらけの国を俺が諦めるわけねーだろ」


 エルフは誰しもが魔力をもつため、このプロジェクトが成功すれば迷宮で戦えないスラム民も仕事を得ることが出来るだろう。

 この技術は、エルフの国シャンバラだからこそ実現可能なものだった。


 そういうことで実験開始だ。

 俺も魔力の供給に加わることにした。


「待て! 魔力お化けのお前が加わったら実験にならないだろ!」

「違いねぇ。ソイツは女の尻も撫でられないヘタレのくせに、魔力だけは一人前だからな」


 師匠は口が悪過ぎる。ヒューマン代表がこんな不良オヤジで本当に大丈夫だろうか……。

 ヒューマンと森エルフとの間の国際問題になったりしないよな……?


「じゃあ、ここは、姉さんのお尻、撫でよ? ねちっこく……」

「えっ!? えっえっ……そ、そんな、人前ではダメよ……っ」

「撫でるわけねーだろ……」


 俺たちがバカなやり取りをしている横で、エルフたちの魔力が白亜の建物を青白く輝かせた。

 あの建物の中で、俺たちの転移魔法と同一の力が膨れ上がり、やがてあの日見た光の柱が天高く立ち上るのを再び目撃することになった。


「見ろっ、成功だ! 成功したぞ!」


 マリウスがはしゃぐように中を確認すると、中に残っていたのはあの棺だけだ。

 3000kgの砂袋が全て消えていた。


 ちなみに集められたエルフは50名ほどだ。

 人数もあって負荷が分散したのか、これだけの大魔法だというのにまだ2、3回は同じだけの魔力供給が出来そうだと答えていた。では実験本番と行こう。


「次は俺たちだな」

「自分で飛べるのに、誰かに飛ばしてもらうってのも妙な感じだな」

「ついにこれで戻れる……。待っていて下さい、陛下……ボクは、ようやく貴女の下に、再び……」


 ところが『さあ行こう!』と前に進み出そうとすると、正面を小走りで飛んできた姉妹にふさがれた。

 俺がどこかに行こうとすると、この2人はいつだってこうだ。しかし今回はいつもに増して不安げだった。


「おっと……お、おい、人前でこういうのは……」


 左右からひしりと抱き着かれた。

 俺が言っても離れる気は全くなさそうだった。


「あなたなら大丈夫だとわかっているけど、それでもあたし心配よ……。こ、こんなことなら、メ、メープルが言うとおりに、していればよかったわ……」

「何を吹き込まれたんだ……。俺なら大丈夫だ、必ず戻る」


 人前でモジモジしながら際どい表現をされると、スケベ心よりも羞恥心による冷や汗の方が勝った。

 マリウスはもちろん、そんな俺の姿を怖い顔で睨んでいた。



「一応聞くけど、どんな、お墓がいい……?」

「お前、そうやって人を脅かすなよ……。けどそうだな、作るなら愉快なヤツで頼む。辛気臭いのはダメだ」


「おっけー。あ、そだ……んちゅーっ……」

「ンブッ、ンッ、ンッンムゥゥッッ?!!」


 これについては具体的な表現は控えたい……。

 ぬらりとした熱いやつが入ってきて、頬にもやわらかな感触が走った……。

 出陣前だというのに、全身が熱く火照った……。


「ンフフ、無事に戻ったら秘蔵の38年物を開けてあげるわ♪ いってらっしゃい、あたしの、お・じ・さ・ま♪」

「エルフも色々いるけどよ、てめーが1番濃いわ……。その約束、忘れんなよ?」


「ええ、ニャンニャンパラダイスでまた会いましょ!」

「あ、いいなー……」


 師匠とカマとの間に友情が芽生えているのを遠巻きに眺めていると、メープルが加わろうとしたので引っ張り戻した。

 ネコヒトだらけのキャバクラって、そんなにいいものなのか……?


 2人の楽しそうな様子に、少しだけ興味を覚えてしまった自分に戸惑った。

 陽気なネコヒト族に接待されるのは、楽しそうではあるか。


「じゃ、またな」

「うん……あたし、待ってるから……」

「姉さん、そういうの、フラグだよ……?」


 順番に嫁さんの背中を抱いて、出来るだけ素直に笑い返して転移門に入った。

 外から魔力がかけられると視界が青白く染まり、やがて光のほとばしりと共に俺たちは世界の裏側へと引きずり込まれた。


 魔術師の転移との差異は、転移魔法が世界の裏側に潜るだけの力だとするならば、転移装置は世界と世界を繋ぐ濁流だ。

 激しい流れに俺たちは押し流され、1分にも満たない圧倒的な速度で運ばれると、裏側の世界から押し出されていた。



 ・



 かくして転移は成功した。

 だが、向こう側の世界で俺たちは奇妙としか言いようのない事実に直面した。


 理論上はあり得る。ならばこのグライオフェンの正体は……。

 その結末は彼女にとっての幸運であり、大きな悲劇でもあった。


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